NHK放送受信料の合憲性に関する法務大臣の意見書

第0 法務大臣の意見書

1(1) 本ページでは,NHK放送受信料に関する放送法64条1項は合憲であるとする,平成29年4月12日付の法務大臣意見書をテキストデータに変換してそのまま貼り付けています。
   ただし,読みやすくなるよう,見出し部分を太字にしたり,大事な場所を赤字にしたりしています。
(2) ちなみに,NHKの受信料債権の消滅時効は,民法169条に基づき5年です(最高裁平成26年9月5日判決)。
(3) NHK受信料訴訟に関する最高裁大法廷の弁論期日は平成29年10月25日午後2時にあります(裁判所HPの「最高裁判所開廷期日情報」参照)。

2 法務大臣意見書の目次は以下のとおりです。 

第1 はじめに 3
第2  我が国の放送法制の沿革 5
1 戦前の放送法制 5
2 戦後の放送法制定までの経緯 8
3 放送法改正の動き 17
4 現在の受信料規定 19
第3 諸外国の放送制度 20
1 アメリカ 21
2 イギリス 21
3 フランス 22
4 ドイツ 23
5 大韓民国(以下「韓国」という。) 24
6 小括 25
第4 本件規定の趣旨・目的 25
1 法の規定 25
2 公共放送の社会的使命 30
3 公共放送にアクセスできる受信設備段置者から公共放送の運営資金を徴収するというー種の「受益者負担」の方法を採用したこと 32
第5 本件規定の憲法適合性 35
1 契約自由の原則(憲法13条,29条) 35
2 財産権(憲法29条) 37
3 幸福追求権,思想良心の自由,表現の自由(憲法13条,19条,21条1項) 37
4 平等原則(憲法14条) 39
5 国会の権能等(憲法41条,73条6号) 40
6 租税法律主義(憲法84条) 41
第6 その他の法の解釈論 42
1 本件規定の法的性質(本件規定は受信契約の締結を私法上義務付けるものか否か) 42
2 受信料の支払義務の発生時期 43
3 協会の公共性確保のための仕組み 44
第7 結論 48
平成29年1月18日付の,最高裁長官の法務大臣に対する手紙
平成29年4月12日付の,法務大臣意見書の表紙
平成29年4月12日付の,法務大臣意見書の目次1/2
平成29年4月12日付の,法務大臣意見書の目次2/2

第1 はじめに

1 放送法64条1項(以下「本件規定」という。)は,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約をしなけれぽならない。」と定めている。
   本意見書は,本件規定の趣旨・目的とその憲法適合性等について意見を述ぺるものである。
   まず,意見の概要を述べる。
2 そもそも公共放送には,あまねく日本全国において放送を受信できるようにし,地震,津波,台風等の天変地異等が発生した場合や,我が国の領土や国民に対する武力や化学兵器等による内外からの攻撃があった場合に,公共放送を受信することができる受信設備を通じて,国民に,時々刻々と変化する状況に関する情報を正確かつ具体的に提供し,国民が自らの生命,身体,財産等を最大限守るために適切な行動をとることができるようにするという重大な社会的使命がある。
   これは,自国の領土と国民を守るという国家の責務を具現化するものであるとともに,危急時に,国民に対し,生命,身体,財産等といった重要な法益を自ら守るのに必要な的確な情報を提供するものであり,公共放送は,国及び国民にとって重要なインフラストラクチャーである。そのため,先進諸外国において,例えば,グレートプリテン及び北アイルランド連合王国(以下「イギリス」という。)においてはイギリス放送協会(BEC),アメリカ合衆国(以下 「アメリカ」という。)においては公共放送サービス(PBS),フランス共和国(以下「フランス」 という。)においてはフランステレビジョン等, ドイツ連邦共和国(以下「ドイツ」という。)においてはドイツ公共放送連盟(ARID) 等など,諸外国においても,公共放送が創設され,今日に至っている。
   しかし,公共放送を国有化して国営放送とするならば,国家の過剰な介入を招き,ー定の国家目・的のために事実とは異なる内容の放送がされる可能性も否定できないし,他方で,公共放送の運営資金を広告収入で賄うこととするならば,スポンサー企業等がその放送内容について干渉や指示等を行うことになり, 視聴率やスポンサー企業等の利益を擁護するなどのために,公共放送が上記の重大な社会的使命を全うできなくなる可能性もある。
   そこで,本件規定は,日本放送協会(以下「協会」という。)の放送を受信することのできる受信設備を設置して,上記のような重要なインフラストラクチャーにアクセスできるという利益を享受する者に公共放送の運営資金としての受信料を負担させるという一種の「受益者負担」の方法をとることで,公共放送が受信設備設置者に対し天災や有事等について時々刻々と変化する状況に関する情報を正確かつ具体的に提供することができるようにし,もって公共放送にその重大な社会的使命を全うさせようとしたものである。
3 この点,協会の放送を視聴したくない者が,協会との受信契約の締結を強制されることは「契約自由の原則」に反する,あるいは「視聴したくない自由」 が侵害されるから,憲法違反であるなどの主張がされることがある。
   確かに,本件規定は,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」は「協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」としており,ー見,そのような指摘にも理由があるように見える。
   しかし,公共放送は,危急時に,国民に対し,生命,身体,財産等といった重要な法益を自ら守るのに必要な的確な情報を提供するという重大な社会的使命を負っており,受信設備設置者には,このような生命,身体,財産等に関わる重要な情報にアクセスすることが可能な地位が確保されるのであるから,受信設備設置者に公共放送機関である協会と受信契約を締結させて,その者から受信料を徴収するという一種の「受益者負担」の方法をとることは,何ら不合理ではなく,それをもって,「契約自由の原則」や「視聴したくない自由」を侵害し,憲法に違反するものであるという主張は,当たらない。
4 以下,本件規定の趣旨・目的とその憲法適合性等について詳述していくが,その前提として,我が国の放送法制の沿革(第2)と,諸外国の放送制度(第 3)を概観した上で,本件規定の趣旨・目的を述べ(第4),そこで述べる趣旨・目的を有する本件規定が憲法に適合するものであることを述べる(第5)。さらに,本件規定がいかなる態様で受信契約の締結を義務付けるかなど,その他の法の解釈論を述べる(第6)。
   なお,本意見書の引用文献等については,別紙のとおりである。

