公債権及び私債権

第0 目次

第1   総論
第2   公債権及び私債権の具体例
第3   首長による免除,及び地方議会による債権放棄
第4   不納欠損の処理,並びに住民監査請求及び住民訴訟
第5   生活保護法に基づく費用の返還及び徴収の取扱い
第6の1 消滅時効に関する違い
第6の2 私債権の消滅時効の具体例
第7の1 地方自治法231条の3及び236条の条文
第7の2 地方自治法施行令171条ないし171条の7の条文

*1 内閣府公共サービス改革推進室に「地方公共団体の公共サービス改革『公金の債権回収業務』~官民連携にむけて~」(平成25年3月)が載っています。
*2 総務省HPに「公金の債権回収に関する法令と実務」(平成29年2月21日)が載っています。
*3 公債権につき,滞納処分に基づく差押えがあった場合の争い方については,滞納処分・差押え問題東日本学習交流集会の「滞納処分・差押えの基礎知識」が参考になります。

第1 総論

1 公債権及び私債権
(1) 地方公共団体の金銭債権を分類すると,以下のものがあります。
① 公債権(地方自治法231条の3第1項参照)
    公法上の原因(例えば,行政庁の処分)に基づいて発生する債権です。
② 私債権(地方自治法施行令171条参照)
    私法上の原因(例えば,当事者間の合意)に基づいて発生する債権です。
(2) 公債権に対しては不服申立てができる(地方自治法231条の3第5項ないし第9項参照)のに対し,私債権に対しては不服申立てができません(長野県伊那市HPの「市の債権の分類」参照)。
(3) 弁護士業務との関係でいえば,「強制徴収公債権の回収における弁護士の役割~催告・納付相談業務にかかる弁護士の関与について~」が参考になります。

2 公債権の種類
(1) 公債権には,以下の二つがあります。
① 強制徴収公債権(地方自治法231条の3第3項参照)
   租税債権の他,地方税の滞納処分の例により強制徴収できる債権のことであり,いわゆる公租公課です。
② 非強制徴収公債権(地方自治法施行令171条の2参照)
   地方税の滞納処分の例によることができず,支払督促や訴えの提起等を経た上で,民事執行法による強制執行(「判決に基づく強制執行」参照)が必要な債権です。
(2) 非強制徴収公債権及び私債権は,地方税の滞納処分の例によることができないという点では共通しています。
(3) 大阪市による債権回収手続については,大阪市HPの「債権回収対策室」が参考になります。
(4) 訴訟手続については,「弁護士依頼時の一般的留意点」「陳述書」「証人尋問及び当事者尋問」を参照してください。

3 延滞金及び遅延損害金
(1) 公債権の場合
ア   督促をした公債権については,条例で定めるところにより手数料及び延滞金を徴収することができます(地方自治法231条の3第2項)。
イ   延滞金は,平成25年12月31日までに発生したものについては年14.6%です(地方税法56条2項等)が,その後に発生したものについては特例基準割合の率が適用されます(地方税法付則3条の2)から,9.0%ないし9.2%です(神奈川県相模原市HPの「市税の延滞金の計算方法について知りたい。」参照)。
(2) 私債権の場合
   遅延損害金は年5%です(民法419条1項・404条)。

