住宅資金特別条項の取扱い

第1 総論

□ 住宅ローンについては,再生手続開始の申立ての前後を問わず,約定どおりの支払を続けて下さい。
□ 再生手続開始の申立てをした後は,再生債権の弁済禁止効(民事再生法85条1項)の例外として,弁済許可制度(民事再生法197条3項)を利用して支払を継続することになります。
ただし,金融機関から期限の利益を喪失した旨の通知(例えば,住宅ローンの残額の全部を一括で支払ってくれという趣旨の通知。)を受領している場合,弁済許可制度を利用することができません。
ちなみに,弁済許可制度は,平成14年12月13日法律第155号(平成15年4月1日施行)による改正により設けられた制度です。
□ 住宅資金特別条項を利用した再生計画案を提出する場合,最低限,以下の書類を併せて提出する必要があります(民事再生規則102条)。
ただし,手元にない場合,受任弁護士において金融機関なり法務局なりから取り寄せます。
① 住宅ローンの契約書
② 住宅ローンの返済計画表
③ マイホームの土地建物の不動産登記簿
□ 住宅資金特別条項(民事再生法196条4号参照)を利用した個人再生を使うためには,個人である再生債務者が自己の居住の用に供する建物を自ら所有(「共有」を含む。)している必要があります(民事再生法196条1号)。
なお,「現に」居住の用に供していることまでは要件とされていませんから,①債務者が単身赴任で,家族が居住している場合,及び②債務者が転勤のために現在は誰も居住していないものの,転勤終了後に自己の居住の用に供するであろうことが客観的に明らかな場合,住宅資金特別条項を利用することができます。
□ 以下の場合,住宅資金特別条項を利用した個人再生を利用することはできません。
① 住宅資金貸付債権を担保するための抵当権以外に民事再生法53条1項に規定する担保権(=特別の先取特権,質権,抵当権又は商事留置権)が存在する場合(民事再生法198条1項ただし書)
→ 例えば,(a)マンションの管理費・修繕積立金の滞納がある場合,及び(b)自宅の土地建物に,おまとめローンを組んだ貸金業者の2番抵当権が設定されている場合です。
② 保証会社が代位弁済をした後,再生手続開始決定までに6ヶ月が経過している場合(民事再生法198条2項)
□ 住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する場合,あらかじめ,住宅資金特別条項によって権利を受ける住宅ローン債権者と協議するものとされています(民事再生規則101条1項)。
また,住宅ローン債権者は,当該住宅資金特別条項の立案について,必要な助言をするものとされています(民事再生規則101条2項)。

第2 住宅資金貸付債権といえるための条件

1 総論
□ 住宅資金貸付債権といえるためには,以下の条件を満たす必要があります(民事再生法196条3号)。
① 「住宅」の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。),又は住宅の改良に必要な資金(=増改築資金)の「貸付け」によって生じた再生債権であること
→ この要件は通常,金銭消費貸借契約書の「借入目的」欄又は「借入金使途」欄で確認できます。
ただし,金銭消費貸借契約書等の記載から借入目的が確認できない場合,不動産売買契約書,増改築の請負契約書,領収書等,①に列挙された事項のいずれかに必要であったことを裏付ける資料を提出する必要があります。
② 分割払いの定めのある再生債権であること
→ 一括払いの再生債権については,住宅資金特別条項を設けることはできません。
③ 抵当権が当該債権,又は当該再生債権を保証会社が代位弁済した場合の求償権を被担保債権としていること
→ 住宅に設定されている抵当権が根抵当権であっても,根抵当権の被担保債権が住宅資金貸付債権だけであれば,住宅資金特別条項を設けることができます。
しかし,不動産登記簿の記載からは,被担保債権が住宅資金貸付債権だけであるかどうかを確認することができませんから,住宅に設定されている担保権が根抵当権である場合,根抵当権者作成にかかる証明書(被担保債権が住宅ローン債権だけである旨を証するもの)を提出する必要があります。
④ 抵当権が「住宅」に設定されていること
→ 「住宅の敷地」(住宅の用に供されている土地又は当該土地に設定されている地上権のことをいいます。民事再生法196条2号)だけに抵当権が設定され,「住宅」に抵当権が設定されていない場合,住宅資金特別条項を設けることはできません。
 