第2 我が国の放送法制の沿革

   我が国の放送法制の沿革について概観する。
1 戦前の放送法制
(1)無線電信法等の規律及び社団法人日本放送協会の設立
   戦前における我が国の放送は,大正4年に制定された無線電信法(大正4 年6月21日法律第26号)により規律されていた。同法は,1条において, 「無線電信及無線電話ハ政府之ヲ管掌ス」と定め,2条において,無線電信及び無線電話を私設するには主務大臣の許可を要する旨定めていたところ, 当初,私設の無線電信及び無線電話は,船舶通信等の極めて限られた範囲においてのみ許可されていた。しかし,次第に,放送用私設無線電話(ラジオ) の必要性が広く認識されるようになり,逓信省は,大正12年8月30日,「放送用私設無線電話ニ関スル議案」により,ラジオ放送の許可及びラジオ受信設備設置の許可についての方針を決定した。同年9月1日に発生した関東大震災の当時,通信・報道手段は電報と新聞が主であり,地震や火災によってこれらの機能は麻癖したことから,関東大震災を機に,天災の多い我が国には同時通信の施設が不可欠のものであり,放送無線電話の急速な実施を図るのが最適の方策であるという放送促進論が生じ,放送関係の法整備を促す一因となった(読みとく35ページ)。逓信省は,同年12月20日,放送用私設無線電話規則(大正12年12月20日逓信省令第98号)を公布・施行し,ラジオ放送の許可及びラジオ受信設備設置の許可についての規定を設けた(金鐸1ページ,五十年史5ないし14ページ,五十年史資料編41ないし48ページ)。
   ラジオ放送事業の経営形態について,無線電信法や放送用私設無線電話規則の中には規定がなかったが,「放送用私設無線電話ニ関スル議案」の中で, 新聞社,通信社及ぴラジオ製作・販売業者を網羅する民営の組合又は会社を適当とすること,経営はラジオ製作・販売業者からの分担金及び「受信装置者」から徴収する「受信料金」によること,広告放送は許可しないことなどの方針が示されていた。しかし,大正13年8月,逓信大臣は,放送事業の経営組織を営利を目的としない公益法人とする新方針を決定し,同年から大正14年にかけて,社団法人東京放送局,社団法人大阪放送局及び社団法人名古屋放送局の設立を許可した。その後,逓信省は,三局を合同して全国組織体を作る構想を進め,大正15年,全国単一の社団法人によってラジオ事業を行うことなどを盛り込んだ全国放送網計画と新社団法人組織案を決定した。この決定に基づき,社団法人三放送局は解散され,同年8月6日,逓信大臣は,新たに社団法人日本放送協会の設立を許可した(五十年史14ないし21ページ,41ないし44ページ,五十年史資料編57ないし59ぺー ジ,162ないし168ページ)。
   このようにして,我が国の放送は,法律上は放送事業の独占については何ら規定をしていなかったが,逓信大臣の自由裁量によって,同年以降,社団法人日本放送協会による単一独占放送方式の下で運営されることとなった。
(2)聴取料制度
   放送用私設無線電話規則は,13条において,「放送事項ノ聴取ヲ目的トスル私設無線電話ヲ施設セムトスル者ハ願書ニ左ノ各号ノ事項ヲ記載シタル書類並相手放送施設者ノ承諾書ヲ添付シ所轄逓信局長ニ差出スヘシ」と定めた (上記規定中「承諾書」の添付を求める部分は,後に「聴取契約書」の添付を求めるものに改正された。)(五十年史資料編49ページ)。すなわち,ラジオ受信股備を設置しようとする者は,放送局と聴取契約を締結し,聴取契約書を添付しなければラジオ受信設備の設置許可を得ることができないこととされていた。そして,同規則は,11条において,「放送施設者第十三条ニ依ル私設無線電話施設者ョリ聴取料金ヲ受ケムトスルトキハ予メ其ノ額ヲ定メ逓信大臣ノ認可ヲ受クヘシ」と,聴取料金について逓信大臣の認可にかからしめる旨定めた。上記制度の下,受信設備設置者は,社団法人三放送局(後の,社団法人日本放送協会)との間で聴取契約を締結し,各法人に対し聴取料を支払う義務を負った。聴取料の支払確保は,受信設備設置許可と聴取契約締結とをセットとしていたことに加え,無許可の受信設備設置は無線電信法所定の罰則の対象であったことにより担保されていた。こうして,受信設備設置者と放送事業者との間に締結される契約に基づき受信設備設置者が放送事業者に直接聴取料を支払う制度は,ラジオ放送創設当初に創設されたものであった。
(3) 戦前の放送統制
   戦前の放送は,発足当初から政府の監督下に置かれ,無線電信法を始め各種の法令によって拘東されていただけでなく,実際の放送事項,つまり番組内容についても,逓信省が大正13年2月26日に定めた放送用私設無線電話監督事務処理細則に基づく検閲や,政治上の議論,外交又は軍事の機密等について放送することを禁止する通達を発出することなどによる取締りが行われていた(五十年史32ページ,五十年史資料編54ないし56ページ)。
   放送の取締りは,戦間期の国内情勢の緊迫化とともに強化され,放送用私設無線電話規則の改正(昭和4年逓信省令第55号)による所轄逓信局長の監督権強化や,情報委員会官制(昭和11年勅令第138号)による内閣情報委員会の発足,さらには,内閣情報部官制(昭和12年勅令第519号) による内閣情報委員会に代わる内閣情報部の設置により,放送に対する統制も強化された(五十年史105, 106及び116ページ,五十年史資料編50, 63及び64ページ)。
   昭和13年4月1日,国家総動員法が制定された後,昭和14年7月26 日,社団法人日本放送協会内に時局放送企画協議会が設置され,内閣情報部の指導の下に番組の企画編成を行うこととされた。逓信省や内閣情報部は, これを通じて放送番組の編成に直接介入することができるようになった(五十年史128及び129ページ)。
   情報局官制(昭和15年勅令第846号)により,内閣情報部は内閣情報局へと拡大強化され,放送事項に関する指導取締に関する事務は逓信省から内閣情報局へと移管され(「情報局逓信省両庁間ニ於ケル放送関係事務処理ニ関スル閣議了解事項」(同日閣議決定)),言論統制の一元化が図られた(五十年史資料編64及び65ページ)。
   昭和16年12月8日の太平洋戦争開戦前後,放送の戦時体制化はより強化され,社団法人日本放送協会の全番組は戦時編制に切り替えられた。内閣情報局は,「国内放送非常態勢要綱」(昭和16年)及ぴ「戦時下の国内放送の基本方策」(昭和17年)を示し,「放送の全機能を挙げて大東亜戦完遂に適進す」ることを目的として掲げ,放送番組を全て国家目的に即応させるなどの方針を示した(五十年史資料編69及び70ページ)。
2 戦後の放送法制定までの経緯
(1)連合国総司令部(以下「GHQ」という。)の民主化政策
   GHQは,占領開始後,ポツダム宣言及び昭和20年9月22日公表の「降伏後ニ於ケル米国ノ初期ノ封日方針」に示された連合国の対日管理の基本原則である非軍事主義化と民主化政策に基づいて,放送と政府を分離するー連の措置を執った(例えば,同年9月10日付け「言論及新聞ノ自由ニ関スル覚書」,同月24日付け「新聞ノ政府ョリノ分離ニ関スル覚書」,同月27日付け「新聞及言論ノ自由ヘノ追加措置ニ関スル覚書」,同年10月4日付け「政治的民事的及宗教的自由ニ封スル制限ノ撤廃ニ関スル覚書」。)。また,GHQは,同年9月22日,「日本ニ奥フル放送準則」(いわゆる,ラジオ・コー ド)を定め,これにより,主に,報道放送は厳重真実に即応すること,直接又は間接に公共の安寧を乱すような事項を放送しないこと,連合国に対し虚偽や破壊的な批判をしないこと,報道放送において編集上の意見を加えないこと等を命じた。これらの覚書は,言論の自由を奨励するー方で,連合国及びその軍隊の利益は厳重に保護するという姿勢を打ち出し,同時に,新聞や放送番組の編集の基準,あるいは違反に対する規制方法を示したものであった。そして,この基準に従って,内閣情報局が放送原稿を検閲した上で,これをGHQ内にある民間検閲局に提出するという放送の事前検閲が始まり, 占領後2年後にはこれが事後検閲へと改められ,昭和24年に廃止されるまでこれが続いた(五十年史204ないし209ページ,五十年史資料編75 ないし78ページ,読みとく38ページ,占領下3ないし44ページ)。
(2) 日本放送協会の再組織と民間放送事業者構想
   GHQは,上記のように,占領開始後から言論・報道の自由や放送準則等について指令を発したが,我が国の放送の今後の在り方の全体について,具体的な方針を示さない状態が続いた。
   ー方,日本国内においては,終戦直後から民間放送事業者設立の動きが存在し,多くの実業家等は,戦時中に放送が国策宜伝機関へと変質し,世論を誤った方向へ誘導したことを問題視し,その反省から,新しい放送事業体として民間放送事業者を設けるべきと考えていた(五十年史231ページ,読みとく38ページ)。
   日本政府は,昭和20年9月25日,「民衆的放送機関設立ニ関スル件」を閣議決定し,社団法人日本放送協会のほか,民間放送事業者に対し許可を与えるという方針を明らかにした。なお,この「民衆的放送機関」は,飽くまで社団法人日本放送協会の存続を前提に,同協会と並立するものと考えられており,同閣議決定には,備考(2)として,「日本放送協会ハ差当リ現在ノ形態ヲ持続シ必要ニ応ジ将来所要ノ改善ヲ加フルモノトス」と付記された(金深2ページ,五十年史資料編80ページ,占領下37及び38ページ)。
   しかし,GHQは,同年12月11月,「日本放送協会ノ再組織」に関する覚書(通称「ハンナー・メモ」)を日本政府に交付し,その中で,,公共放送機関として社団法人日本放送協会を存統させること,同協会の会長に助言するための顧間委員会を新設し,同委員会を通じて同協会の運営を徹底的に民主化することを方針として指示した。なお,上記メモの手交の際,民間通信局 (以下「CCS」という。)ハンナー大佐は,このメモはGHQが商業放送を許可しないことの意思表示と理解するようにと口頭で説明を加えたと言われている。昭和21年12月から昭和22年1月にかけて開催された対日理事会においても,同協会による独占放送方式の維持に賛成し,民間商業放送には反対する意思が表明された(内川276, 277, 280ないし283, 290ないし292ページ,五十年史234, 235ないし254ページ, 五十年史資料編80及び81ページ,占領下49ないし54, 93ないし1 30, 360,361,371ページ)。
   これを受けて,逓信省電波局は,暖昧な状態となっていた民間放送事業者問題に関する政府としての態度を固め,同年2月14日付け「新放送機関の設立について」,同日付け「第二放送について」,同月18日付け「新放送会社設立許可申請の処理について」において,民間放送事業者を設立して複数競争方式を実現するという方針を飽くまでも維持するが,我が国の受信設備等の生産状況あるいはGHQの方針等を考慮して,「当分の間」民間放送事業者は許可できないという方針を示した(内川293ないし296ページ,五十年史254及び255ページ,五十年史資料編81及び82ページ,占領下130ないし134ページ)。
(3)放送法制定の動き
   戦後初期のこうした伝統的放送体制の変容。改変の過程から,間もなく新憲法体制下の新しい放送法制定の動きが始まった。
   昭和21年10月10日,CCSは,逓信次官に対し,同年11月3日公布予定の日本国憲法の実施に伴う逓信関係法令の改編整備を指示した。その内容は,逓信関係法令に対しそれぞれ必要な改正を加え,もって,①これを新憲法に即応するものたらしめ,②通信を完全に民営化し,これに対する軍の統制,影響の痕跡を永久に除去し,且つ,③法令内にある時代後れの箇所を改めて現代的なものとすることを指示するものであった。これを受けて,逓信省は,同年11月1日,逓信省大臣官房内に臨時法令審議委員会を設置し,関係法令の整備作業に着手することとなった(内川287及び288ペ ージ,五十年史252及び253ページ,占領下91及び92ページ)。
   昭和22年10月1 6日,CCSは,日本放送法に関する会議において, 逓信省及び社団法人日本放送協会に対し示唆を与えた(通称「ファイスナー・メモ」)。その要点は,①放送法は,放送の自由,不偏不党,公衆に対するサービスの責任の充足及び技術的諸基準の遵守という4つの重要なー般原則を反映すべきであること,②放送を管理し,また,放送を運用する公共機関を設立し,同公共機関はいかなる行政官庁や団体からも独立した自治機関であり,同公共機関は全ての受信設備所有者から聴取料を取る権利を規定によって与えられるぺきであること,③公共放送と民間放送との二本立てによる複数競争方式を採用することなどであった(内川304ないし312ページ,五十年史258及び259ページ,五十年史資料編82及び83ページ,占領下149ないし163ページ)。
   以後,ファイスナー・メモにより示された公共放送と民間放送との二本立てとする基本方針に沿って立法作業が進められ,制定した放送法においても, 二本立て体制が採用された。
   公共放送と二本立て体制につき,立法担当者である網島毅電波監理長官は,昭和25年1月24日第7回国会衆議院電気通信委員会において,「わが国の放送事業の事業形態を,全国津々浦々に至るまであまねく放送を聴取できるように放送設備を施設しまして,全国民の要望を満たすような放送番組を放送する任務を持ちます国民的な公共的な放送企業体と,個人の創意とくふうにより自由閥達に放送文化を建設高揚する自由な事業としての文化放送企業体,いわゆる一般放送局または民間放送局というものでありますが,それとの二本建としまして,おのおのその長所を発揮するとともに,互いに他を啓蒙し,おのおのその欠点を補い,放送により国民が十分福祉を享受できるようにはかつているのであります。次に公共的な放送企業体としましては,現在我が国の放送を独占的に実施しております日本放送協会が,約六千人の社員によつて構成される社団法人であるにかんがみまして,新たに全国民に基盤を持つ公共的な特殊法人である日本放送協会を設けることといたしまして, 現在の社団法人日本放送協会の設備,人員,権利義務の一切を,新しい日本放送協会に移しまして,現在の社団法人日本放送協会は解散するものといたしたのでございます。従いまして新しい日本放送協会につきましては,全国民が国会を通じてその人事,業務の運営,財務等について必要な監督を行うのでございます。」などと説明した(昭和25年1月24日第7回国会衆議院電気通信委員会議録第1号20ページ)。また,社団法人日本放送協会会長の古垣鉄郎は,同年2月7日,衆議院電気通信委員会公聴会において,放送法案について,経営委員会の権限の弱さと監督行政の複雑さなどの点には反対を表明しながらも,この法案が,「・・・放送が最大限度に普及されて,その公共性が十分に保障されること,及ぴ放送の自由を確保して,放送が健全な民主主義の発達に資することを理想とし目標とする点において,この法案に賛成」すると述べた上で,「・・・日本全国どこでも聞かれる公共放送を中心として,これに配するに自由企業の商業放送をもつてし,両者の短を補い, かつ両者の長を十分発揮せしめるという趣旨であろうと拝察いたします。この意味におきまして,この法案は確かに進歩的な,また野心的な法令でありまして,私どもはそれが国民全体の利益を増進することであり,少なくともそれが国民大衆の利益,利便を現実にそこなわない限り,新しくできるであろうところの商業放送に対して,協力を惜しむものではありません。NHK は世間でいろいろと手きびしい批判をこうむつてはおりますけれども,何と申しましても,わが国においては唯一の経験者であり,しかもニ十五年という世界の放送史上で比較的長い経験を有する事業体でもありますから,私どもは今後商業上の目的をもつて新しく放送をお始めになる他の事業体に対しましても,その健全な発達に及ぱずながら欣然御加勢いたしたいと考えるものであります。私どもはこの見地から,放送事業の各部門について,具体的な協力方法の検討を進めたいと考えておるのであります。」と述べている(昭和25年2月7日第7回国会衆議院電気通信委員会公聴会議録第1号7ぺー ジ)。