4 強制執行等
(1) 督促をした結果,債務者から何らかの連絡があった場合,納付交渉・納付相談となりますが,支払がなく,かつ,何らの連絡もない場合,次の手続が必要となります。
(2) 強制徴収公債権の場合(アないしエにつき大阪市HPの「市債権回収対策室」参照)
ア 地方税法の例により滞納処分をすることができますから,財産の調査,財産の差押え等が可能です。
イ   財産の調査として,勤務先への勤務照会,取引先への売掛金調査,金融機関への預貯金調査,生命保険契約状況調査,不動産・自動車等の保有状況調査等を行えます(国税徴収法141条)。
   また,滞納処分のため必要がある場合,滞納者等の住宅・事務所等を捜索できます(国税徴収法142条)。
ウ 財産調査の結果に基づき,財産の差押えを行えます(国税徴収法47条)。
   差押えを行う場合,滞納者本人だけでなく,利害関係者(勤務先,金融機関,事業契約者,抵当権者等)に「差押通知書」を送付します。
   給与,預貯金,売掛金,生命保険,不動産,自動車,動産(電化製品,宝石等の貴金属等)など,金銭的価値があり,換価処分により滞納金に充てることが可能なものはすべて差押えの対象となります。
エ 差押えをした不動産及び動産は「公売」により,差押えをした金銭債権は「取立て」(預貯金の場合,金融機関からの引き出し,生命保険の場合,解約返戻金の徴収)により差押財産を現金に換えます。
オ 自治体にて徴税事務を行う職員は,地方税法の規定により,税の賦課徴収に係る検査及び調査又は延滞金の徴収等について首長の職務権限を委任された徴税吏員となります。
   徴税吏員の職務となる滞納処分の手続は,国税徴収法に規定されていますが,地方税法をはじめとする公租公課の徴収に関する法令にも準用されていますので,滞納処分は「国税徴収法に規定する滞納処分の例による」ことになり,税務署職員と同様に法令に基づく滞納処分を自らの判断で執行できる権限を有しています(千葉県習志野市HPの「法令に基づく「滞納処分」をやむを得ず行う場合があります」参照)。
カ 滞納者の権利については,外部HPの「「滞納整理」に対する『対策と法的根拠』」が参考になります。 
(3) 非強制徴収公債権及び私債権の場合
ア 原則として,担保権の実行,強制執行,訴訟手続による履行の請求(非常事件の手続を含む。)をしなければなりません(地方自治法施行令171条の2)。
   例外として,徴収停止,履行延期の特約等の措置を採る場合その他特別の事情がある場合,この限りではありません。
イ 地方自治法施行令171条の2は,強制徴収公債権については適用を除外しています。
(4) 国税庁HPの「第26条関係 国税及び地方税等と私債権との競合の調整」に,公債権と私債権の優先順位等が書いてあります。

5 履行期限の繰り上げ(地方自治法施行令171条の3)
(1) 以下の場合,履行期限の繰り上げがなされます。
① 債権者が破産手続開始の決定を受けたとき等(民法137条)
② 期限の利益喪失条項に該当する事由が発生したとき
(2) 地方自治法施行令171条の3は,公債権及び私債権の両方に適用があります。
 
6 債権の申出(地方自治法施行令171条の4)
(1) 強制執行手続の場合又は担保権の実行手続の場合(裁判所HPの「民事執行手続」参照)

ア   強制徴収公債権の場合,交付要求となります(地方税法14条の2)。
イ   非強制徴収公債権又は私債権の場合,債務名義が必要となる配当要求となります(民事執行法51条1項)。
(2) 破産手続開始決定の場合
   交付要求又は破産債権の届出となります(「債権調査手続」参照)。
(3) 再生手続開始決定の場合   
   交付要求又は再生債権の届出となります。
(4) 地方自治法施行令171条の4は,公債権及び私債権の両方に適用があります。
 
7 滞納処分の執行停止及び徴収停止
(1) 徴収停止等の意義
   債務者が行方不明になったり,法人である債務者が事業を止めてしまったりした場合,事実上徴収できないことが多いです。
   また,金額が少額で,訴訟等の手段を採ることが経済的合理性に欠けることがあります。
   このような場合において,所定の要件を備えている場合,徴収停止等が実施されます。
(2) 強制徴収公債権の場合
   滞納処分の執行停止(地方税法15条の7)によります。
(3) 非強制徴収公債権及び私債権の場合
   徴収停止(地方自治法施行令171条の5)によります。
 
8 徴収の猶予又は換価の猶予,及び履行延期の特約又は処分
(1) 履行延期の特約等の意義
   滞納金を分納したり,滞納金を含めた各回の償還金の金額を減額したりする場合,本来の履行紀元を変更する必要があります。
   このような場合において,債務者が無資力又はこれに近い状態にあるときなど,所定の要件を備えている場合,履行延期の特約等が実施されます。
(2) 強制徴収公債権の場合
   徴収の猶予(地方税法15条の1ないし15条の4),又は換価の猶予(地方税法15条5及び15条の6)によります。
(3) 非強制徴収公債権の場合
   履行延期の処分によります。
(4) 私債権の場合
   履行延期の特約によります。 

