地方公共団体の公債権及び私債権の取扱い

第1 地方公共団体の公債権及び私債権の取扱い

1 地方公共団体の公債権及び私債権
(1) 地方公共団体の金銭債権には以下のものがあります。
① 公債権(地方自治法231条の3第1項参照)
    公法上の原因(例えば,行政庁の処分)に基づいて発生する債権です。
② 私債権(地方自治法施行令171条参照)
    私法上の原因(例えば,当事者間の合意)に基づいて発生する債権です。
(2) 公債権に対しては不服申立てができる(地方自治法231条の3第5項ないし第9項参照)のに対し,私債権に対しては不服申立てができません(長野県伊那市HPの「市の債権の分類」参照)。
(3) 弁護士業務との関係でいえば,「強制徴収公債権の回収における弁護士の役割~催告・納付相談業務にかかる弁護士の関与について~」が参考になります。

2 公債権の種類
(1) 公債権には,以下の二つがあります。
① 強制徴収公債権(地方自治法231条の3第3項参照)
   租税債権の他,地方税の滞納処分の例により強制徴収できる債権のことであり,いわゆる公租公課です。
② 非強制徴収公債権(地方自治法施行令171条の2参照)
   地方税の滞納処分の例によることができず,支払督促や訴えの提起等を経た上で,民事執行法による強制執行(「判決に基づく強制執行」参照)が必要な債権です。
(2) 非強制徴収公債権及び私債権は,地方税の滞納処分の例によることができないという点では共通しています。
(3) 大阪市による債権回収手続については,大阪市HPの「債権回収対策室」が参考になります。
(4) 訴訟手続については,「弁護士依頼時の一般的留意点」「陳述書」「証人尋問及び当事者尋問」を参照してください。

3   消滅時効の援用の要否
(1) 公債権の場合
   消滅時効は5年であり(地方自治法236条1項前段),時効の援用を要せず,また,その利益を放棄することはできません(地方自治法236条2項)。
(2)   私債権の場合
ア   消滅時効は民法又は商法522条の定めるところによりますし,時効の援用を要します(民法145条)。
イ   時効による債権消滅の効果は,時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく,時効が援用されたときにはじめて確定的に生ずるものです(最高裁昭和61年3月17日判決)。
   そして,地方公共団体としては,仮に私債権の消滅時効が成立している場合であっても,消滅時効の援用を相手方に積極的に教える必要はないとされています。

4 消滅時効の中断

(1) 公債権の場合
ア   督促(地方自治法231条の3第1項)によって消滅時効が中断します(地方自治法236条4項)。
イ 強制徴収公債権の場合,督促をしていない限り,滞納処分に基づく差押え等をすることはできません(例えば,市町村民税の場合につき地方税法331条1項)。
(2) 私債権の場合
ア   請求(民法147条1号),差押え,仮差押え又は仮処分(民法147条2号)及び承認(民法147条3号)によって消滅時効が中断します。
   例えば,滞納者が滞納の存在を認める書面を作成した場合,「承認」に該当します。
イ 督促(地方自治法240条2項・地方自治法施行令171条)は催告(民法153条)と同じ効力しか持ちませんから,6か月しか消滅時効を中断しません。
ウ 地方自治法施行令171条は,地方自治法231条の3第1項に規定する歳入に係る債権,つまり,分担金,使用料,加入金,手数料及び過料その他の自治体の歳入に係る債権については,その適用を除外しています。
   そのため,督促について定めた地方自治法施行令171条は,私債権についてしか適用されない条文となっています。

5 延滞金及び遅延損害金
(1) 公債権の場合
ア   督促をした公債権については,条例で定めるところにより手数料及び延滞金を徴収することができます(地方自治法231条の3第2項)。
イ   延滞金は,平成25年12月31日までに発生したものについては年14.6%です(地方税法56条2項等)が,その後に発生したものについては特例基準割合の率が適用されます(地方税法付則3条の2)から,9.0%ないし9.2%です(神奈川県相模原市HPの「市税の延滞金の計算方法について知りたい。」参照)。
(2) 私債権の場合
   遅延損害金は年5%です(民法419条1項・404条)。
 
6 債権の申出(地方自治法施行令171条の4参照)
(1) 強制執行手続の場合又は担保権の実行手続の場合(裁判所HPの「民事執行手続」参照)