(4)受信料規定等の変遷
   通信関係法令の改正への動きが進む中で,以下のとおり,放送法案における受信料規定も変化していくこととなった。
ア 受信料支払義務方式(昭和23年1月案,同年2月案及び同年6月案(第2回国会提出))
   昭和23年1月20日の放送草案では,従来のような受信設備設置の許可制こそ盛り込まれなかったものの,受信設備設置の届出義務を規定し(7 5条),無届けで受信設備を設置した者に対する罰則規定を設けた(105 条)。受信料及びその支払義務については,「標準放送を受信し得る設備をした者は,第五十一条に規定する受信料を日本放送協会に支払わねばならない」(79条)と規定した(村上35及び36ページ)。
   同年2月20日の放送法案では,同年1月案に存在した受信設備設置の届出義務と受信料の支払義務とを組み合わせる規定が廃止され,受信料については,「協会は,協会によつて提供された種類の放送を受信できる設備をした者から受信料を徴収することができる。」(3 8条1項)と規定し, 放送協会の受信料の徴収権を認めていた(村上36及び37ページ)。逓信省としては,公共放送の財源確保のために受信設備設置の届出義務と受信料の支払義務を連動させる規定を維持したいとの考えを有していたが,G HQが行政行為と私的な契約を組み合わせることに反対したために廃止されたとも言われている(村上37ページ)。また,同年前後には,聴取料収入によって安定的に社団法人日本放送協会の運営が行える見通しが立つ状況になってきた面も,かかる規定の廃止に影響を与えたと考えられている (村上35及び36ページ)。
   同年6月18日,同年2月案にccsの修正意見等を踏まえて修正を加えた放送法案が第2回国会に提出された。同法案では,「無線電信法(大正四年法律第二十六号)第二条の規定にかかわらず,何人も,自由に受信設備を設置し,放送を受信することができる。但し,日本放送協会の提供する放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,第三十九条に定める受信料を支払わねばならない」(6条1項)と規定し,受信設備の設置の自由を明記するとともに,受信料の支払義務を明示した。また,「協会は, その提供する放送を受信することのできる受信設備を設置した者から,受信料を徴収することができる。」(39条1項)と規定し,日本放送協会の受信料の徴収権を認めた(内)II 3 1 2ないし314ページ,村上38ないし40ページ,占領下163ないし206ページ)。
   しかし,第2回国会は,実質審議に入ることなく閉会し,その後内閣交代等のため,第3回及び第4回国会では放送法案は提出されなかった(内川314ページ)。
イ 契約締結擬制方式(昭和24年3月案,同年8月13日案)
   その後,放送法案の受信料に関する規定に大きな変化があったのは,昭和24年3月1日の放送法案であった。それまで「受信の自由」に盛り込まれていた「受信料を支払わねばならない」とする規定(6条1項)は削除され,受信料に関しては,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約を締結したものとみなす。」(38条1項)と規定された。
   同年8月13日の放送法案では,電波の受信に関わる規定は電波法に盛り込まれたことから,「受信の自由」に関する規定が放送法案からなくなり, 受信料に関しては,「協会の標準放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約を締結したものとみなす。」(2 9条)と規定された (国立公文書館所蔵「放送法案」(昭和24 年8月13日))。
   これらは,支払義務という強制色の強い規定を排除する一方で,「契約の擬制」という手段によって,受信料制度の維持を狙ったものと考えられている(占領下224ないし265ページ,村上41ページ)。
ウ 契約締結義務方式(昭和24年8月27日案,同年10月案及び成立した放送法案)
   昭和24年8月27日の放送法案では,上記の契約締結擬制方式から,「協会の標準放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。2 協会が前項本文の規定により契約を締結した者から徴収する受信料は,国会が定める。」という契約締結義務方式に規定が修正され(28条)(国立公文書館所蔵「放送法案」(昭和24年8月27日),村上41及び42ページ),この放送法案は,若干の修正が加えられ,同年10月12日に閣議決定され,第7 回国会に提出された(内川324及び325ページ,放送五十年史264 及び265ページ,村上4 3及び44ページ)。
   国会審議の結果,放送法(昭和25年5月2日法律第132号)(以下「法」 という。)は,昭和25年4月26日に成立し,同年5月2日に公布され,同年6月1日に施行された。成立当時の法は,32条において,「協会の標準放送(535キロサイクルから1, 605キロサイクルまでの周波数を使用する放送をいう。)を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。但し,放送の受信を目的としない受信設備を設置した者については,この限りではない。2 協会は,あらかじめ電波監理委員会の認可を受けた基準によるのでなければ,前項本文の規定により契約を締結した者から徴収する受信料を免除してはならない。3 協会は,第1項の契約の条項については,あらかじめ電波監理委員会の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも同様とする。」と定められた。
   上記の国会審議において,放送法案を策定した電波庁の網島毅電波監理長官は,契約締結義務方式を採用したことについて,「日本放送協会がここに何らかの法律的な根拠がなければ,その聴取料の徴収を継続して行くということが,おそらく不可能になるだろうということは予想されるのでありまして,・・・強制的に国民と日本放送協会の間に,聴取契約を結ばなければならないという条項が必要になつて来る」,「この料金は日本放送協会と聴取者の契約ではございますが,法律でもつてこれを強制しておるのであります。自分がいやだからと言つて,契約を結ばないというわけには行かないのでありまして,最後に裁判所で問題になつたときも,やはりこの条文が生きて来ると思うのであります。」(昭和25年2月2日第7回国会衆議院電気通信委員会議録第4号6ページ)と答弁した。
エ 本件規定の変遷の趣旨
   上記アないしウの本件規定の文言の変遷は,協会の財源である受信料を確保するという要請を充たしつつ,そのための手段から強制性の要素を極力減らすという方向に内容を変化させていったものである(占領下441 ページ,証言(I) 53ないし56ページ)。
3 放送法改正の動き
(1)昭和41年放送法改正案
   当時の郵政省設置法に基づいて郵政大臣の諮間機関としで設置され,法や電波法の改正問題を審議していた臨時放送関係法制調査会は,昭和39年9 月8日,「受信料は,協会の維持運営のため,法律によって協会に徴収権の認められた,『受信料』という名の特殊な負担金と考えるべきである。その負担者を『協会の放送を受信することができる受信設備を設置した者』としている現行法の建前は,負担者の心理からみても,協会の業務努カという観点からみても,妥当であると認められるが,現行法が受信料の負担関係を受信契約の強制という形で表現している点については,法律をもって直接に生ずる支払義務として規定する方が簡明でよいと考える。」旨答申した(国立公文書館所蔵「答申書」(昭和39年9月8日)15及び16ページ,81及び82 ページ)。
   上記答申を受け,郵政省は,放送法等の改正についての法案の検討に着手し,昭和41年3月15I日,放送法の一部を改正する法律案が第51回国会に提出された。同改正案では,「協会の放送を受信することができる受信設備を設置した者は,協会に受信料を支払わなければならない」(32条1項)と規定し,受信設備の設置による受信料支払義務を明示した。
   しかし,同改正案は,国会で審議未了により廃案となった(五十年史790ないし793ページ,問題206ページ)。
(2)昭和55年放送法改正案
   昭和55年,受信契約未契約者や受信料未払者が増加傾向にあることを背景に,受信料支払義務等を盛り込んだ放送法の一部を改正する法律案が,第91回国会に提出された。同改正案では,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置したものは,その設置の時から協会に受信料を支払わなければならない」(32条1項)と改定するとともに,「支払義務者は,受信設備の設置後遅滞なく,受信設備の設置の日及ぴ種類その他第32条の3第1項の受信料規程で定める事項を協会に通知しなければならない」(3 2条3項) と新たに規定した。さらに,受信料不払に対して延滞金及び割増金の徴収を認める規定を新設した(32条の2第1項・2項)。
   しかし,同改正案も,本格審議の前に衆議院で内閣不信任案が可決され, 衆議院が解散されたため,審議未了により廃案となった(問題206ページ)。
(3)平成19年放送法改正案
   総務大臣の私的懇談会として平成17年12月に設置された通信と放送の在り方に関する懇談会は,通信と放送に関わる現状のあらゆる課題について検討を行い,平成18年6月6日に報告書を策定した。その中において,受信料制度について,「ガバナンス強化やチャンネル数の削減,組織のスリム化等の措置によりNHKの公共性を絞り込んだ上で,過大な水準にある受信料徴収コストを出来る限り削減するとともに,現行の受信料を大幅に引き下げ,NHKの再生に対する国民の理解を得ることが必要である。それを前提に受信料支払いの義務化を実施すべきである。その後更に必要があれば,罰則化も検討するべきである。」としている(問題205ページ)。
   他方,当時,与党である自由民主党の通信・放送産業高度化小委員会においても,通信と放送の制度改革の在り方について検討が行われ,平成18年6月,受信料制度については支払義務化が必要であり,平成19年3月頃に導入時期を判断する,義務化によって効果が得られない場合は罰則等の導入も検討するとの提言がされ(問題205ページ),政府及び与党間で調整が行われた結果,平成18年6月20日に公表された「通信・放送の在り方に関する政府与党合意」において,「NHK内部の改革を進めた上で,受信料の引き下げのあり方,受信料支払の義務及び外部情報の活用についての検討を行い,必要な措置を取る。その後,更に必要があれば,罰則化も検討する」とされた(問題205ページ)。これらを受けて,政府は,平成19年の国会提出に向けて法の改正検討に着手したものの,受信料の引下げ等の措置を講ずることなく,受信料義務化だけを先行することは,国民の理解は得られないとして,第166回国会に提出された放送法等の一部を改正する法律案には受信料支払義務化は盛り込まれることはなかった(問題205, 206及び 208ページ)。
4 現在の受信料規定
   現行法は,64条において,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。 ただし,放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であつて,テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。第百二十六条一項において同じ。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については,この限りでない。2 協会は,あらかじめ,総務大臣の認可を受けた基準によるのでなければ,前項本文の規定により契約を締結した者から徴収する受信料を免除してはならない。3 協会は,第一項の契約の条項については,あらかじめ,総務大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも,同様とする。」と規定している。
   我が国の放送法制においては,放送事業の担い手につき,営利を目的としない社団法人のみであったのが,これを引き継いだ協会と民間放送事業者との二本立てとするに至り,公共的色彩を帯びた社団法人ないし協会の財政的基盤を確保する手段につき,戦前の無線電信法時代における受信設備設置の許可と聴取契約の締結とをセットとする方式から,法制定過程の議論における受信料支払義務方式,契約締結擬制方式を経て,現行の契約締結義務方式に結実した。 その後,数次にわたって制度の改正が試みられたが,協会の放送を受信できる受信設備の設置者に受信契約の締結義務を負わせている点,放送の受信を目的としない受信設備の設置者を除外している点,受信料免除はあらかじめ主務大臣の認可を受けた基準によらなければならないとする点,受信契約の条項についてあらかじめ主務大臣の認可を受けなければならない点等受信料規定の核心部分は,法制定当時から現在まで変更がない。
   なお,上記1 (2)のとおり,昭和25年以前は聴取料制度が採られていた。聴取料制度を,現在の放送法における受信料制度と対比すると,受信設備設置許可と受信契約締結が組み合わされていたこと,無許可の受信設備設置は無線電信法所定の罰則の対象とされていたことという点で違いがあるものの,受信設備を設置した者からの収入をもって放送事業者の財政的基礎とすることとし,その方法について,受信設備設置者と放送事業者との間に締結される契約に基づき受信設備設置者が放送事業者に直接聴取料を支払うという方式を採用していた点で共通していたものである。この点につき,立法担当者は,「現行の受信料制度は,無線電信法・社団法人日本放送協会時代の受信料制度をつとめてそのまま維持するという方針でつくられた。すなわち受信設備を設置する場合には放送局と契約して一定の料金を支払うという既に定立された国民的慣行を土台とし,国民の立場から見た場合には新法(電波法・放送法)の時代となっても旧制度をそのまま継続しているのと事実上変りがないようにしようとしたのである。かくてでき上った現制度では・・・受信者たる公衆から見れば事実の上では何の変化もなく,新制度への移行は極めて円滑に行われた。」としている (荘256ページ)。法を制定する過程で,受信料について,端的に支払義務を負うとするか,契約締結を擬制するか,契約締結を義務付けるかについて議論及び変遷があったことは,前記2 (4)で述べたとおりであるが,いずれにしても, 聴取料ないし受信料の収入により公共放送の運営資金を賄おうとしていたことは,昭和25年の放送法制定前後で一貫しているのである。

