質屋営業

第1 質権・総論

□ 質権とは,担保の目的物の占有を債権者に移転し,債権者は弁済があるまでこの目的物を留置して間接的に弁済を強制するとともに,弁済がない場合にはこの目的物につき他の債権者に優先して弁済を受けるという約定担保物権をいいます(民法342条参照)。
□ 質権設定契約は要物契約ですから,目的物の引渡しがなければ質権は成立しません(民法344条)。
ただし,所有者甲が乙に管理させている物につき,丙のために質権を設定して指図による占有移転をなし,さらに丁のためにも質権を設定して指図による占有移転をなすことも可能ですから,同一の物を目的とする複数の質権が成立することがあります。
□ 質権は,元本,利息,違約金,質権の実行の費用,質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保します(民法346条)。
□ 質権者は,質権設定者に対してだけでなく,質物の譲受人又は買受人に対しても,弁済を受けるまで目的物の引渡しを拒絶してその留置を継続することができます(民法347条本文)。
ただし,質権者の目的物を留置する権利は,その質権に対して優先権を有する債権者には対抗できません(民法347条ただし書)。
つまり,先順位の質権者又は抵当権者等が競売する場合,質権者は質物を留置できず,買受金につき順位と効力に応じた配当を受けられるにすぎません。
□ 不動産質権は,これを登記しなければ第三者に対抗することはできません(民法177条)から,質権の一作用である質物を留置することをうる効力も,不動産登記(不動産登記法95条参照)がない限り第三者に対抗することができません(最高裁昭和31年8月30日判決)。
□ 質権者は,質権設定者の同意がなくても,その権利の範囲内において,質物を転質とすることができます(民法348条)。
ただし,新たに設定された質権が原質権の範囲を超越するとき,すなわち,債権額,存続期間等転質の内容,範囲,態様が質権設定者に不利な結果を生ずる場合,その転質行為は横領罪を構成します(最高裁昭和45年3月27日決定)。
□ 質権設定者は,設定行為又は債務の弁済期「前」の契約において,質権者に弁済として質物の所有者を取得させ,その他法律に定める方法に寄らないで質物を処分させることを約することができません(流質契約の禁止。民法349条)。
ただし,電話加入権を除き(電話加入権質に関する臨時特例法(昭和33年5月6日法律第138号)4条),①商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権の場合,流質契約が許されています(商法515条)し,②質屋営業の場合,流質契約が当然に予定されています(質屋営業法1条1項参照)。
□ 留置権に関する以下の条文は,質権にも準用されます。
① 不可分性に関する民法296条
② 弁済充当権に関する民法297条
③ 善管注意義務に関する民法298条1項
④ 設定者の承諾を条件とする使用収益権に関する民法298条2項
⑤ 権利の消滅請求権に関する民法298条3項
⑥ 費用償還請求権に関する民法299条
⑦ 消滅時効の進行に関する民法300条
⑧ 物上代位に関する民法304条
□ 質権設定に際して委託を受けた物上保証人の場合,弁済金額及び弁済の日以後の法定利息の限度で求償権が発生します(民法351条・459条2項・442条2項)。
質権設定に際して委託を受けない物上保証人のうち債務者の意思に反しない場合,債務者が免責の当時利益を受けた限度で求償権が発生します(民法351条・462条1項)。
質権設定に際して委託を受けない物上保証人のうち債務者の意思に反する場合,債務者が現に利益を有する限度で求償権が発生します(民法351条・462条2項)。

