破産手続中の債務者の死亡

第0 目次

第1 破産手続開始決定前に債務者が死亡した場合
第2 破産手続開始決定後に債務者が死亡した場合
第3 相続財産の破産
第4 訴訟手続中の当事者の死亡

第1 破産手続開始決定前に債務者が死亡した場合

1 続行の申立て
  破産手続開始の申立て後,破産手続開始決定前に債務者が死亡した場合,破産手続が中断します。
   ただし,裁判所は,相続債権者,受遺者,相続人,相続財産の管理人又は遺言執行者の続行の申立て(相続開始後1ヶ月以内のものに限る。)があった場合には,続行の決定をすることができます(破産法226条1項及び2項)。
 
2 続行申立ての方式
(1) 申立ては相続開始後1ヶ月以内に,書面で行います(破産法226条2項,破産規則1条1項)。
   申立書の記載事項は,破産規則2条1項(必要的記載事項)及び2項(訓示的記載事項)のとおりであり,証拠書類の写しを添付します(破産規則2条3項)。
(2) 相続財産の破産手続開始の原因は,「相続財産をもって相続債権者及び受遺者に対する債務をかんさいすることができないと認めるとき」です(破産法223条)。
(3) 続行申立ての却下決定に対しては,即時抗告をすることができます。
(4) 続行決定があった場合,破産手続開始決定後に破産者が死亡した場合と同じ取扱いとなります。

3 破産手続の当然終了
   相続開始後1ヶ月の申立て期間内に続行の申立てがなかったときは同期間経過時に,続行申立てを却下する裁判が確定したときは確定時に,それぞれ破産手続が終了します(破産法226条3項)。 

第2 破産手続開始決定後に破産者が死亡した場合

1 破産手続との関係
(1) 相続財産の破産手続として当然に続行すること
ア 破産手続開始決定後に破産者が死亡した場合,破産手続は,相続財産(ただし,破産手続開始決定後の新得財産を除く。)の破産手続として当然に続行します(破産法227条)。
   その場合,被相続人の代理人であった者は,破産に関する説明義務を負います(破産法230条1項1号)
イ 破産者について相続が発生した場合,破産者の従前の破産管財人は,「破産者亡○○相続財産破産管財人」といった肩書で活動することになります(破産法227条参照)。
(2) 破産財団の範囲
ア 相続財産に属する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)が破産財団を構成し,被相続人が相続人に対して有していた権利については,消滅しなかったものとみなされます(破産法229条1項)。
   また,相続人が相続財産の全部又は一部を処分した後に相続財産について破産手続開始決定がされた場合,相続人が反対給付について有する権利は,破産財団に属し,相続人が既に反対給付を受けているときは,相続人は,当該反対給付を破産財団に返還しなければなりません(ただし,当該反対給付を受けた当時,相続人が破産手続開始の原因となる事実又は破産手続開始の申立てがあったことを知らなかったときは,現存利益を返還すれば足ります。)。(破産法229条2項及び3項)
イ  破産財団を構成しない財産に関する破産34条3項(差押え禁止財産の除外)及び34条4項(自由財産の拡張)については,適用の余地がないと解されています。
(3) 破産債権者
ア 破産債権者は,①相続債権者及び②受遺者であり,①の権利は②に優先し(破産法231条2項),優先順に,①のうち優先債権>①のうち一般債権>①のうち劣後的債権>否認の相手方の権利(破産法236条)>②の権利となります。
   なお,相続人について破産手続開始決定があったとしても,①及び②は,相続財産の破産手続に,その債権全額について参加することができます(破産法231条1項)。
イ 相続人については,相続人が被相続人に対して有していた権利は消滅しなかったものとみなされ,相続人は被相続人に対して有していた権利については,相続債権者として扱われます(破産法232条1項)。
   また,相続人が相続債権者に対して自己の固有財産をもって弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは,相続人は,その出えんの額の範囲内において,当該相続債権者が被相続人に対して有していた権利を行使することができます(破産法232条2項)。
   相続人の債権者については,相続財産の破産手続において破産債権者として参加することはできません(破産法233条)。 
(4) 否認権に係る特則 
ア    相続財産の破産手続においては,否認権に係る規定の適用については,被相続人財産に関してした行為は,破産者がした行為とみなされます(破産法234条)。
イ   受遺者に対する担保の供与又は債務の消滅に関する行為については,当該受遺者の権利に優先する債権を有する破産債権者を害することを要件として否認することができます(法235 条1項)。
   もっとも,否認権が行使された場合であっても,受遺者が否認対象行為の当時,当該受遺者に優先する債権を有する破産債権者を害する事実を知らなかったときは,現存利益を返還すれば足ります(破産法235条2項・167条2項)。
ウ 否認権の行使があった場合において,相続債権者に対する弁済の後の残余財産については,受遺者に優先して,否認された行為の相手方に,その権利の価額に応じて残余財産が分配されます(破産法236条)。
エ 「否認対象行為」も参照してください。
(5) 手続の終了
   廃止については,破産法218条1項に基づく同意廃止の申立権者が相続人とされていること(破産法237条)を除き,特別の規定はありません。 