2 関連問題
□ 住宅ローンとして借り入れた金銭の一部を他の用途に流用している場合,その流用部分の占める割合によりますものの,当該借入金全体について住宅資金貸付債権性が失われることがあります。
そのため,例えば,(a)住宅ローンとして借り入れた金銭のうちの少額とはいえない額を自動車購入費用に充てている場合,及び(b)相当額を既存の債務の返済に充てている場合,①の要件を満たしているとはいえず,再生計画案に住宅資金特別条項を設けることはできません。
□ 不動産取得時には,(a)印紙税(売買契約書・金銭消費貸借契約証書),(b)登録免許税,(c)司法書士手数料,(d)融資保証料,(e)融資関係手数料,(f)保険料(火災・家財・地震),(g)不動産仲介手数料,(h)土地家屋調査士手数料,(i)不動産取得税,(j)固定資産税清算金,(k)水道工事負担金等の諸費用の支払が必要となります。
このような諸費用の支払に充てるため,住宅ローンとは別にいわゆる諸費用ローンを組む場合がありますところ,諸費用ローンは,①住宅ローンより金利が高く,②住宅借入金等特別控除(=住宅ローン減税。租税特別措置法41条,41条の2及び41条の2の2)の対象とならず,③住宅金融支援機構の融資対象でもないといった点で,金融実務上は住宅ローンとは別のものとして取り扱われています。
また,貸出使途を不動産取得時の必要経費に限定している金融機関もあれば,引越費用,新居の家具購入費等必ずしも不動産取得自体に必要とはいえない費用まで広く認めている金融機関もあり,その実態は様々です。
そのため,諸費用ローンが直ちに住宅資金貸付債権に当たるということは困難ですから,諸費用ローンの抵当権が住宅に設定されている場合,その額と使途を総合考慮して,住宅資金特別条項を設けることが許されるかどうかが審査されることとなります。
よって,個人再生の申立てをする場合,諸費用ローンの使途が契約書上明確でない場合,使途に関する報告書等を添付するなどして,裁判所において使途が確認できるようにする必要があります。
□ 住宅ローンの借換がある場合であっても,当初の借入が住宅資金貸付債権の要件を備えており,かつ,借換後のローンに住宅資金貸付債権の性質を有しない債権(例えば,事業資金の借入)が混入していなければ,借換後の債権も住宅資金貸付債権となります。
住宅ローンの借換がある場合,現在の住宅ローン契約書の他,借換時の旧ローン残高が確認できる資料,借換前のローン契約書等の提出を裁判所から求められますから,これらの資料を事前に準備しておく必要があります。