第3 諸外国の放送制度

   主要な外国の放送制度について概観する。民主主義を採用する諸外国の放送制度は,以下のとおり,種々の形態が採られている。
1 アメリカ
   アメリカは,伝統的にAmerican BroaIcasting Company(通称ABC),,National Broadcasting Company(通称NBC),CBS Corporation(通称CBS)等に代表される民間放送が中心であり,公共放送のウェートは低い。アメリカに船ける公共放送は,1920年代から,全米各地の大学や地域コミュニティーが経営し地域的に小規模な放送を個別に行う非商業ラジオが存在したが,公共放送制度が法的に整備されたのは昭和42年(1967年)に公共放送法が制定されてからであり,その後,昭和44年(1969年)に非商業テレビ局の連合体として公共放送サービス(PBS)が設立され,昭和45年(1970年)にラジオの国家公共ラジオ(NPR)が設立された。テレビとラジオを合わせた公共放送の主要財源は,個人寄付金,企業協賛金,連邦政府交付金,州政府交付金であり,受信契約制度や受信料制度は採られていない(柴田231ページ以下)。
2 イギリス
   イギリスでは,大正11年(1922年)に民間企業のイギリス放送会社(B BC)が設立され,これが昭和2年(1927年)に国王の特許状に基づく公共企業体のイギリス放送協会(BBC)に組織変更され,以後,イギリス放送協会が放送を独占していた。その後,昭和29年(1954年)以降他の放送会社が設立され,現在,公共サービス放送としては,広告放送を財源とする公共法人のチャンネル4,広告放送を財源とする株式会社のITV(チャンネル 3)及びチャンネル5が存在するに至る。
   イギリス放送協会の財源は,受信許可料及び商業活動収入であり,平成27 年度(2015年度)において,それぞれ総収入の約78%,約22%を占める(世界の放送116ページ)。
   受信許可料の法的根拠は,2003年放送通信法にあり,同法363条は, 「第4部に基づく免許によりテレビジョン受信機の設置及び使用が認められない限り,そのテレビジョン受信機を設置及び使用してはならない。」と規定し, 同法365条は,テレビジョン免許を付与された者は受信許可料を支払う義務を負うこと,受信許可料はイギリス放送協会に対し支払わなければならないこと,イギリス放送協会が徴収業務を行うことを規定している。なお,イギリス放送協会は,受信許可料徴収業務を民間会社に委託している。受信許可料額は, 政府が決定し,議会の承認を必要としていない。テレビ受信機等「受信できる装置」を購入した者は,これを新規に購入した際にイギリス放送協会に申請し, 受信許可料を支払って,免許を取得する。免許は毎年更新し,それぞれの際に受信許可料を支払う。受信許可料の徴収について,強制徴収を認める法律上の定めはない。他方,受信許可料の不払は1000ポンド以下の罰金刑の対象となる。テレビ受信機等の設置の把握は,郵便局の住所ファイルが活用されている(中村140ページ以下)。平成27年度(2015年度)において,受信許可料徴収率は,93. 8%であった(ITelevision Licence Fee Trust Statement for the Year Ending 31 March 2016J 7ページ。なお,93. 8%は,同ページのChart to explain changes to the Evation Model March 2015-March 2016の表中,1 00%からevation rateの6. 2%を引いた値。)。
3 フランス
   フランスでは,国家が放送を独占的に直接管理する状態が長く続いた。昭和49年(1974年)に至り,フランス放送協会が分割され,また,昭和57 年(1982年)の放送法改正により,放送の国家独占が放棄され,以後商業放送局が次々と設立された。公共放送機関としては,現在,政府全額出資のフランステレビジョンのほか,ARTE, France Mdias Monde,ラジオフランス及びINAが存在する。
   フランステレビジョンの主要財源は,公共放送負担税,広告収入及び政府補助金であり,平成27年度(2015年度)において,それぞれ総収入の約83%,約11 %,約6%を占める(世界の放送191ページ)。
   平成17年(2005年)に改正された租税一般法典の第1605条以下の規定により,公共放送負担税は,「世帯の私的利用のために,テレビ受像機, 又はテレビの受信が可能とみなされる装置を所有することを条件として,居住の用に供される家具を備えた場所に対して住民税の課税対象とされている全ての個人,及び,テレビ受像機又はそれと同等とみなされる装置をフランス国内の場所で所有することを条件として,上記の個人以外の全ての個人,及び法人」を対象に課税されることとされている。この公共放送負担税は,税務当局により住民税とともに徴収され,各公共放送機関に配分される。テレビ受信機非所有者は,税務当局へ申告することにより,公共放送負担税の支払を免除される。 公共放送負担税額は,法律や政令により決定されており,公共放送負担税の不払に対しては,税務当局が他の税金の徴収と同様に強制的に徴収することが認められ,不払について罰則はない。もっとも,テレビ受信機を所有しているにもかかわらず所有していないと虚偽の申告をした場合は, 150ユーロ以下の罰金刑の対象となる(新田164ページ以下)。
4 ドイツ
   ドイツでは,第二次世界大戦後の分割統治時代の西ドイツにおいて,各州ないしは州が共同で公共放送を設立するという制度が生まれた。公共放送機関としては,昭和25年(1950年),いくつかの州放送協会の連合体組織であるドイツ公共放送連盟(ARD)が結成され,また,昭和36年(1961年), 第2ドイツテレビ(ZDF)が設立し,ほかに現在までに民間放送機関が存在するに至る。ドイツの公共放送の主要な財源は,長く,受信料収入であった。 昭和45年(1970年)の「放送受信料州間協定」により,受信機の所有者は,届出義務と受信料の支払義務を負うこととされていた。その後,平成25 年(2013年),それまでの受信料を廃止して放送負担金を導入し,それにより,受信機の所有を問わず全ての世帯に一律の放送負担金を課すことになった。
   ドイツ公共放送連盟の主要財源は,放送負担金及び広告収入であり,平成2 6年(2014年)において,それぞれ総収入の約85. 6%,約2. 3%を占める(世界の放送171ページ)。
   また,第2ドイツテレビの主要財源は,放送負担金及び広告収入であり,平成26年(2014年)において,それぞれ総収入の約86. 3%,約6. 6 %を占める(世界の放送171ページ)。
   放送負担金の徴収は, ドイツ公共放送連盟と第2ドイツテレビが共同で設立した負担金サービスが行い,放送負担金の不払に対しては,1000ユーロ以下の罰金刑の対象となり,州放送協会が強制徴収する制度も設けられている(杉内180ページ以下,熊谷62ページ)。平成26年(2014年)において, 放送負担金徴収率は96. 6%であった(ARD ZDF De'utschlandradio Beilragsservice IGescheftsberichし2O14J(負担金サービス報告書)23ページ。 なお,96. 6%は,同ページのEntwicklung der Forderungsausfallquote insgesamt の表中,100%から2014年の欠損率3. 409%を引いた値。)。
5 大韓民国(以下「韓国」という。)
   韓国では,昭和23年(1948年)の大韓民国政府樹立後,国営放送局であるソウルテレビジョン放送局が放送を独占する体制がとられ,同社は,昭和 48年(1973年),政府全額出資の韓国放送公社(KBS)に組織変更した。国営放送局であるソウルテレビジョン放送局の時代であった昭和38年(1 963年),視聴料制度が導入され,平成元年(1989年)にこれが受信料制度に名称変更された(田中216ページ)。
   韓国放送公社の主要な財源は,受信料収入及び広告収入である。平成26年 (2014年)において,それぞれ総収入の約38. 9%,約60. 3%を占める(世界の放送39及び40ページ)。
   韓国の放送法64条は,「テレビジョン放送を受信するため,テレビジョン受像機を所持した者は,大統領令が定めるところにより,公社にその受像機を登録し,テレビジョン放送受信料を納付しなければならない。」と規定している。韓国放送公社は,受信料の徴収を韓国電力公社に委託している。受信料の不払に対して,韓国放送公社は,国税滞納処分の例によって徴収することができるとともに,同不払は,加算金及び追徴金の対象にもなる。平成26年(2 014年)において,受信料微収率は,98. 2%であった(田中209ぺー ジ以下,総務省資料(KBSへの調査による。))。
6 小括
   このように,主要外国における放送制度は一様ではないが,概して,アメリカでは,商業放送を基本とし,公共放送を市場の失敗が生じる部分の補完を担うものと位置づけているのに対し,ョーロッパでは,公共放送を積極的な文化的機関として位置づけている。アメリカを除くと,各国の公共放送は,受信機を設置又は使用する者(イギリス),受信機の設置者(フランス,韓国),又は, 全ての住居占有者及び事業主(ドイツ)に,法令により支払義務が課せられている受信料等(その名称は,受信許可料(イギリス),公共放送負担税(フランス),放送負担金(ドイツ),受信料(韓国)と様々である。)を主要な財源のーつとしている。受信料等の不払に対しては,罰金を科したり(イギリス, フランス, ドイツ,韓国),強制徴収が認められており(フランス, ドイツ, 韓国),安定的な財源確保が図られている(イギリスや韓国の徴収率は,9割を超える。)。なお,受信料等の賦課・徴収は,各国とも視聴の有無を間わずにされている。