ア   強制徴収公債権の場合,交付要求となります(地方税法14条の2)。
イ   非強制徴収公債権又は私債権の場合,債務名義が必要となる配当要求となります(民事執行法51条1項)。
(2) 破産手続開始決定の場合
   破産債権の届出となります(「債権調査手続」参照)。
(3) 再生手続開始決定の場合   
   再生債権の届出となります。
 
公債権と私債権を比較した表
   南九州市HPの「公債権と私債権の比較」が分かりやすいです。 

第2 公債権及び私債権の具体例

〇船橋市HPの「船橋市の債権について」によれば,公債権及び私債権の具体例は以下のとおりです。

1 強制徴収公債権の具体例
(1) 国民健康保険料
(2) 後期高齢者医療保険料
(3) 介護保険料
(4) 保育所運営費負担金
(5) 公立保育所使用料
(6) 下水道使用料
(7) 下水道事業受益者負担金
(8) 母子生活支援施設入所費負担金
(9) 養育医療の給付に関する徴収金
(10) 療育の給付に関する徴収金
(11) 路上喫煙及びポイ捨て防止条例による過料
(12) 道路占用料

2 非強制徴収公債権の具体例
(1) 生活保護費返還金(生活保護法63条参照)
(2) 屎尿(しにょう)収集手数料
(3) 児童育成料
(4) 市場使用料

3 私債権の具体例
(1) 奨学金返還金
(2) 市営住宅使用料
(3) 市営霊堂使用料
(4) 学校給食費
(5) 水洗便所化改造工事資金貸付金

第3 首長による免除,及び地方議会による債権放棄

1 首長による免除
   地方自治法96条1項10号の「債権放棄」は普通地方公共団体の議会の議決を要するのに対し,地方自治法240条3項・地方自治法施行令171条の7の「免除」は普通地方公共団体の長が行うことができます(地方自治法96条1項10号の「特別の定め」です。)。
   ただし,「免除」をするためには,履行延期の特約等をした債権(地方自治法240条3項・地方自治法施行令171条の6)について,当初の履行期限から10年を経過した後において,なお,債務者が無資力又はこれに近い状態にあり,かつ,弁済することができる見込みがないと認められる必要があります。

2 地方議会による債権放棄

(1)   普通地方公共団体の議会の議決を経た上でその長が債権の放棄をする場合におけるその放棄の実体的要件については,地方自治法その他の法令においてこれを制限する規定は存しません。
   そのため,地方自治法においては,普通地方公共団体がその債権の放棄をするに当たって,その議会の議決及び長の執行行為(条例による場合には,その公布)という手続的要件を満たしている限り,その適否の実体的判断については,住民による直接の選挙を通じて選出された議員により構成される普通地方公共団体の議決機関である議会の裁量権に基本的に委ねられています最高裁平成24年4月20日判決)。
(2)ア 例えば,大阪府堺市の場合,堺市債権の管理に関する条例(平成24年9月27日条例第43号)(以下「堺市債権管理条例」といいます。)15条が,条例における権利放棄に関する特別の定めに該当します。
   そのため,大阪府堺市は,以下の場合,堺市議会の議決を経ることなく,市長又は上下水道事業管理者の判断で債権放棄をすることがあります。
① 債務者が生活保護法の適用を受け、又はこれに準じる状態にあり、資力の回復が困難で、当該非強制徴収債権について弁済することができる見込みがないと認められるとき。
② 破産法253条1項、会社更生法204条1項その他の法令の規定により債務者が当該非強制徴収債権につきその責任を免れたとき。
③ 当該非強制徴収債権について消滅時効が完成したとき(債務者が時効の援用をしない特別の理由がある場合を除く。)。
④ 強制執行等の手続をとっても、なお完全に履行されない当該非強制徴収債権について、強制執行等の手続が終了したときにおいて債務者が無資力又はこれに近い状態にあり、弁済することができる見込みがないと認められるとき。
⑤ 債務者が死亡し、その債務について限定承認があった場合において、その相続財産の価額が強制執行した場合の費用並びに他の債権に優先して弁済を受ける市の債権及び市以外の者の権利の金額の合計を超えないと見込まれるとき。
⑥ 徴収停止の措置を採った当該非強制徴収債権について、当該徴収停止の措置を採った日から相当の期間を経過したとき。
イ   堺市債権管理条例の非強制徴収公債権には私債権が含まれていると思います(堺市債権管理条例2条2号及び3号参照)。

