自己破産又は個人再生における公租公課の取扱い

第0 目次

第1   総論
第2の1 公租(租税債権)の場合
第2の2 公課(国民健康保険料等)の場合
第3   住民税等の分割納付及び減免
第4   破産手続における譲渡所得の特例

第1 総論

1 公租は租税債権のことであり,公課は国民健康保険料等のことです。

2(1) 自動車を所有している場合,自動車税について,都道府県の自動車税事務所長が発行する自動車税納税証明書(継続検査用)のコピーを依頼した弁護士に渡すことが望ましいです。
(2) 自動車税納税証明書(継続検査用)は車検を受けた際に車検証の返付を受けるときに必要な書類です(道路運送車両法97条の2第1項)。

3 都道府県税である自動車税は毎年4月1日時点の所有者に対して課税されます(地方税法148条)。
   ただし,市町村税である軽自動車税(賦課期日が毎年4月1日時点であることにつき地方税法445条1項)と異なり,月割納税制度が採用されています(地方税法150条)から,年度の途中で自動車を購入した場合,月単位で自動車税が安くなります。

4 公租公課は,5年が経過しないと消滅時効にかかりません(国税通則法72条1項,地方税法18条1項)。
   また,督促状が発せられたり,滞納処分に基づく差押えがあったりした場合,消滅時効は中断します(国税通則法73条,地方税法18条の2)。
   そのため,消滅時効で公租公課から逃げることはまず無理です。

5 課税庁による恣意を抑制し,租税負担の公平を確保する必要性にかんがみ,課税の減免は,法律又はこれに基づく命令若しくは条例に明確な根拠があって初めて行うことができるとされています(最高裁平成22年7月6日判決)。
   そのため,公租公課の支払を放置すればそのうち免除してもらえるわけでは絶対にありません。

6 詳細については,「地方公共団体の公債権及び私債権の取扱い」を参照してください。

第2の1 公租(租税債権)の場合

1 破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税債権は,①財団債権(破産法148条1項3号)又は②優先的破産債権(破産法98条1項・国税徴収法8条及び地方税法14条)に該当しますから,破産債権に優先します。
   また,個人再生の場合,租税債権は,一般優先債権(民事再生法122条1項)に該当しますから,再生手続によらないで随時弁済する必要があります(民事再生法122条2項)。
   さらに,租税債権の滞納がある場合,国税局又は税務署の職員である徴収職員は,滞納処分のため滞納者の財産を調査する必要があるとき,その必要と認められる範囲で,滞納者等に対し質問をしたり,帳簿書類を検査したりすることができます(質問検査権,国税徴収法141条)。
   しかも,徴収職員は,裁判所の許可状を得ることなく,滞納処分のため必要があるときは,滞納者の物又は住居その他の場所につき捜索することができます(国税徴収法142条)。
   よって,破産手続又は個人再生手続の準備中であっても,支払うお金があるのであれば,住民税等を引き続き支払っておいて下さい(否認権行使の例外であることにつき破産法163条3項)。

2 破産手続開始当時,まだ納期限の到来していないもの又は納期限から1年を経過していないものが財団債権となり,その余が優先的破産債権となりますところ,破産管財人が選任される管財事件において顕著に違いが生じます。
   財団債権の場合,随時弁済される(破産法151条)のに対し,優先的破産債権の場合,給料又は退職手当の請求権を除き(破産法101条),破産財団からの配当を通じてしか弁済されないという違いがあります(破産法100条1項)。
   その関係で,財団債権者は,破産手続開始決定があったことを知ったときは,速やかに,書面又は口頭により,財団債権を有する旨を破産管財人に申し出る必要があります(破産規則50条)。

第2の2 公課(国民健康保険料等)の場合

1 破産手続開始前の原因に基づいて生じた以下の公課は,①財団債権(破産法148条1項3号のほか,破産法97条4号参照)又は②優先的破産債権(破産法98条1項)に該当しますから,国税及び地方税の次の順位で(国税徴収法8条及び地方税法14条),破産債権に優先します。
   また,個人再生の場合,公課は,一般優先債権(民事再生法122条1項)に該当しますから,再生手続によらないで随時弁済する必要があります(民事再生法122条2項)。
   そのため,破産手続又は個人再生手続の準備中であっても,支払うお金があるのであれば,国民健康保険料等を引き続き支払っておいて下さい(否認権行使の例外であることにつき破産法163条3項)。