第4 本件規定の趣旨・目的

1 法の規定
(1)法の目的等
   法は,「放送が国民に最大限に普及されて,その効用をもたらすことを保障すること。」(法1条1号),「放送の不偏不党,真実及び自律を保障することによつて,放送による表現の自由を確保すること。」(法1条2号),「放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて,放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。」(法1条3号)という原則に従って,「放送を公共の福祉に適合するように規律し,その健全な発達を図ること」を目的としている(法1条)。上記目的を達成するため,法は,自由かっ達に放送事業を行う第5章以下に規定する民間放送事業者のほかに,日本全国に豊かで,かつ,良い放送番組による国内基幹放送を行うことや,放送及びその進歩発達に必要な業務,国際放送等を行うことを目的として(法15条),公共性の強い特殊法人たる協会を設立することを定め(法16条),我が国の放送事業の在り方について,公共放送を担う協会と民間放送事業者の二本立てとしている。
(2)協会の目的・業務
   法15条は,「協会は,公共の福祉のために,あまねく日本全国において受信できるように豊かで,かつ,良い放送番組による国内基幹放送(国内放送である基幹放送をいう。以下同じ。)を行うとともに,放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い,あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うことを目的とする。」とし,協会に特別な目的を付与し,その目的を実現するため特別な業務を命じている。
ア 放送をあまねく日本全国において普及させること
   協会は,昭和25年以前は社団法人であったが,同年に制定された法は, 協会に「公共の福祉のために,あまねく日本全国において受信できるように・・国内基幹放送・・・を行う」との目的を付与し(法15条),従前の社団法人を改組して,法の規定に基づいて設立する公共的な企業体である特殊法人とした(法16条)。これは,我が国の放送を民間のみに委ねるとすれば,都市部にのみ集中し山間僻地は顧みられなくなるおそれがあるため,公共放送機関である協会を設立し,あまねく日本全国において放送が受信できるようにする使命を負わせることとし,放送を日本全国いずれの地域においても受信可能なものとして普及させようとしたのである(金浬 27及び87ページ)。あまねく日本全国に放送することなどが求められることから,「協会は,総務大臣の認可を受けなければ,その基幹放送局若しくはその放送の業務を廃止し,又はその放送を十二時間以上・・・休止することができない。」(法86条1項)とされている。
   また,協会を含む基幹放送事業者は,国内基幹放送等を行うに当たり, 暴風,豪雨,洪水,地震,大規模な火事その他による災害が発生し,又は発生するおそれがある場合には,その発生を予防し,又はその被害を軽減するために役立つ放送をすることが義務付けられているが(法108条), 特に協会は,災害対策基本法において報道機関として唯ー,指定公共機関として指定され,国等による防災計画の作成及び実施が円滑に行われるように協力する責務を負わされている(災害対策基本法2条5号,6条,昭和37年8月6日総理府告示第26号)。
イ 質の高い放送番組を提供すること
   次に,法15条に定める協会の目的としては,物理的に放送の受信をあまねく日本全国において可能とすることと併せて,質の面においても国民が協会の放送に期待する放送の効用を最大限発揮させるため,「豊かで,かつ,良い放送番組による国内基幹放送・・・を行う」ことを求めている。 すなわち,協会は,国内基幹放送の放送番組の編集及び放送に当たって, 他の基幹放送事業者にも適用のある法4条1項に定める放送番組の準則によるほか,特に,「豊かで,かつ,良い放送番組の放送を行うことによつて公衆の要望を満たすとともに文化水準の向上に寄与するように,最大の努力を払うこと。」(法81条1項1号),「全国向けの放送番組のほか,地方向けの放送番組を有するようにすること。」(同項2号),「我が国の過去の優れた文化の保存並びに新たな文化の育成及び普及に役立つようにすること。」(同項3号)といった準則によらなければならない。これは,協会の公共的性格に鑑み,他の基幹放送事業者より特に高い使命を課しているものである。そして,法は,「協会は,公衆の要望を知るため,定期的に,科学的な世論調査を行い,かつ,その結果を公表しなければならない。」(同条2項)と定めて,同条1項1号にいう「公衆の要望」を知るために世論調査を行うことを義務付け,協会の放送が公衆の要望を満たすことを重視している(金澤211及び212ページ)。
   多くの民間放送事業者は,広告主からの広告料収入を財政的基盤としており,その行動原理は,基本的に自由競争原理に基づき,視聴者の選好を予測して,これに最も適した放送番組を提供し,視聴率を上げて広告主からの広告料収入を増加させ,これを原資にして次なる番組に投下することである。民間放送事業者は,法第2章に定める基本的な原則の下で,自由競争原理に基づき,それぞれ創意工夫をこらした独自の放送番組を編集しているが,その一方で,民間放送事業者による放送は,広告料を財源とするため,広告主を獲得するために視聴率や話題性を優先しなければならず, 番組内容の画一化,低俗化する傾向も否定しがたいといった側面もある(N HR会長の諮問機関「デジタル時代のNHK懇談会」の平成18年6月1 9日付け報告書(以下「デジタル懇報告書」という。)6ページ,長谷部b 192ページ,長谷部Cl66ページ及び167ページ参照。同様の問題を指摘するものとして,芦部307ページ,宍戸144ページ)。したがって,放送を民間放送事業者のみに委ねた場合,豊かで,かつ,良い放送番組が提供される保障はない。
   放送をあまねく日本全国に普及させ,その社会的効用を最大限発揮させて,真に国民のために役立てるものとするためには,放送を組織・行動原理の異なる協会と民間放送事業者の双方に担わせ,それぞれが有する長所を活かし,かつ互いに補いながら活動することによって,全体として国民のニーズに応え,社会,放送文化の発展に寄与するというのが,法の目指しているところといえる(金鐸88ページ,塩野355及び361ページ, 宍戸151ページ,長谷部a 151ないし154ページ,臨時放送関係法制調査会の答申書10ページ,ニューメディア懇報告書(展望55ページ及び57ページ),平成13年の放送政策研究会2ページ,長谷部ほか67 ないし69ページ,デジタル懇報告書4ページ,放送を巡る諸課題に関する検討会「第一次とりまとめ」(平成28年9月)35及び36ページ参照)。
ウ 放送に関する進歩発達に必要な調査研究を行うこと
   さらに,協会は受信料を財源とする公共的な機関であることから,協会のためのみならず,放送界全体のために貢献する必要があることに鑑み, 法15条は,「放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行」うことを協会の目的とし,「放送及びその受信の進歩発達に必要な調査研究を行うこと。」を協会の必須業務としている(法20条1項3号。なお,同条2項9 号は,協会の任意業務として,放送及びその受信の進歩発達に特に必要な業務を行うことができるとしている。)。
エ 国際放送を行うこと
   加えて,グローバル化がー層進展する中で,我が国に対する正しい認識を深め,国際親善や経済交流を促進し,海外同胞に対し適切な情報提供を行うために果たす国際放送の公共的な役割に鑑み,広く国民に基盤を置く公共的機関である協会に,これを行わせることが適切であるから,法は, 国際放送及び協会国際衛星放送を行うことを協会の目的に位置づけ(法1 5条),「邦人向け国際放送及び外国人向け国際放送を行うこと。」及び「邦人向け協会国際衛星放送及び外国人向け協会国際衛星放送を行うこと。」を協会の必須業務としている(法20条1項4号及び5号。金深88及び9 9ページ)。また,法は,邦人の生命,身体及び財産の保護に係る事項や,国の重要な政策に係る事項などについて,総務大臣が必要な事項を指定して協会に対し国際放送又は協会国際衛星放送を行うことを要請することができるとしている(法65条1項)。国際放送は,海外にいる日本人に災害事件等を迅速に伝えることといった国策的使命を有するものであり,公共放送機関に任せるのみでは十分ではない。しかし,国は放送に関する知識経験に乏しく,放送の客観性を担保する必要があり,国際放送といえども言論報道であり国が自ら行うのは適当ではないことから,国の意思を協会に要請し,この意思を体現した放送を行わせることとされている(金澤179ページ)。
2 公共放送の社会的使命
   協会は,上記1で概観したとおり,法に基づき,公共の福祉のために,あまねく日本全国において受信できるように豊かで良い放送番組を放送することや,放送に関する進歩発達に必要な調査研究,国際放送等様々な使命を負っている。 その中でも,放送をあまねく日本全国において受信できる体制を整え,災害の被害軽減等に役立つ放送をすること(法108条,災害対策基本法2条5号, 6条),邦人の生命,身体及び財産の保護に係る事項等について総務大臣の要請を受けて国際放送等を行うこと(法65条1項)などは,法が,災害という緊急事態から国民の生命,身体,財産等といった重要な法益を守ることにつながり,協会の究極の目的である「公共の福祉」の最たるものとして,公共放送がその役割を果たすことを予定していると解される。この点,大正12年9月1 日に発生した関東大震災の当時,通信・報道手段は電報と新聞が主であり,地震や火災によってこれらの機能は麻庫したことから,関東大震災を機に,天災の多い我が国には同時通信の施設が不可欠のものであり,放送無線電話の急速な実施を図るのが最適の方策であるという放送促進論が生じ,放送関係の法整備を促す一因となったのであり(読みとく35ページ),元々,放送は,災害時に国民に正確な情報を即時に提供する手段として期待されていたものである。