第3 住宅資金特別条項の類型

□ 住宅資金特別条項には以下の類型がありますところ,①型が原則的な条項であり,①型では履行可能性が認められない(=再生計画認可の見込がない)ときに②型が利用でき,さらに②型でも履行可能性が認められないときに③型が利用できるという順序になります。なお,④型は,債権者の同意があれば,①型ないし③型以外の内容の住宅資金特別条項を定めることができるというものです。
□ ① 期限の利益回復型(民事再生法199条1項)
→ 滞納分についての支払方法を再生計画の中で定める必要があります。滞納分は,一括でも分割でも構いませんが,再生債権の弁済期間内(通常は3年以内)に完済する必要があります。
なお,再生債務者が住宅資金貸付債権について期限の利益を喪失しておらず,申立て後も弁済許可制度(民事再生法197条3項)を利用して弁済を継続し,かつ,再生計画においても従前の住宅ローン契約の約定どおりの支払を行うという,正常返済型もこの類型に含まれます。
□ ② リスケジュール型(民事再生法199条2項)
→ リスケジュールというのは支払条件を変更してもらうことであり,例えば,支払期間を当初の約定よりも延長してもらうことができます(ただし,70歳までに支払を終了する必要があります。)。
□ ③ 元本猶予期間併用型(民事再生法199条3項)
→ リスケジュールに加え,元本の一部の支払を再生債権の弁済期間内(通常は3年以内)に限り,棚上げしてもらうことができます。
□ ④ 同意型(民事再生法199条4項)
→ この場合,金融機関の同意書を提出する必要があります(民事再生規則100条)。
□ 住宅資金特別条項を定めた場合,権利の変更によって期限の利益の回復なり弁済期間の延長なりができますものの,金融機関の同意(民事再生法199条4項)がない限り,利息及び遅延損害金の免除を受けることはできません(民事再生法199条1項ないし3項が「全額」の支払を要件としていること,及び民事再生法203条2項本文参照)。
そのため,正常返済型が一番,トータルの支払額を少なくすることができます。

第4 住宅資金特別条項を利用した場合の効果

□ 住宅資金特別条項を利用した個人再生を使った場合,自宅について抵当権が実行された(例えば,自宅について担保不動産競売開始決定が発令された。)としても,無担保で,裁判所に対し,抵当権の実行手続の中止命令を出してもらうことができ(民事再生法197条1項),相当の期間(通常は,3,4ヶ月程度),競売手続が停止します(民事執行法183条1項7号参照)。
ただし,この場合は通常,保証会社による代位弁済がなされていて,遅延損害金なり数十万円程度の競売費用なりが発生していますから,抵当権の実行手続の中止命令を当てにするのは止めて下さい。
□ 住宅資金特別条項は,再生計画案は再生債権者の間で平等であることを求める民事再生法229条1項・244条の例外となる存在です(民事再生法229条4項・244条参照)。
□ 住宅資金特別条項を利用した再生計画認可の決定が確定した場合,民事再生法177条2項の規定にかかわらず,住宅ローンの連帯保証人なり連帯債務者なりは,住宅資金特別条項に基づく権利の変更後の義務を履行すれば足りることになります(民事再生法203条1項)。
そのため,例えば,銀行は,連帯保証人なり連帯保証人なりに対し,銀行取引約定書(=銀取)の規定にかかわらず,住宅ローンの一括払いを要求することは法律上もできなくなります。
□ 住宅資金特別条項を利用した場合,住宅ローンの債権者は,再生計画案に対する議決権を有せず(民事再生法201条1項),意見を聴取されるだけです(民事再生法201条2項)。

第5 税金等による滞納処分

□ 住宅についてなされた税金等による滞納処分は,再生手続開始決定後も中止せず(民事再生法39条1項,122条2項参照),仮に再生計画が認可されても失効しない結果(民事再生法184条参照),公売(国税徴収法94条以下,地方税法373条7項)による所有権喪失という事態が生じるおそれがあります。
そのため,住宅について税金等による滞納処分がある場合,税務署等と交渉して,①納税の猶予又は徴収の猶予(納税の猶予につき国税通則法46条,徴収の猶予につき地方税法15条。1年以内の猶予であり,延滞税・延滞金の半分以上が免除されますものの,担保を要求されます。),②換価の猶予(国税徴収法151条,152条,地方税法15条の5。1年以内の猶予であり,延滞税・延滞金の半分が免除されるに過ぎないものの,担保は通常,要求されません。),又は③事実上の分割納付(この場合,延滞税・延滞金の免除がありません。)を認めてもらう必要があります。
なお,住宅の所有権等を失うと見込まれる場合,住宅資金特別条項を利用した個人再生を申し立てることができません(民事再生法202条2項3号)。