9 公債権と私債権を比較した表等
(1)   比較した表としては,南九州市HPの「公債権と私債権の比較」が分かりやすいです。 
(2) 千葉県自治研修センターのクリエイティブほうそう第76号の「債権管理の基礎知識」(PDF10頁)に,強制徴収公債権,非強制徴収公債権及び私債権に関する,地方自治法・地方自治法施行令の適用関係の表が載ってあります。
(3) 滋賀県野洲市(やすし)の「野洲市債権管理マニュアル」(平成27年12月16日策定)は,強制徴収公債権,非強制徴収公債権及び私債権に関する債権管理マニュアルとなっています。
(4)ア 学校法人加計学園(かけがくえん)が運営している岡山理科大学の獣医学部新設が検討されている愛媛県今治市のように,市の債権の回収について,民間の債権回収会社(サービサー)に委託しているところもあります(愛媛県今治市HPの「債権管理の適正化について-悪質滞納に対する徴収強化」参照)。
イ ちなみに,29期の木澤克之最高裁判所判事(元 東京弁護士会司法修習委員会委員長)は,学校法人加計学園の元監事です(「第24回最高裁判所裁判官国民審査」参照)。

第2 公債権及び私債権の具体例

〇船橋市HPの「船橋市の債権について」によれば,公債権及び私債権の具体例は以下のとおりです。

1 強制徴収公債権の具体例
(1) 国民健康保険料(国民健康保険法79条の2)
(2) 後期高齢者医療保険料(高齢者の医療の確保に関する法律113条)
(3) 介護保険料(介護保険法144条)
(4) 保育所運営費負担金
(5) 公立保育所使用料(児童福祉法51条3号)
(6) 下水道使用料(下水道法20条)
(7) 下水道事業受益者負担金(都市計画法75条5項)
(8) 母子生活支援施設入所費負担金
(9) 養育医療の給付に関する徴収金
(10) 療育の給付に関する徴収金
(11) 路上喫煙及びポイ捨て防止条例による過料(地方税法231条の3第3項)
(12) 道路占用料(道路法73条)

2 非強制徴収公債権の具体例
(1) 生活保護費返還金(生活保護法63条参照)
(2) 屎尿(しにょう)収集手数料
(3) 児童育成料
(4) 市場使用料
* ①平成26年7月1日以後に支弁した保護費に係る生活保護法78条徴収金及び②生活保護法63条返還金のうち生活保護法77条の2徴収金は強制徴収公債権です。

3 私債権の具体例
(1) 奨学金返還金
(2) 市営住宅使用料(最高裁昭和59年12月13日判決参照)
(3) 市営霊堂使用料
(4) 学校給食費
(5) 水洗便所化改造工事資金貸付金

第3 首長による免除,及び地方議会による債権放棄

1 首長による免除
   地方自治法96条1項10号の「債権放棄」は普通地方公共団体の議会の議決を要するのに対し,地方自治法240条3項・地方自治法施行令171条の7の「免除」は普通地方公共団体の長が行うことができます(地方自治法96条1項10号の「特別の定め」です。)。
   ただし,「免除」をするためには,履行延期の特約等をした債権(地方自治法240条3項・地方自治法施行令171条の6)について,当初の履行期限から10年を経過した後において,なお,債務者が無資力又はこれに近い状態にあり,かつ,弁済することができる見込みがないと認められる必要があります。

2 地方議会による債権放棄

(1)   普通地方公共団体の議会の議決を経た上でその長が債権の放棄をする場合におけるその放棄の実体的要件については,地方自治法その他の法令においてこれを制限する規定は存しません。
   そのため,地方自治法においては,普通地方公共団体がその債権の放棄をするに当たって,その議会の議決及び長の執行行為(条例による場合には,その公布)という手続的要件を満たしている限り,その適否の実体的判断については,住民による直接の選挙を通じて選出された議員により構成される普通地方公共団体の議決機関である議会の裁量権に基本的に委ねられています最高裁平成24年4月20日判決)。
(2)ア 例えば,大阪府堺市の場合,堺市債権の管理に関する条例(平成24年9月27日条例第43号)(以下「堺市債権管理条例」といいます。)15条が,条例における権利放棄に関する特別の定めに該当します。
   そのため,大阪府堺市は,以下の場合,堺市議会の議決を経ることなく,市長又は上下水道事業管理者の判断で債権放棄をすることがあります。
① 債務者が生活保護法の適用を受け、又はこれに準じる状態にあり、資力の回復が困難で、当該非強制徴収債権について弁済することができる見込みがないと認められるとき。
② 破産法253条1項、会社更生法204条1項その他の法令の規定により債務者が当該非強制徴収債権につきその責任を免れたとき。
③ 当該非強制徴収債権について消滅時効が完成したとき(債務者が時効の援用をしない特別の理由がある場合を除く。)。
④ 強制執行等の手続をとっても、なお完全に履行されない当該非強制徴収債権について、強制執行等の手続が終了したときにおいて債務者が無資力又はこれに近い状態にあり、弁済することができる見込みがないと認められるとき。
⑤ 債務者が死亡し、その債務について限定承認があった場合において、その相続財産の価額が強制執行した場合の費用並びに他の債権に優先して弁済を受ける市の債権及び市以外の者の権利の金額の合計を超えないと見込まれるとき。
⑥ 徴収停止の措置を採った当該非強制徴収債権について、当該徴収停止の措置を採った日から相当の期間を経過したとき。
イ   堺市債権管理条例の非強制徴収公債権には私債権が含まれていると思います(堺市債権管理条例2条2号及び3号参照)。