2 免責手続との関係
(1) 相続人による免責許可の申立ては認められないこと
ア   免責許可の申立をすることができるのは,「個人である債務者」であり(破産法248条1項),法人や相続財産については免責許可の申立権がありません(旧法時代の裁判例として,高松高裁平成8年5月15日決定参照)。
   大阪地裁では,免責手続中に破産者が死亡した場合,破産手続の続行の有無を問わず,免責手続は,破産者の死亡により終了したものと扱っています(月刊大阪弁護士会2011年3月号82頁)。
イ(ア) 相続財産の破産手続を経ても満足を得ることのできなかった相続債権は,相続放棄又は限定承認をしてない限り,相続人に対して請求されることとなります(相続財産の破産の申立てが限定承認の効力を伴わないことにつき大阪高裁昭和63年7月29日判決参照)。
   そのため,相続人が破産者の債務を承継したくない場合,限定承認又は相続放棄をする必要があります。
(イ) 相続債権者又は相続人の債権者は,相続財産の破産手続の開始後であっても,限定承認又は財産分離の請求をすることができます(破産法228条本文)。
   ただし,破産手続の進行中は,限定承認又は財産分離の手続は中止します(破産法228条ただし書)。
(2) 免責事件の終局日 
   裁判所に対して,破産者死亡の報告があるまでは,一件記録上は破産者が生存しているような外観を呈し,手続が現実には係属していたのであるから,裁判所が死亡を認識した日に事件が終局するという扱いが実態に即していると解されています。
   そのため,免責事件の終局日は,裁判所が死亡を認識した日(破産管財人や破産申立代理人からの報告等により,裁判所が破産者の死亡を知った日)です。

第3 相続財産の破産

1(1) 相続財産をもって相続債権者及び受遺者に対する債務を完済することができない場合,つまり,債務超過の場合(破産法223条参照),相続財産について破産手続開始の申立てができます(破産法224条)。
(2)   破産財団を形成する相続財産を相続人自身の債権者から守るという機能があります。
   そのため,相続人にたくさんの借金がある場合,破産債権者が相続財産の破産申立てをする実益があります。

2(1) 相続財産に対して破産手続開始決定がなされても,相続人において相続放棄又は限定承認をしておかなければ,相続人は当該破産手続の中で弁済されなかった債務を自己の固有財産によって弁済する責を負うことになります(大阪高裁昭和63年7月29日判決参照)。
   そのため,被相続人が債務超過であった場合,相続人としては,相続財産の破産申立てではなく,限定承認又は相続放棄をすべきこととなります。 
(2) 平成16年以降の相続放棄の件数につき,「家裁の各種事件数」を参照して下さい。

3 相続財産についての破産手続開始の申立ては,原則として,相続開始の時から3ヶ月以内に行う必要があります(破産法225条前段,民法941条1項参照)。
   その際,申立人以外の相続人,相続財産の管理人は,重要な利害関係人に当たりますから,相続人(相続放棄等の結果を反映した申立て時点のもの)を申立書に記載するとともに,家庭裁判所により選任された相続財産の管理人がいればその旨を記載する必要があります。
   また,知れている財産所持者には破産手続開始決定の通知をする必要があります(破産法32条3項2号)から,申立人以外の者が所持している財産については,財産目録備考欄に所持者の氏名及び住所等の連絡先を記載する必要があります。

4 ①被相続人の代理人であった者,②相続人及びその代理人,③相続財産の管理人及び遺言執行者は,破産管財人等の求めに応じ,破産に関し必要な説明をする義務があります(破産法230条)。

5 相続財産について破産手続開始の決定があった場合,相続人及びその法定代理人は,裁判所の許可を得なければ,引越をすることができなくなります(破産法230条3項・37条)。

6 その余の取扱いは,破産手続開始決定後に破産者が死亡した場合と同じであると思います。

第4 訴訟手続中の当事者の死亡

1 訴訟手続中に当事者が死亡したとしても,訴訟代理人が付いている場合,訴訟手続は中断しません(民事訴訟法124条2項)。

2 当事者より上告提起の特別委任を受けた訴訟代理人がある場合,第二審判決の送達後上告提起の期間内にその当事者が死亡しても訴訟手続は中断しません(最高裁昭和23年12月24日判決)。 

3 被相続人の訴訟代理人であった者は,被相続人の死亡による訴訟承継の結果,新たに当事者となった相続人の訴訟代理人として訴訟行為をなすことができます(最高裁昭和33年9月19日判決)。

4 当事者が死亡したが,訴訟代理人があるため,訴訟手続を中断しないまま口頭弁論を終結した場合には,相続人が何人であるか明らかであるかぎり,判決には当事者として新当事者を表示するを相当とし,旧当事者を表示しているときは,民訴法257条によって更正することができます(最高裁昭和42年8月25日判決)。
1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。

2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。