第6 管理費・修繕積立金の取扱い

□ マンションの管理費・修繕積立金は,建物の区分所有等に関する法律(=区分所有法)7条1項の,「区分所有者」が「規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権」(同条項前段)又は「管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権」(同条項後段)に当たると解されています。
つまり,これらの滞納がある場合,マンションの管理費・修繕積立金の立替払いをした区分所有者なり管理組合なりは,債務者の区分所有権及び建物に備え付けた動産の上に,共益費用の先取特権(民法305条1号)を有することになります(区分所有法7条2項)。
そして,共益費用の先取特権は,民事再生法53条1項に規定する担保権に該当しますから,マンションの管理費・修繕積立金の滞納がある場合,住宅資金特別条項を利用した個人再生を利用することができなくなります(民事再生法198条1項ただし書)。
また,マンションの管理費・修繕積立金は,一般優先債権に該当します(民事再生法122条1項)から,再生手続とは関係なく弁済する必要があります。
さらに,マンションの管理費・修繕積立金は,任意売却をしたときの新しい買主も支払う義務を負う(区分所有法8条)ため,任意売却の値段にも直結します。
よって,マンションの管理費・修繕積立金についても,再生手続開始の申立ての前後を問わず,約定どおりの支払を続けて下さい。
□ 管理費・修繕積立金は民法169条の定期給付債権に該当する点で消滅時効は5年です(最高裁平成16年4月23日判決参照)から,消滅時効で逃げるのはまず無理です。

第7 ペアローン及びリレーローンと住宅資金特別条項

□ ペアローンとは,同じ金融機関から親のローン部分と子のローン部分に分けて(親子ペアローンの場合),又は夫のローン部分と子のローン部分に分けて(夫婦ペアローンの場合),2本立ての金銭消費貸借契約を締結し,親子又は夫婦が共同して住宅購入資金を調達し,共有不動産である住宅(土地・建物)の全体にそれぞれを債務者とする抵当権を設定するローンのことをいいます。
ペアローンの場合,親子又は夫婦がお互いに相手方の債務について連帯保証人になるのが普通です。
□ ペアローンの場合,民事再生法198条1項ただし書との関係で,以下の事情がある場合に限り,住宅資金特別条項を利用することができると解されています。
① 親子又は夫婦が同一家計を営んでいること。
② 親子又は夫婦がいずれも個人再生手続の申立てをすること(必ずしも同時申立てである必要はありません。)。
③ いずれも住宅資金特別条項を定める旨を申述していること。
④ 原則として同時の申立てであること(月刊大弁24年5月号44頁)。
□ リレーローンとは,親及び子(親子リレーローンの場合),又は夫及び妻(夫婦リレーローンの場合)が連帯債務者となって一本立ての金銭消費貸借契約を締結して住宅購入資金を調達し,その債務担保するために親子の共有不動産に1個の抵当権を設定するローンのことをいいます。
リレーローンの場合,親子,又は夫婦それぞれが主債務者であり,抵当権も親子又は夫婦それぞれの共有持分の全部を対象としていますから,親子又は夫婦が共有し,同居している住宅であれば,親子又は夫婦の双方が住宅資金特別条項を定めて再生手続開始の申立てをすることができます。
つまり,ペアローンの場合と異なり,住宅資金特別条項の利用に特に制限はないということです。
□ リレーローンについて住宅資金特別条項を利用する場合,親子又は夫婦は連帯債務者ですから,住宅ローン債権者の同意がない限り,住宅ローンの返済額を半分ずつにすることを内容とする再生計画案を提出することはできません。
ただし,連帯債務者2名の返済額の「合計額」が再生計画案どおりのものであれば足ります。
そのため,例えば,従前に1ヶ月10万円のローン返済をしていたのが,全額返済を内容とした親子それぞれの再生計画案において1ヶ月10万円ずつの返済となる場合,親子それぞれが10万円ずつを支払わなければならないのではなく,親が10万円を支払えば,子はその月の返済をしなくてもよくなります。
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3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)の略歴取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ等はこちらであり,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図はこちらです。