第4 不納欠損の処理,並びに住民監査請求及び住民訴訟

1   不納欠損の処理が認められる場合
(1)   不納欠損の処理が認められるのは以下の場合です(外部HPの「自治体債権の管理に係る基礎知識」参照)。
(消滅時効)
① 地方公共団体の金銭債権について5年間の消滅時効が完成した場合(地方自治法236条1項・2項)
② 私法上の債権について消滅時効の援用があった場合
(債務者の破産)
③ 法人について清算すべき財産が存在しない状況で破産手続が終了し、法人格が消滅した場合(破産法35条)
(免除)
④ 債務者の無資力等により免除した場合(地方自治法施行令171条の7)
⑤ 地方公共団体の職員の賠償責任があると認定されたものについて,その後,議会の同意を得て全部又は一部を免除した場合(地方自治法243条の2第4項)
⑥ 地方税の減免を条例の規定に基づき決定した場合(地方税法)
(債権放棄)
⑦ 地方議会の議決を得て債権放棄をした場合(地方自治法96条1項10号)
(2) 自然人に対する強制徴収公債権は租税等の請求権(破産法97条4号参照)に該当しない点で免責許可決定の影響を受けません(「免責許可決定及び非免責債権」及び「自己破産又は個人再生における公租公課の取扱い」参照)。
   そのため,不納欠損の処理をするためには別の原因が必要となります。

2 地方税の減免に関する地方税法の根拠規定は以下のとおりです。
(1) 都道府県税
① 法人の道府県民税の減税につき地方税法61条
② 法人の事業税の減免につき地方税法72条の49の4
③ 個人の事業税の減免につき地方税法72条の62
④ 不動産取得税の減免につき地方税法73条の31
⑤ 自動車取得税の減免につき地方税法128条
⑥ 軽油引取税の減免につき地方税法144条の42
⑦ 自動車税の減免につき地方税法162条
⑧ 鉱区税の減免につき地方税法194条
⑨ 道府県法定外普通税の減免につき地方税法274条本文
(2) 市町村税
① 市町村民税の減免につき地方税法323条
② 固定資産税の減免につき地方税法367条
③ 軽自動車税の減免につき地方税法454条
④ 鉱産税の減免につき地方税法532条
⑤ 特別土地保有税の減免につき地方税法605条の2
⑥ 市町村法定外普通税の減免につき地方税法684条本文
⑦ 狩猟税の減免につき地方税法700条の62
⑧ 事業所税の減免につき地方税法701条の57
(3) 法定外目的税の減免(地方税法733条の13)

3 不適切な不納欠損の処理は,住民監査請求及び住民訴訟の対象となる可能性があること
(1) 地方公共団体が有する債権の管理について定める地方自治法240条,及び地方自治法施行令171条ないし171条の7に基づき,客観的に存在する債権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず,原則として,地方公共団体の長にその行使又は不行使についての裁量はありません最高裁平成21年4月28日判決。なお,先例として,最高裁平成16年4月23日判決)。
(2)   地方公共団体が不納欠損の処理が認められない場合に不納欠損の処理を行った場合,「公金の賦課・徴収を怠る事実」,「財産の管理を怠る事実」があったということで住民監査請求及び住民訴訟の対象となる可能性があります(大阪市の事例につき,大阪市HPの「住民監査請求の監査」参照)。