   このように,公共放送には,地震,津波,台風等の天変地異等や,武力や化学兵器等による内外からの攻撃について,公共放送を受信することができる受信設備を通じて,国民に,時々刻々と変化する状況に関する情報を正確かつ具体的に提供し,国民が自らの生命,身体,財産等を最大限守るために適切な行動をとることができるようにするという重大な使命がある。
   これは,自国の領土と国民を守るという国家の責務を具現化するものであるとともに天災や有事等の緊急事態が生じたときに,国民に対し,国民がそれぞれの状況に応じて自らや家族,友人等を含めた関係者の生命,身体,財産等といった重要な法益を自ら守るための適切な行動をとることを可能にする的確な情報を提供するもので,公共放送は,国民にとって重要なインフラストラクチャーというべきものである。
   現在では,テレビは,その保有世帯割合が96. 3%(平成28年内閣府の消費動向調査)に上ることに見られるように,国民の大多数がこれを設置し, 国民全体に広く普及している上,メディア全体の中でも特に習熟のための技術を必要とせず,年齢等を間わず親しみやすいメディアであることも踏まえれば,依然として基幹的なメディアであり続けている。そのようなテレビの放送の中でも,公共放送は,大規模災害発生等の非常事態において即時に正確な情報を
取得する手段として国民から期待されている。実際にも,平成23年3月11 日に発生した東北地方太平洋沖地震の際は,NHK総合テレビが最も早く緊急地震速報を発令し,津波警報を表示し(東日本大震災2及び3ページ,6及び 7ページ),その後に行われた同地震に関する情報の取得に関する調査によれば,,重視する情報源と回答された割合は,「協会のテレビ放送」が80. 5%,「民間放送機関のテレビ放送」56. 9%,「インターネットのポータルサイト」が 43. 2%との結果となり(野村総研),災害時におけるテレビ放送の重要性,とりわけ公共放送を担う協会の放送に対する国民の信頼感が示されている。
   諸外国の放送法制(上記第3)を見ても,イギリスのBBCやドイツのAR D等,公共放送が放送を独占していた歴史が長かった例や,当初の国営放送が後に公共放送に移行したフランスのフランステレビジョンや韓国のKBSの例,民間放送が主流だったが,後に公共放送のPBS等が設立されたアメリカの例などがあり,公共放送が全く存在しない国は中国などー部にとどまる。国際社会においても公共放送を設けることが主流であるのは,公共放送には上記のような重大な社会的使命があるがゆえにその存在意義が認められているからと考えられる。
3 公共放送にアクセスできる受信設備設置者から公共放送の運営資金を徴収するという一種の「受益者負担」の方法を採用したこと
   公共放送は,あまねく日本全国において放送を受信できるようにし,天災や有事等が発生した場合に,国民が自らの生命,身体,財産等を最大限守るために適切な行動をとるために必要な情報を提供するという重大な社会的使命があるが,そのような公共放送の運営資金を確保するための手段としては,税金等の形で国家が負担する方法や,民間放送と同じくスポンサーからの広告収入で負担する方法がある。
   しかし,国が公共放送の運営資金を提供して,公共放送を国有化し国営放送とするならば,国家の過剰な介入を招き,ー定の国家目的のために事実とは異なる内容の放送がされる可能性も否定できない。また,他方で,公共放送の運営資金を広告収入で賄うこととするならば,スポンサー企業等がその放送内容について干渉や指示等を行うことになり,視聴率やスポンサー企業等の利益を擁護するなどのために,公共放送が上記の重大な社会的使命を全うできなくなる可能性もある。
   そこで,本件規定は,協会の放送を受信することのできる受信設備を設置して上記のような重要なインフラストラクチャーによる利益を直接享受することとなる者に公共放送の運営資金としての受信料を負担させるという一種の「受益者負担」の方法をとることで,公共放送が受信設備設置者に対し天災や有事等について時々刻々と変化する状況に関する情報を正確かつ具体的に提供することができるようにし,もって公共放送にその重大な社会的使命を全うさせようとしたものである。上記第2の2のとおり,法が制定された昭和25年当時は,民間放送はまだ存在せず,受信設備を設置するのは協会の放送を視聴するためであったから,一種の「受益者負担」として協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に受信料の負担をさせても,法的にみて特別の違和感はなかったものと思われる。
   しかしながら,その後,複数の民間放送が開始され,さらに近時においては, 有料放送方式など,視聴を希望する者のみが対価を支払って一定の放送を視聴することができるようになったことから,民間放送のみ,あるいは一定の放送のみを視聴したい者,すなわち公共放送を視聴したくない者が,なぜ協会との受信契約の締結を強制され,受信料を支払わされるのか,それは「契約自由の原則」に反し,憲法13条,29条等に反するし,「受益者負担」というのであれば,公共放送を有料放送とし,公共放送を視聴したい者のみが,受信料を支払って視聴すればよいという主張がされるようになった。
   しかしながら,そのような主張は正しくない。
   公共放送には,上述のとおり,天災や有事等の緊急事態が生じたときに,日本全国の国民に,時々刻々と変化する状況に関する情報を正確かつ具体的に提供することにより,国民が自らの生命,身体,財産等といった重要な法益を守るための適切な行動をとることを可能にする的確な情報を提供するという重大な社会的使命がある。
   たしかに,公共放送は,その番組内容いかんなどによって,国民個々人の中には,それを視聴したい者も視聴したくない者もいる。しかしながら,他方で, 協会の放送を受信することができる受信設備を設置した者は,その設置によって,特に危急時に,公共放送が放送する天災や有事等の情報にアクセスすることが可能な地位が確保され,生命,身体,財産等といった重要な法益を守るのに必要な的確な情報を随時に得ることができる。そのため,協会の放送を受信することができる受信設備を設置した者に,一種の「受益者負担」ということで,公共放送機関である協会と受信契約を締結させて,公共放送の受信料を負担させることにしても,それは,公共放送の重大な社会的使命を全うさせることになるとともに,受信設備設置者自身の生命,身体,財産等といった重要な法益を守るという利益にもなるのであるから,何ら不合理なものではない。
   したがって,現在においても,本件規定の趣旨・目的は,何ら揺らぐことはないのである9この点,立法担当者によれば,「放送法の本旨は,国民はNHK を維持しその利益をひとしく受けるいわば放送受益協同体を構成しているものと観念しているものと見ることができ,従って,その協同体の一員となった限り個人の好みによる加入脱退は認められ」ないと考えてよいとされていた(荘 261ページ)。また,上記第2の3 (1)で触れた臨時放送関係法制調査会は, 答申書において「受信料は,上述のようなNHKの業務を行うための費用の―種の国民的な負担であって,法律により国がNHKにその徴収権を認めたものである。国がそのー般的な支出に当てるために徴収する租税ではなく,国が徴収するいわゆる目的税でもない。国家機関ではない独特の法人として設けられたNHKに徴収権が認められたところの,その維持運営のための『受信料』という名の特殊な負担金と考えるべきである。」とし(81及び82ページ),塩野227ページが,受信料を協会の維持運営のために充てられる費用分担的性格をもつものであると述べているのもこれと同旨をいうものと思われる。
   また,危急時においては,国民の生命,身体,財産等といった重要な法益を守るための適切な行動をとるために,まさにー分一秒を争う緊急事態なのであるから,協会の放送を視聴したい者だけが受信料を支払って視聴するという有料放送の仕組みでは,いざその事態が発生した場合に,国民が適時に的確な情報を得ることができない。これでは,国民の生命,身体,財産等といった重要な法益を守ることができない結果となりかねず,公共放送の重大な社会的使命を十全に果たせないのであって,そのような仕組みは,公共放送の趣旨・目的に沿うものではなく,採用することができない。
   なお,上記第3のとおり,諸外国の放送法制を見ても,公共放送について有料放送方式を採用しているものは見られない。これは,公共放送の財源確保の手段として有料放送方式を採用することが,かえって公共放送の有する重大な社会的使命を全うできない結果になりかねないことを端的に示すものといえる。 諸外国では,制度の細目はともかく,受信機を設置又は使用する者は受信許可料を支払わなければならないとするイギリス,受信機の設置者に公共放送負担税を課すフランス,受信機の所有者に受信料の支払義務を課すドイツ(ただし, 平成25年に受信機の所有を問わず全世帯に一律の放送負担金を課す制度に変更),受信機の設置者に受信料納付義務を課す韓国といったように,いずれも受信機の所有や所持といった事実に着目して経済的負担を課しており,公共放送の運営資金の徴収を視聴の有無に係らしめていない。これら諸外国の放送制度も,上記のような考え方に基づいていると解されるのであり,この点我が国のそれと異なるものではない。