2 公課の例としては,以下のものがあります。
① 健康保険料(健康保険法183条及び182条)
② 厚生年金保険料(厚生年金保険法89条及び88条)
③ 国民健康保険料(国民健康保険法79条の2・地方自治法231条の3第3項,及び国民健康保険法80条4項)
④ 介護保険料(介護保険法144条・地方自治法231条の3第3項,及び介護保険法199条)
⑤ 国民年金保険料(国民年金法96条4項及び98条)
⑥ 労働保険料(労働保険の保険料の徴収等に関する法律29条及び28条)
⑦ 下水道事業受益者負担金(都市計画法75条5項前段及び後段)
⑧ 認可保育所の保育料(児童福祉法56条10項前段及び後段)
⑨ 未熟児養育医療の自己負担金(母子保健法21条の4第3項前段及び後段)
⑩ 駐車違反の車両の使用者に対する放置違反金(道路交通法51条の4第14項前段及び後段)
→ ちなみに,納付され,又は徴収された放置違反金等は都道府県の収入となります(道路交通法51条の4第15項)。
⑪ 公共下水道の使用料(下水道法20条1項,地方自治法231条の3第3項)
→ ちなみに,上水道代,電気代及びガス代はすべて,民法310条・破産法98条に基づき,優先的破産債権にとどまります。

第3 住民税等の分割納付及び減免

1(1) 住民税なり固定資産税なり国民健康保険料なりについては,市区町村役場の窓口で納付相談をすれば,分割納付を認めてくれます。
   また,延滞金についても,滞納中の住民税(=市町村民税及び道府県民税)なり固定資産税なり国民健康保険料なりを完済した時点で免除してくれることがあります(①市町村民税の延滞金につき地方税法326条3項,②固定資産税の延滞金につき地方税法369条2項,③国民健康保険料の延滞金につき国民健康保険法79条の2・地方自治法231条の3第3項「地方税の滞納処分の例」参照)。
(2) 市町村民税の延滞金の減免がなされた場合,同じ割合で道府県民税の延滞金の減免がなされます(地方税法45条)。

2(1) ①天災その他特別の事情がある場合において住民税の減免が必要と認められる者,②貧困に因り生活のため公私の扶助を受ける者(例えば,生活保護受給者),及び③その他特別の事情がある者(例えば,失業者)については,当該市町村の条例の定めるところにより,滞納中の市町村民税なり固定資産税なり国民健康保険料なりの減免がなされることがあります(①市町村民税につき地方税法323条,②固定資産税につき地方税法367条,③国民健康保険料につき国民健康保険法79条の2・地方自治法231条の3第3項「地方税の滞納処分の例」参照)。
(2) 市町村民税の減免がなされた場合,同じ割合で道府県民税の減免がなされます(地方税法45条)。

第4 破産手続における譲渡所得の特例

1 国税通則法2条10号所定の強制換価手続(=滞納処分,強制執行,担保権の実行としての競売,企業担保権の実行手続及び破産手続)において自宅の土地建物が競売により換価された結果,譲渡所得が発生した場合,「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」に発生した譲渡所得である点で所得税法上の非課税所得に該当します(所得税法9条1項10号)から,譲渡所得について所得税及び住民税は発生しません。

2 資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であり,かつ,強制換価手続の執行が避けられないと認められる場合における資産の譲渡による所得で,その譲渡に係る対価が当該債務の弁済に充てられた場合,非課税所得に該当します(所得税法施行令26条)から,譲渡所得について所得税及び住民税は発生しません。
   そのため,例えば,担保権の実行としての競売が申し立てられた場合に不動仲介会社に頼んでマイホームを任意売却した場合,譲渡所得について所得税及び住民税は発生しないことになります。

3 所得税法施行令26条は,資産の譲渡の対価(当該資産の譲渡に要した費用がある場合には,当該費用に相当する部分を除く。)の全部が当該譲渡の時において有する債務の弁済に充てられた場合に限り適用される規定です(所得税基本通達〔強制換価等による譲渡(第10号関係)〕)。
   そのため,マイホームについて値上がり益がある場合に不動産業者から引越し代を出してもらう場合,所得税法施行令26条は適用されませんから,思わぬ税金の支払が発生しないよう,翌年3月までに,居住用財産の特別控除(3000万円)を適用してもらうために所得税の確定申告をしておいた方が安全です。
1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。

2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。