第5 生活保護法に基づく費用の返還及び徴収の取扱い

1 平成30年10月1日以降に発生した生活保護法63条に基づく費用の返還(63条返還金)は免責の対象とならないこと
(1) 平成30年9月30日までに発生したものの取扱い
   普通地方公共団体の非強制徴収公債権及び私債権は,租税等の請求権(破産法97条4号参照)に該当しませんから,免責許可決定に基づく免責の対象となります(破産法253条1項1号参照)。
    そして,生活保護法63条に基づく費用の返還は非強制徴収公債権ですから,生活保護の受給自体が「悪意で加えた不法行為」(破産法253条1項2号)に該当しない限り,免責許可決定に基づく免責の対象となります。
(2) 平成30年10月1日以降に発生したものの取扱い
   生活保護法63条に基づく費用の返還は原則として強制徴収公債権です(生活保護法77条の2)から,免責許可決定に基づく免責の対象とはなりません。
 
2 生活保護法78条に基づく費用の徴収(78条徴収金)は免責の対象とならないこと
(1)   生活保護法78条に基づく費用の徴収のうち,平成26年7月1日以降に支給された生活保護費の徴収に関するものは強制徴収公債権です(生活保護法78条4項)から,免責許可決定に基づく免責の対象とはなりません。
(2) 78条徴収金の場合,最大で40%の上乗せがあります。
(3) 平成26年7月1日施行の改正生活保護法については,厚生労働省社会援護局保護課が作成した「生活保護法改正法の概要」が分かりやすいです。 

3 その他
(1)   大津市HPの「第3節 返還金・徴収金」に,生活保護法63条に基づく返還金及び生活保護法78条に基づく徴収金に関する,大津市の状況が載っています。
(2) 借金ヘルプセンターHPの「生活保護法第63条返還金と第78条徴収金の違いとは?」が参考になります。

第6の1 消滅時効に関する違い

1 消滅時効の援用の要否
(1) 公債権の場合
ア   消滅時効は原則として5年であり(地方自治法236条1項前段),時効の援用を要せず,また,その利益を放棄することはできません(地方自治法236条2項前段)。
イ   国民健康保険料,後期高齢者医療保険料及び介護保険料の消滅時効は2年です。 
(2)   私債権の場合
ア   消滅時効は民法又は商法522条の定めるところによりますし,時効の援用を要します(民法145条)。
イ   時効による債権消滅の効果は,時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく,時効が援用されたときにはじめて確定的に生ずるものです(最高裁昭和61年3月17日判決)。
   そして,地方公共団体としては,仮に私債権の消滅時効が成立している場合であっても,消滅時効の援用を相手方に積極的に教える必要はないとされています。
ウ 債務者が,消滅時効完成後に債権者に対し当該債務の承認をした場合,時効完成の事実を知らなかっときでも,その後,その消滅時効の援用をすることは許されません(最高裁大法廷昭和41年4月20日判決)。
(3) ちなみに,地方公共団体に対する債権についても消滅時効は5年であり(地方自治法236条1項後段),時効の援用を要せず,また,その利益を放棄することはできません(地方自治法236条2項後段)。
   ただし,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律等に基づき健康管理手当の支給認定を受けた被爆者が外国へ出国したことに伴いその支給を打ち切られたため未支給の健康管理手当の支払を求める訴訟において,支給義務者が地方自治法236条所定の消滅時効を主張することは信義則に反し許されないとされました(最高裁平成19年2月6日判決)。

2 消滅時効の中断
(1) 公債権の場合
ア   督促(地方自治法231条の3第1項)によって消滅時効が中断します(地方自治法236条4項)。
イ 強制徴収公債権の場合,督促をしていない限り,滞納処分に基づく差押え等をすることはできません(例えば,市町村民税の場合につき地方税法331条1項)。
(2) 私債権の場合
ア   請求(民法147条1号),差押え,仮差押え又は仮処分(民法147条2号)及び承認(民法147条3号)によって消滅時効が中断します。
   例えば,滞納者が滞納の存在を認める書面を作成した場合,「承認」に該当します。
イ 督促(地方自治法240条2項・地方自治法施行令171条)は催告(民法153条)と同じ効力しか持たないから,6か月しか消滅時効を中断しないと説明する文献があります(千葉県自治研修センターのクリエイティブほうそう第76号の「債権管理の基礎知識」(PDF4頁)参照)。
ウ 地方自治法施行令171条は,地方自治法231条の3第1項に規定する歳入に係る債権,つまり,分担金,使用料,加入金,手数料及び過料その他の自治体の歳入に係る債権については,その適用を除外しています。
   そのため,督促について定めた地方自治法施行令171条は,私債権についてしか適用されない条文となっています。