第5 本件規定の憲法適合性

   第4で述ぺた本件規定の趣旨・目的を前提として,本件規定の憲法適合性について述べる。
1 契約自由の原則(憲法13条,29条)
   近代契約法の原則として,いわゆる「契約自由の原則」があり,ー般に,契約自由の原則は,憲法13条,29条によって保障されると考えられている(石川147ページ,註解憲法566ページ,高辻148及び149ページ,大石 245ページ,富深322ページ・注12参照)。
   そして,前述のとおり,本件規定は,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と定めており,受信設備設置者に,協会との受信契約を義務付ける内容となっている。これは,協会の放送の視聴を希望しない者にとっては,自らの意思に反して協会との受信契約を締結させられることになり,一見すると,まさに「契約自由の原則」に反する事態となるように見える。
   しかしながら,上記第4のとおり,公共放送は,天災や有事等が生じた緊急事態に,国民に対し,生命,身体,財産等といった重要な法益を自ら守るのに必要な的確な情報を提供するという重大な社会的使命を負っており,受信設備設置者には,このような生命,身体,財産等に関わる重要な情報にアクセスすることが可能な地位が確保される。公共放送がこのような重大な社会的使命を果たすためには,イギリスのBBCなどが採用しているように,公共放送にアクセスすることができる受信設備設置者に受信料の支払義務を認めることにも十分に合理性が認められる。それにもかかわらず我が国において契約締結義務方式が採用されたのは,上記第2の2 (4)のとおり,受信料の支払を確保しつつ,支払義務という強制色を可能な限り少なくするため,徴収方法の1つとして選択されたにすぎない。すなわち,受信契約の形式は,公共放送が,国民の生命, 身体,財産等といった重要な法益を自ら守るのに必要な的確な情報を随時に提供するという重大な社会的使命を果たすための運営資金を確保するために採られた手段である。そして,契約自由の原則は,水道,電気,ガスなど国民生活に不可欠な公共サービスの供給に関わる契約や,労働法,消費者契約法,借地借家法等の場面において,契約自由の原則を貫徹させると,国民生活に支障を来したり,事実上の力関係から弱者の利益が保護されないといった不都合が生じることなどの理由から,国民の生活保護や,弱者の保護等といった一定の目的の下に,様々な制限を受けているのであり,一定の目的を達成するために契約の自由を制約することが合理性を有するのであれば,その限度で契約自由の原則が制限されるとしても,契約自由の原則との抵触は問題とならず,憲法に反しないと解するのが相当である。これを本件についてみると,本件規定が定める受信契約の強制も,上記のように重大な社会的使命を有する公共放送の運営資金を,公共放送にアクセスすることが可能な地位にある受信設備設置者に負担させることによって確保し,ひいては危急時に国民の生命,身体,財産等を守るという重要な目的達成のために,契約自由の原則を制限しているものであり,その制限には十分な合理性がある。
   したがって,本件規定は,契約自由の原則を何ら侵すものではなく,憲法13条,29条に反するものではない。
2 財産権(憲法29条)
   憲法29条1項は,「財産権は,これを侵してはならない。」と規定し,私有財産制度を保障するのみならず,社会的経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権を基本的人権として保障するものと解される。
   本件規定は,受信料の支払義務を内容とする受信契約を義務付けるものとなっているから,協会の放送の視聴を希望しない者にとっては自らの意思に反して望まないサービスの対価の支払を強制させられることになり,その財産権を制約するものである。
   しかしながら,上記第4のをおり,公共放送は,天災や有事等が生じた緊急事態に,国民に対し,生命,身体,財産等といった重要な法益を自ら守るのに必要な的確な情報を提供するという重大な社会的使命を負っており,受信設備設置者は,このような生命,身体,財産等に関わる重要な情報にアクセスすることが可能な地位が確保される。その意味では,受信設備設置者は,公共放送から上記のような重要な情報を得ることができる地位という利益を享受しており,公共放送の受益者といえるのであるから,本件規定の趣旨・目的に基づき,その者に公共放送の運営資金である受信料を負担させることは,十分に合理性を有する。
   したがって,本件規定は,憲法29条に反しない。
3 幸福追求権,思想良心の自由,表現の自由(憲法13条,19条,21条1項)
(1)公共放送を視聴したくない自由
   憲法21条1項は,思想等の表現や報道を行う側の自由を保障するほか,これらの提供を受ける国民の側にも,表現された思想なり報道された事実を視聴する自由を保障する(高辻111及び112ページ)。憲法13条は,幸福追求権を保障し,個人の私的領域を自律的に決定することを保障する。憲法19条は,思想,世界観等,国民の内心の自由を保障し,公共放送や協会の存在を認めないといった主義・主張を有することも,自由である。したがって,公共放送や協会の存在を認めないといった主義・主張に基づき,受信設備を設置するが,協会の放送は一切視聴したくないという自由も,これらの規定に照らして憲法上の保護を受けると解される。
   しかし,本件規定は,協会の放送を受信することができる受信設備を設置した者に対し,受信契約を介して公共放送を支える運営資金である受信料の支払を義務付けるものにすぎず,その者に公共放送の視聴自体を強制するものではない。また,自己が視聴したくない公共放送を提供する協会のために, 受信契約の締結及び受信料の支払という形で一定の負担を課せられるという意味で,公共放送を視聴したくない自由が一定の制約を受ける面があるとしても,公共放送は,究極的には公共放送を視聴したくないと考える受信設備設置者の生命,身体,財産等を守るためのインフラストラクチャーとしても整備されており,このような者の公共放送を視聴したくない自由に優る利益を守ろうとする点に本質的な意義があるから,受信設備設置者にかかる公共放送を担う協会の運営資金である受信料を負担させることには,十分な合理性がある。
   したがって,本件規定は,公共放送を視聴したくない自由を侵すものではない。
(2)民間放送を視聴する自由
   民間放送を視聴する自由も,憲法13条,19条,21条1項の規定に照らして憲法上の保障を受けると解される。上告人は,本件規定により,協会との受信契約を強制され,受信料の支払を強制されることになれば,受信料を支払わない限り受信設備を設置できず,民間放送も視聴できなくなるから,民間放送を視聴する自由が侵害される旨主張する。
   しかし,国民が受信設備を設置することは自由であり,この点は,受信設備の設置に主務大臣の許可を要するとされるとともに,放送局と締結した聴取契約に係る聴取契約書を添付しなければ受信設備の設置許可を得ることができないこととされていた戦前の放送法制(上記第2の1)とは異なる。また,法は,協会が広告放送を行うことを禁止する(法83条1項)一方で, 民間放送については,広告放送を行う場合には,視聴者において広告放送であることが識別できる措置を求めたり(法12条),学校向けの教育番組の放送を行う掃合に限って学校教育の妨げになる広告を禁止しており(法109 条),スポンサーから広告料を得て放送を行うことができることを前提としている。このように,民間放送については,広告料を運営資金とすることができるため,有料放送でない限り,民間放送を視聴するために受信設備設置者が民間放送事業者と個別の受信契約を締結することは予定されていない。そのため,受信設備設置者は,受信設備を設置しさえすれば,民間放送を視聴することが自由にできる。これに対し,本件規定は,協会の放送を受信することができる受信設備を設置した者に受信料の支払を義務付けるものにすぎず,民間放送の視聴については何ら定めるものではないから,仮に受信設備設置者が受信契約を締結しなかったとしても,民間放送を視聴することが妨げられることはない。
   したがって,本件規定は,民間放送を視聴する自由を侵すものではない。
(3)以上のとおり,本件規定は,公共放送を視聴したくない自由ないし民間放送のみを視聴する自由を侵すものではなく,憲法13条,19条,21条1 項に反しない。
4 平等原則(憲法14条)
   違憲主張の要旨は,本件規定が協会との間で受信設備設置者に契約締結義務を課すことにより,協会にのみ受信料徴収の利益を与えている点で,民間放送事業者に比べ協会を優遇し,両者を区別して取り扱っていることが不合理な差別!こ当たるというものと解される。
   しかし,そもそも受信設備設置者には,自己の権利利益と無関係に民間放送事業者と協会の区別が平等原則に反することを主張する適格がないと解される。
   その点をおくとしても,本件規定が協会についてのみ受信料制度を採用しているのは上記第4のとおり,本件規定の趣旨・目的は,重大な社会的使命を有する公共放送について,その運営資金を,協会の放送を受信することができる受信設備を設置した者から徴収するという一種の「受益者負担」の方法によるというものであり,国有化や広告収入によることでは公共放送の社会的使命を全うできなくなる可能性もあることから,協会の放送を受信することができる受信設備の設置者からその営業資金を徴収するという方法が採用されたものである。公共放送を担う協会と,スポンサーから広告料収入を得ることができる民間放送とは事情が異なり,両者を区別することには十分に合理的理由があるから,本件規定は憲法14条に反するものではない。
5 国会の権能等(憲法41条,73条6号)
   違憲主張の要旨は,①本件規定は,放送事業者ー般ではなく協会のみを対象としており,ー般性を欠くから,一般的抽象的法規範である「立法」に当たらず,立法に属さない国会の行為である以上,憲法41条に反し,委任立法を限定する憲法73条6号に反する,②放送法64条3項に基づく協会との日本放送協会放送受信規約(以下「規約」という。)が受信設備設置者を拘束する実質的立法(法規)であれば,国家機関ではない協会が立法に加わったものであり憲法41条,73条6号に反するというものである。
   しかし,①については,本件規定は,協会,受信設備設置者の不特定多数に適用され得るー般的・抽象的な法規範であり,協会が徴収する受信料について規定することは国会の「立法」(憲法41条)の権能に属するというべきであるし,②については,規約及び規約を内容とする受信契約が「立法」に当たらないことは明らかであるから,協会が立法に加わったものということはできない。 したがって,本件規定は,憲法41条,73条6号に反しない。
6 租税法律主義(憲法84条)
   違憲主張の要旨は,協会の放送を視聴しているか否かにかかわらず,受信設備設置者に受信契約の締結を強制し,受信料の負担を強いており,このような受信料の制度は実質的に税に近く憲法84条に反するというものである。
   しかし,憲法84条にいう「租税」とは,国又は地方公共団体が,課税権に基づき,その経費に充てるための資金を調達する目的をもって,特別の給付に対する反対給付としてでなく,一定の要件に該当する全ての者に対して課する金銭給付をいうものであるところ(最高裁判所平成18年3月1日大法廷判決・民集60巻2号587ページ),受信料は,国又は地方公共団体が課税権に基づき課する金銭給付ではないから,「租税」に当たらず,憲法84条が直接適用されることはない。
   他方で,国,地方公共団体が賦課徴収する租税以外の公課であっても,賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては,憲法84条の趣旨が及ぷと解すべきであるが,その場合であっても,租税以外の公課は,租税とその性質が共通する点や異なる点があり,また,賦課徴収の目的に応じて多種多様であるから,賦課要件が法律又は条例にどの程度明確に定められるべきかなどその規律の在り方については,当該公課の性質,賦課徴収の目的,その強制の度合い等を総合考慮して判断すべきものと解される (上記最高裁判所平成18年3月1日大法廷判決,最高裁判所平成18年3月 28日第三小法廷判決・集民219号981ページ)。
   協会は,公共放送の役割を担い,法の目的を達成するため,法の規定に基づいて設立された公共的な企業体(特殊法人)であり,受信設備設置者は,本件規定によって一律に放送受信契約の締結義務が課され,受信契約に基づいて受信料支払義務を負うものであるが,受信設備を設置するか否かは国民各自の自由に委ねられている上,協会において租税と同様の強制徴収が認められているわけではないから,受信料が,国,地方公共団体が賦課徴収する租税に類似する性質を有するものとはいえず,憲法84条の趣旨が及ぶとはいえない。なお,仮に,受信料に憲法84条の趣旨が及ぶ余地があるとしても,法は,受信料の月額や使途を含む協会の収支予算の内容については国会の承認を得る(法70 条4項)こととし,国民の代表である国会の民主的な統制の下に置くことをはじめ,協会の公共性確保のための仕組み(後記第6の3参照)を備えているから,その賦課に関する規律として十分な合理性を有するものということができるから,同条の趣旨に反するとはいえず,いずれにしても,本件規定は,憲法 84条に反しない。