第4 不納欠損の処理,並びに住民監査請求及び住民訴訟

1   不納欠損の処理が認められる場合
(1)   不納欠損の処理が認められるのは以下の場合です(外部HPの「自治体債権の管理に係る基礎知識」参照)。
(消滅時効)
① 地方公共団体の金銭債権について5年間の消滅時効が完成した場合(地方自治法236条1項・2項)
② 私法上の債権について消滅時効の援用があった場合
(債務者の破産)
③ 法人について清算すべき財産が存在しない状況で破産手続が終了し、法人格が消滅した場合(破産法35条)
(免除)
④ 債務者の無資力等により免除した場合(地方自治法施行令171条の7)
⑤ 地方公共団体の職員の賠償責任があると認定されたものについて,その後,議会の同意を得て全部又は一部を免除した場合(地方自治法243条の2第4項)
⑥ 地方税の減免を条例の規定に基づき決定した場合(地方税法)
(債権放棄)
⑦ 地方議会の議決を得て債権放棄をした場合(地方自治法96条1項10号)
(2) 自然人に対する強制徴収公債権は租税等の請求権(破産法97条4号参照)に該当しない点で免責許可決定の影響を受けません(「免責許可決定及び非免責債権」及び「自己破産又は個人再生における公租公課の取扱い」参照)。
   そのため,不納欠損の処理をするためには別の原因が必要となります。

2 地方税の減免に関する地方税法の根拠規定は以下のとおりです。
(1) 都道府県税
① 法人の道府県民税の減税につき地方税法61条
② 法人の事業税の減免につき地方税法72条の49の4
③ 個人の事業税の減免につき地方税法72条の62
④ 不動産取得税の減免につき地方税法73条の31
⑤ 自動車取得税の減免につき地方税法128条
⑥ 軽油引取税の減免につき地方税法144条の42
⑦ 自動車税の減免につき地方税法162条
⑧ 鉱区税の減免につき地方税法194条
⑨ 道府県法定外普通税の減免につき地方税法274条本文
(2) 市町村税
① 市町村民税の減免につき地方税法323条
② 固定資産税の減免につき地方税法367条
③ 軽自動車税の減免につき地方税法454条
④ 鉱産税の減免につき地方税法532条
⑤ 特別土地保有税の減免につき地方税法605条の2
⑥ 市町村法定外普通税の減免につき地方税法684条本文
⑦ 狩猟税の減免につき地方税法700条の62
⑧ 事業所税の減免につき地方税法701条の57
(3) 法定外目的税の減免(地方税法733条の13)

3 不適切な不納欠損の処理は,住民監査請求及び住民訴訟の対象となる可能性があること
(1) 地方公共団体が有する債権の管理について定める地方自治法240条,及び地方自治法施行令171条ないし171条の7に基づき,客観的に存在する債権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず,原則として,地方公共団体の長にその行使又は不行使についての裁量はありません最高裁平成21年4月28日判決。なお,先例として,最高裁平成16年4月23日判決)。
(2)   地方公共団体が不納欠損の処理が認められない場合に不納欠損の処理を行った場合,「公金の賦課・徴収を怠る事実」,「財産の管理を怠る事実」があったということで住民監査請求及び住民訴訟の対象となる可能性があります(大阪市の事例につき,大阪市HPの「住民監査請求の監査」参照)。

第5 生活保護法に基づく費用の返還及び徴収の取扱い

1 普通地方公共団体の非強制徴収公債権及び私債権は,租税等の請求権(破産法97条4号参照)に該当しませんから,免責許可決定に基づく免責の対象となります(破産法253条1項1号参照)。
 
2 生活保護法63条に基づく費用の返還は非強制徴収公債権ですから,生活保護の受給自体が「悪意で加えた不法行為」(破産法253条1項2号)に該当しない限り,免責許可決定に基づく免責の対象となります。
 
3(1)   生活保護法78条に基づく費用の徴収のうち,平成26年7月1日以降に支給された生活保護費の徴収に関するものは強制徴収公債権です(生活保護法78条4項)から,免責許可決定に基づく免責の対象とはなりません。
(2) 平成26年7月1日施行の改正生活保護法については,厚生労働省社会援護局保護課が作成した「生活保護法改正法の概要」が分かりやすいです。 
1 相談予約の電話番号は06-6364-8525であり,交通事故及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)の略歴取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ等はこちらであり,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図はこちらです。