第6の2 私債権の消滅時効の具体例

1 公立病院の診療代債権の消滅時効は民法170条1号に基づき3年です(最高裁平成17年11月21日判決)。

2 学校給食費の消滅時効は2年です(民法173条3号)。

3 地方公共団体が有する水道料金債権の消滅時効は民法173条1号に基づき2年です(東京高裁平成13年5月22日判決)が,下水道料金の消滅時効は5年です(地方自治法263条1項参照)(外部HPの「行政実務レポート15」参照)。

第7の1 地方自治法231条の3及び236条の条文

(督促、滞納処分等) 
第二百三十一条の三   分担金、使用料、加入金、手数料及び過料その他の普通地方公共団体の歳入を納期限までに納付しない者があるときは、普通地方公共団体の長は、期限を指定してこれを督促しなければならない。 
2   普通地方公共団体の長は、前項の歳入について同項の規定による督促をした場合においては、条例の定めるところにより、手数料及び延滞金を徴収することができる。 
3   普通地方公共団体の長は、分担金、加入金、過料又は法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入につき第一項の規定による督促を受けた者が同項の規定により指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、当該歳入並びに当該歳入に係る前項の手数料及び延滞金について、地方税の滞納処分の例により処分することができる。この場合におけるこれらの徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。 
4   第一項の歳入並びに第二項の手数料及び延滞金の還付並びにこれらの徴収金の徴収又は還付に関する書類の送達及び公示送達については、地方税の例による。 
5   普通地方公共団体の長以外の機関がした前各項の規定による処分についての審査請求は、普通地方公共団体の長が当該機関の最上級行政庁でない場合においても、当該普通地方公共団体の長に対してするものとする。 
6   第三項の規定により普通地方公共団体の長が地方税の滞納処分の例により行う処分についての審査請求については、地方税法 (昭和二十五年法律第二百二十六号)第十九条の四 の規定を準用する。 
7   普通地方公共団体の長は、第一項から第四項までの規定による処分についての審査請求があつたときは、議会に諮問してこれを決定しなければならない。 
8   議会は、前項の規定による諮問があつた日から二十日以内に意見を述べなければならない。 
9   第七項の審査請求に対する裁決を受けた後でなければ、第一項から第四項までの規定による処分については、裁判所に出訴することができない。 
10   第三項の規定による処分中差押物件の公売は、その処分が確定するまで執行を停止する。 
11   第三項の規定による処分は、当該普通地方公共団体の区域外においても、また、これをすることができる。 

 (金銭債権の消滅時効) 
第二百三十六条   金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利は、時効に関し他の法律に定めがあるものを除くほか、五年間これを行なわないときは、時効により消滅する。普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。 
2   金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利の時効による消滅については、法律に特別の定めがある場合を除くほか、時効の援用を要せず、また、その利益を放棄することができないものとする。普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。 
3   金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利について、消滅時効の中断、停止その他の事項(前項に規定する事項を除く。)に関し、適用すべき法律の規定がないときは、民法 (明治二十九年法律第八十九号)の規定を準用する。普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。 
4   法令の規定により普通地方公共団体がする納入の通知及び督促は、民法第百五十三条 (前項において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、時効中断の効力を有する。 

第7の2 地方自治法施行令171条ないし171条の7の条文

(督促) 
第百七十一条   普通地方公共団体の長は、債権(地方自治法第二百三十一条の三第一項 に規定する歳入に係る債権を除く。)について、履行期限までに履行しない者があるときは、期限を指定してこれを督促しなければならない。 

(強制執行等) 
第百七十一条の二   普通地方公共団体の長は、債権(地方自治法第二百三十一条の三第三項 に規定する歳入に係る債権(以下「強制徴収により徴収する債権」という。)を除く。)について、地方自治法第二百三十一条の三第一項 又は前条の規定による督促をした後相当の期間を経過してもなお履行されないときは、次の各号に掲げる措置をとらなければならない。ただし、第百七十一条の五の措置をとる場合又は第百七十一条の六の規定により履行期限を延長する場合その他特別の事情があると認める場合は、この限りでない。 
一   担保の付されている債権(保証人の保証がある債権を含む。)については、当該債権の内容に従い、その担保を処分し、若しくは競売その他の担保権の実行の手続をとり、又は保証人に対して履行を請求すること。 
二   債務名義のある債権(次号の措置により債務名義を取得したものを含む。)については、強制執行の手続をとること。 
三   前二号に該当しない債権(第一号に該当する債権で同号の措置をとつてなお履行されないものを含む。)については、訴訟手続(非訟事件の手続を含む。)により履行を請求すること。 