第6 その他の法の解釈論

1 本件規定の法的性質(本件規定は受信契約の締結を私法上義務付けるものか否か)
(1)本件規定の趣旨・目的は,上記第4のとおり,重大な社会的使命を有する公共放送について,その運営資金を,協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者から徴収するというものである。このような趣旨・目的に照らせば,本件規定は,単なる訓示規定ではなく,受信設備設置者に対して協会との受信契約の締結を私法上義務付けた規定であり,受信設備設置者が協会との受信契約の締結を拒絶した場合,協会が,受信設備設置者に対し, 民法414条2項ただし書に基づいて,受信契約の締結の承諾の意思表示に代える裁判を求め,受信契約を成立させることができるとする規定であると解すべきである(田中=平井123ページ,河野251ページも同旨。)。また,協会の放送を受信することができる受信設備を設置した者は,本件規定
により,規約が定める内容の受信契約の締結を義務付けられ,規約4条1項及び5条1項に基づき,受信設備を設置した月から同規約所定の受信料を協会に支払う義務を負うものというべきである(塩野271ページ,河野25 0ページ参照)。
(2)法は,受信契約の締結が義務付けられる場合を,「協会の放送を受信することのできる受信設備」の「設置」という客観的かつ形式的に定まる事由の発生に求めている上,後記3 (4)のとおり,受信契約に所定の条項を定めることを義務付け(規則23条),実際に定められた受信契約の条項について電波監理審議会への諮間(法177条1項2号)及び総務大臣の認可(法64条3 項)を受けることとし,受信料の月額は国会が協会の毎事業年度の収支予算を承認することによって定める(法70条4項)こととするなど,締結される受信契約の内容が一義的に定まり,大量的な事務処理を可能にするとともに,経営委員会により協会の運営や受信料の使途について適正な監督ができるような仕組みを整備し(法28条以下),協会の会計の適正について会計検査院の検査を受けること(法79条)を要求することで,受信契約の条項及び受信料の額が適正かつ合理的であり,受信契約を義務付けられる受信設備設置者の負担が過度にならないような配慮をしている。以上のような法の各規定は,本件規定が受信契約を私法上義務付けているとの解釈を許容するものである。
2 受信料の支払義務の発生時期
   本件規定は,受信設備設置者の契約締結義務について規定しているところ, 法64条3項は,本件規定によって締結しなければならないとされる契約の条項については,あらかじめ総務大臣の認可を受けなければならないとしている。
   これを受けて,協会は,規約を作成している。規約は,後記3 (4)のとおり, 電波監理審議会への諮間を経た上で,総務大臣の認可を受けている。
   規約は,4条1項において,「放送受信契約は,受信機の設置の日に成立するものとする。」と定め,5条1項において,「放送受信契約者は,受信機の設置の月から第9条第2項の規定により解約となった月の前月(受信機を設置した月に解約となった放送受信契約者については,当該月とする。)まで,1の放送受信契約につき,その種別および支払区分に従い,次の表に掲げる額の放送受信料(消費税および地方消費税を含む。)を支払わなければならない。(後略)
(引用者注:表において,「地上契約」,「衛星契約」,「特別契約」の各種別について,「口座・クレジット」,「継続振込等」の各支払区分について,「月額」,「6か月前払額」,「12か月前払額」が記載されている。)」と定めている。
   このような規約は,受信契約の内容となる約款であると解されるところ(塩野227ページ,河野239ページ),受信設備の設置の時点から受信料の支払義務が発生するという内容は,当該時点から協会の放送を受信することが可能となり,受信設備設置者は公共放送の利便を受け得るのであるから,受信料制度の趣旨にも適合しており,合理的なものといえる。
   したがって,協会の放送を受信することができる受信設備を設置した者は,本件規定により,規約が定める内容の受信契約の締結を義務付けられ,受信契約が締結されると(受信契約の締結の承諾の意思表示に代える裁判がされた場合を含む。),規約の適用があり,規約4条1項及び5条1項に基づき,受信設備を設置した月から同規約所定の受信料を協会に支払う義務を負うものというべきである(塩野271ページ,河野250ページ)。
3 協会の公共性確保のための仕組み
(1)経営委員会の設置
   法は,協会を,国から独立した特殊法人という性格を有する企業としつつも,協会が公共的性格を有すること,協会の放送が国民の日常生活と密接不可分の関係にあることや国民文化と広範なつながりを有することからみて, 協会の運営を,国民に基盤を置き,民主的に行われるものとする方策を採っている。すなわち,法は,協会に,両議院の同意を得て内閣総理大臣によって任命される12名の委員によって構成される合議制の議決機関である経営委員会を設置することとし(法28条,30条,31条),重要な意思決定を行う経営委員会と執行機関を分離することとした(金揮122ページ)。経営委員会は,協会の経営に関する基本方針,収支予算,事業計画及び資金計画,番組基準及び放送番組の編集に関する基本計画,法64条の受信契約の条項及び受信料の免除の基準等経営の重要事項について議決することとされているほか,役員の職務の執行を監督する権限を有している(法29条1項2号)。 一方,協会の役員としては,経営委員会の委員のほか,経営委員会により任命され,協会を代表し,経営委員会の定めるところに従ってその業務を総理する会長と,経営委員会の同意を得て会長が任命する副会長及び理事が置かれ,これらの者によって理事会が構成され,理事会が協会の重要業務の執行について審議することとされている(法49条ないし52条)。
(2)収支予算,事業計画及び資金計画の国会承認
   協会の財務及び会計については,協会が毎事業年度の収支予算,事業計画及び資金計画(以下「収支予算等」という。)を総務大臣に提出し(法70条 1項),総務大臣がこれに意見を付して内閣を経て国会に提出し,国会の承認を受けなければならないとされている(同条2項)。また,本件規定により契約を締結した者から徴収する受信料の月額についても,国会の収支予算の承認によって定めるものとされている(同条4項)(なお,受信料の月額は,収支予算に記載される(放送法施行規則(以下「規則」という。)26条1項1 号)。)。
   具体的には,収支予算等は,経営委員会において議決された後(法29条 :i項1号ニ),総務大臣に提出される(法70条1項)。総務大臣は,収支予算等の必要的記載事項(規則26条ないし28条)が記載されているかといった形式的な審査をするとともに,予算に計上した費目,予算配分,受信料収納予測,積算根拠等について,その政策的妥当性を審査し,その判断結果を意見として表明する。判断基準は一律に定めることは困難であり,実際に, 判断基準は法令により特段定められてはいないが,社会経済的な状況,科学技術の進展,受信料収納状況等の変化に応じて個々具体的に判断していくことになるほか,法で定める協会の目的,業務内容に照らしその当否を判断した上で,意見を付す(法70条2項)(金深186及び187ページ)。
   総務大臣は,収支予算等に付す意見について,電波監理審議会に諮間しなければならない(法177条1項3号)。電波監理審議会は,「電波及び放送法第ニ条第ー号に規定する放送に関する事務の公平かつ能率的な運営を図り, この法律(引用者注,電波法)及び放送法の規定によりその権限に属させられた事項を処理するため」に総務省に置かれ(電波法99条の2),「公共の福祉に関し公正な判断をすることができ,広い経験と知識を有する者のうちから,両議院の同意を得て,総務大臣が任命」する5名の委員からなる組織である(同法99条の2の2第1項,99条の3第1項)。電波監理審議会が会議を開き,議決をするには,会長を含む3人以上の委員の出席が必要であり(同法99条の10第1項),出席者の過半数をもって議事を決する(同条第2項)こととされている。総務大臣が電波監理審議会に諮間する場合は,文書により行い,かつ,必要な資料を添付するものとされ(電波監理審議会議事規則6条),電波監理審議会の答申は,主文,事実及び理由を記載した書面により行われる(同規則7条1項)。電波監理審議会は,総務大臣に必要な勧告をすることができる(法179条1項)。
   総務大臣は,電波監理審議会からの答申を得た後,協会の収支予算等につき,これに意見を付し,内閣を経て国会に提出し,その承認を受ける(法7 0条2項)。承認については,特別の定めがないため,通常の両議院の議事として,出席議員の過半数でこれを決し,可否同数のときは,議長の決するところによりされることとなる(憲法56条2項)。協会の収支予算等は,国会の承認がなければ執行できない。予算の承認によりその枠組みの中で協会に歳出権が付与されるものである。この場合の承認とは,国会が協会の収支予算等について同意を与えることである。
(3)業務報告書及び財務諸表の国会への報告・提出
   協会は,毎事業年度の業務報告書を作成し,これに監査委員会の意見書を添え,当該事業年度経過後3箇月以内に,総務大臣に提出しなければならず (法72条1項),総務大臣は,これに意見を付すとともに上記監査委員会の意見書を沿え,内閣を経て国会に報告しなければならない(同条2項)。 また,協会は,毎事業年度の財産目録,貸借対照表,損益計算書等の財務諸表を作成し,これらに監査委員会の意見書を添え,当該事業年度経過後3 箇月以内に,総務大臣に提出しなければならず(法74条1項),総務大臣は, これを内閣に提出しなければならず(同条2項),内閣は,会計検査院の検査を経てこれを国会に提出しなければならない(同条3項)。
(4)受信料免除基準及び受信契約条項の策定・変更の総務大臣の認可
   協会は,あらかじめ,総務大臣の認可を受けた基準によるのでなければ, 受信契約締結者から徴収する受信料を免除してはならない(法64条2項)。 受信料は公共的放送機関である協会の維持運営のため,特定の者の受信料を免除することは受信者の公平負担の考え方に反することになるから,協会が恋意的に受信料の免除をすることがないようにする趣旨である(金深176 ページ)。
   また,協会は,受信契約の条項の策定及び変更について,総務大臣の認可を受けなければならない(同条3項)。受信料は,大量の事務処理を要するものであること,公平負担を確保する必要があること,個々の受信者との個別の交渉になじまないことから附合契約とされており,相手方は,協会があらかじめ定めた定型的な契約条項を承認するか否かの選択しかできない立場に立つこと,また,受信契約は契約締結の義務が受信者に課せられるものであること,受信者の権利義務に係わるものであることから,受信契約の条項の策定及び変更について総務大臣の認可が必要とされたものである(金深17 6及び177ページ)。
   具体的には,契約条項の策定及び変更は,経営委員会において議決された後(法29条1項1号ヌ),総務大臣に認可の申請がされる(法64条3項)。 総務大臣は,契約条項の必要的記載事項(規則23条)が記載されているかといった形式的な審査をする。その他,実質的な認可基準は,法令により特段定められていないが,上記のような総務大臣の認可が必要とされた趣旨に照らし審査を行う。総務大臣は,契約条項の策定及び変更の認可に際して, 電波監理審議会に諮間しなければならない(法177条1項2号)。電波監理審議会の位置付け,諮間の具体的な手続・内容は,上記(2)で述べたとおりである。

第7 結論

   以上のとおり,本件規定は,憲法13条,14条,19条,21条1項,2 9条,41条,73条6号,84条に違反せず,他に本件規定と憲法適合性が問題となるような憲法上の規定は見当たらないから,本件規定は憲法に違反するものではない。
以上

別紙 参考文献等一覧

【参考文献の略称】(50音順)
芦部      芦部信喜『憲法学Ⅲ人権各論(1)〔増補版〕』(有斐閣,平12)
石川        石川健治「契約の自由」大石英・石川健治編『新・法律学の争点シリーズ3 憲法の争点』(有斐閣,平20)
内川       内川芳美『マス・メディア法政策史研究』(有斐閣,平1)
大石       大石員『憲法講義II(第2版)』(有斐閣,平24)
金揮       金深薫『放送法逐条解説〔第2版〕』(情報通信振興会,平24)
河野       河野弘矩「NHK受信契約」遠藤浩ほか監修・淡路剛久ほか編『現代契約法大系(7) 』(有斐閣,昭59)
熊谷       熊谷洋「ドイツの放送負担金制度導入から1年」『放送研究と調査 (平成26年4月号)』
五十年史     日本放送協会編『放送五十年史』(日本放送出版協会,昭52)
五十年史資料編  日本放送協会編『放送五十年史 資料編』(日本放送出版協会,昭52)
塩野       塩野宏『放送法制の課題』(有斐閣,平1)
宍戸       宍戸常寿「公共放送の「役割」と「制度」」ダニェル・フット/長谷部恭男編『融ける境 超える法4 メディアと制度』(東京大学出版会,平17)
柴田       柴田厚「アメリカの公共放送の制度と財源」放送文化研究所『N HK放送文化研究所年報2012』(平24)
証言(I)    日本放送教育協会編『放送史への証言(I)~放送関係者の聞き取り調査から~』(日本放送教育協会,平5)
荘        荘宏『放送制度論のために』(日本放送出版協会,昭38)
杉内       杉内有介「ドイツの公共放送の制度と財源」放送文化研究所『NHK放送文化研究所年報2012』(平24)
世界の放送    NHK放送文化研究所『NHKデータプック世界の放送2O17』(NHK出版,平29)
占領下      放送法制立法過程研究会編『資料・占領下の放送立法』(東京大学出版会,昭55)
高辻       高辻正己『憲法講説(全訂第二版)』(良書普及会,昭55)
田中       田中則広「韓国の公共放送の制度と財源」放送文化研究所『NHK文化放送研究所年報2012』(平24)
田中=平井    田中正人=平井正俊『放送行政法概説』(電波振興会,昭35)
註解憲法     法学協曾編『註解日本園憲法 上巻(改訂版)』(有斐閣,昭28)
展望       郵政省放送行政局監修『放送政策の展望』(電気通信振興会,昭62)
富深       富深達「判批」『最高裁判所判例解説民事篇昭和48年度』(法曹会,昭52)
中村       中村美子「イギリスの公共放送の制度と財源」放送文化研究所『NHK放送文化研究所年報2012』(平24)
新田       新田哲郎「フランスの公共放送の制度と財源」放送文化研究所『N HR放送文化研究所年報2012』(平24)
野村総研    株式会社野村総合研究所「「震災に伴うメディア接触動向に関する調査」を実施~NHKへの信頼度が上昇し,ソーシャルメディアも存在感~」(平23)
長谷部a      長谷部恭男『テレビの憲法理論ー多メディア・多チャンネル時代の放送法制』(弘文堂,平4)
長谷部b      長谷部恭男「公共放送の役割と財源一英国の議論を素材として―」 船田正之=長谷部恭男『放送制度の現代的展開』(有斐閣,平13)
長谷部c      長谷部恭男『憲法学のフロンティア』(岩波書店,平25)
長谷部ほか    座長長谷部恭男「「デジタル時代の公共放送に関する勉強会」報告書」『放送研究と調査(平成15年10月号)』
東日本大震災   メディア研究部番組研究グループ「東日本大震災発生時・テレビは何を伝えたか」『放送研究と調査(平成23年5月号)』
村上       村上聖ー「放送法・受信料関連規定の成立過程~占領期の資料分析から~」『放送研究と調査(平成26年5月号)』
問題       衆議院調査局総務調査室NHK受信料問題研究グループ「NHK 受信料をめぐる問題について」衆議院調査局『RE S EARCH BUREAU 論究(2007年4号)』(平19)
読みとく     鈴木秀美=山田健太=砂川浩慶『放送法を読みとく』(商事法務,
平29)
【参考資料】
1 国立公文書館所蔵「放送法案」(昭和24年8月13日)
2 国立公文書館所蔵「放送法案」(昭和24年8月27日)
3 昭和25年2月2日第7回国会衆議院電気通信委員会議録第4号
4 国立公文書館所蔵「答申書」(昭和39年9月8日)
5 BBC ITelevision Licence Fee Trust Statement for the Year Endbing 31 March 2016J (BBCテレビ受信料報告書)
6 ARD ZDF Deutschlandradio Beitragsservice FGesch首eftsbeiicht 2014J(負担金サ ービス報告書)
7 昭和25年1月24日第7回国会衆議院電気通信委員会議録第1号
8 昭和25年2月7日第7回国会衆議院電気通信委員会公聴会議録第1号
9 「デジタル時代のNHK懇談会」報告書(平成18年6月19日)
10   放送を巡る諸課題に関する検討会「第一次とりまとめ」(平成28年9月)
1 相談予約の電話番号は06-6364-8525であり,交通事故及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
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2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。