(履行期限の繰上げ) 
第百七十一条の三   普通地方公共団体の長は、債権について履行期限を繰り上げることができる理由が生じたときは、遅滞なく、債務者に対し、履行期限を繰り上げる旨の通知をしなければならない。ただし、第百七十一条の六第一項各号の一に該当する場合その他特に支障があると認める場合は、この限りでない。 

(債権の申出等) 
第百七十一条の四   普通地方公共団体の長は、債権について、債務者が強制執行又は破産手続開始の決定を受けたこと等を知つた場合において、法令の規定により当該普通地方公共団体が債権者として配当の要求その他債権の申出をすることができるときは、直ちに、そのための措置をとらなければならない。 
2   前項に規定するもののほか、普通地方公共団体の長は、債権を保全するため必要があると認めるときは、債務者に対し、担保の提供(保証人の保証を含む。)を求め、又は仮差押え若しくは仮処分の手続をとる等必要な措置をとらなければならない。 

(徴収停止) 
第百七十一条の五   普通地方公共団体の長は、債権(強制徴収により徴収する債権を除く。)で履行期限後相当の期間を経過してもなお完全に履行されていないものについて、次の各号の一に該当し、これを履行させることが著しく困難又は不適当であると認めるときは、以後その保全及び取立てをしないことができる。 
一   法人である債務者がその事業を休止し、将来その事業を再開する見込みが全くなく、かつ、差し押えることができる財産の価額が強制執行の費用をこえないと認められるとき。 
二   債務者の所在が不明であり、かつ、差し押えることができる財産の価額が強制執行の費用をこえないと認められるときその他これに類するとき。 
三   債権金額が少額で、取立てに要する費用に満たないと認められるとき。 

(履行延期の特約等) 
第百七十一条の六   普通地方公共団体の長は、債権(強制徴収により徴収する債権を除く。)について、次の各号の一に該当する場合においては、その履行期限を延長する特約又は処分をすることができる。この場合において、当該債権の金額を適宜分割して履行期限を定めることを妨げない。 
一   債務者が無資力又はこれに近い状態にあるとき。 
二   債務者が当該債務の全部を一時に履行することが困難であり、かつ、その現に有する資産の状況により、履行期限を延長することが徴収上有利であると認められるとき。 
三   債務者について災害、盗難その他の事故が生じたことにより、債務者が当該債務の全部を一時に履行することが困難であるため、履行期限を延長することがやむを得ないと認められるとき。 
四   損害賠償金又は不当利得による返還金に係る債権について、債務者が当該債務の全部を一時に履行することが困難であり、かつ、弁済につき特に誠意を有すると認められるとき。 
五   貸付金に係る債権について、債務者が当該貸付金の使途に従つて第三者に貸付けを行なつた場合において、当該第三者に対する貸付金に関し、第一号から第三号までの一に該当する理由があることその他特別の事情により、当該第三者に対する貸付金の回収が著しく困難であるため、当該債務者がその債務の全部を一時に履行することが困難であるとき。 
2   普通地方公共団体の長は、履行期限後においても、前項の規定により履行期限を延長する特約又は処分をすることができる。この場合においては、既に発生した履行の遅滞に係る損害賠償金その他の徴収金(次条において「損害賠償金等」という。)に係る債権は、徴収すべきものとする。 

(免除) 
第百七十一条の七   普通地方公共団体の長は、前条の規定により債務者が無資力又はこれに近い状態にあるため履行延期の特約又は処分をした債権について、当初の履行期限(当初の履行期限後に履行延期の特約又は処分をした場合は、最初に履行延期の特約又は処分をした日)から十年を経過した後において、なお、債務者が無資力又はこれに近い状態にあり、かつ、弁済することができる見込みがないと認められるときは、当該債権及びこれに係る損害賠償金等を免除することができる。
2   前項の規定は、前条第一項第五号に掲げる理由により履行延期の特約をした貸付金に係る債権で、同号に規定する第三者が無資力又はこれに近い状態にあることに基づいて当該履行延期の特約をしたものについて準用する。この場合における免除については、債務者が当該第三者に対する貸付金について免除することを条件としなければならない。 
3   前二項の免除をする場合については、普通地方公共団体の議会の議決は、これを要しない。 
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