第2 動産質権

□ 動産質権者は,継続して質物を占有しなければ,その質権をもって第三者に対抗することができません(民法352条)。
□ 動産質権者は,質物の占有を奪われたときは,占有回収の訴え(民法200条)によってのみ,その質物を回復することができます(民法353条)。
□ 動産質権の実行方法としては,以下のものがあります。
① 動産を目的とする担保権の実行としての競売(=動産競売)の申立てをすることにより,その売却代金から優先的に弁済を受ける方法(民事執行法190条)
② 正当な理由がある場合,鑑定人の評価に従い質物をもって直ちに弁済に充てることを裁判所に請求する方法(民法354条前段)。
③ 設定行為又は債務の弁済期「後」の契約において,質権者に弁済として質物の所有権を取得させ,又は質物を処分させることを約する方法(民法349条反対解釈)
→ 質権設定者の承諾がない限り,この方法をとることはできません。
④ 設定行為又は債務の弁済期「前」の契約において,質権者に弁済として質物の所有権を取得させ,又は質物を処分させることを約する方法(商法519条参照)
→ 商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権の場合に限られます。
⑤ 流質期限までに質物で担保される債権の弁済を受けないときは,当該質物をもってその弁済に充てる約款を付する方法(質屋営業法1条1項)
→ 質屋営業の場合に限られます。

第3 不動産質権

□ 質権者は原則として質物を使用収益できません(民法350条・298条2項本文)。
しかし,この原則を不動産質においても貫くと,目的不動産の占有は質権者に移転している関係で誰にも利用されないこととなり,社会経済上不利益である一方で,質権者に利用させても目的不動産を損壊する危険はありません。
よって、設定行為に別段の定めがない限り(民法359条),不動産質権者はその用法に従い目的不動産を使用できます(民法356条)。
ただし,このような権能の反射として,設定行為に別段の定めがない限り(民法359条),目的不動産の管理費用は質権者の負担とされています(民法357条)し,質権者は被担保債権の利息も請求できません(民法358条)。
□ 不動産質権の存続期間は10年以内です(民法360条1項)。
また,不動産質権は更新することができる(民法360条2項本文)ものの,更新後の不動産質権の存続期間も10年以内です(民法360条2項ただし書)。
□ 不動産質権の実行方法としては以下のものがあります。
① 不動産を目的とする担保権実行としての競売(=担保不動産競売)の申立てをすることにより,その売却代金から優先的に弁済を受ける方法(民事執行法180条)
② 他の債権者が強制執行又は担保権の実行としての競売の申立てをした場合に,配当手続によって弁済を受ける方法(民事執行法87条1項4号参照)

第4 権利質

□ 権利質とは,財産権を目的とする質権をいいます(民法362条1項)。
□ 第三者が金銭債権に基づき質権付電話加入権に対し強制執行をしてその換価手続を完了した場合には,右電話加入権を目的とする質権は,民事執行法59条2項の類推適用により当然消滅する(いわゆる消除主義)とともに,右の質権者は,その売得金から,法律の定めるところにより,当然に優先弁済を受けることができます(最高裁大法廷昭和40年7月14日判決)。
□ 債権であってこれを譲り渡すにはその証書を交付することを要するものを質権の目的とするときは,質権の設定は,その証書を交付することによって,その効力を生じます(民法363条)。
□ 平成15年8月1日法律第134号による改正前の民法363条は,債権に質権を設定する場合,その債権につき証書があるときは,当該債権証書の交付を質権設定の効力発生要件としていました。
しかし,一般の指名債権については,必ず債権証書が存在するわけではなく,また,何が債権証書に該当するかが明確でない場合があるため,質権設定の効力発生のために債権証書の交付が必要かどうか,また,何らかの証書が交付された場合に質権設定の効力を生ずるかどうかについて,当事者が予測困難な危険を負担する場合があるという問題が生じていました。
そこで,平成15年8月1日法律第134号による改正後の民法363条は,このような問題を解消するため,その譲渡に証書の交付を要する証券的債権「以外の」指名債権をもって質権の目的とする場合においては,その債権につき債権証書があるときであっても,その証書の交付を質権設定の効力発生要件としないこととしました。
□ 指名債権に質権を設定する場合,質権設定を第三者に対抗するためには確定日付のある証書による質権設定の通知又は承諾が必要です(民法364条1項・467条)。
□ 民法364条1項・467条の規定する指名債権に対する質権設定についての第三債務者に対する通知又はその承諾は,第三債務者以外の第三者に対する関係でも対抗要件をなすものであるところ,この対抗要件制度は,第三債務者が質権設定の事実を認識し,かつ,これが右第三債務者によって第三者に表示されうることを根幹として成立しているものです(最高裁昭和49年3月7日判決参照)。
そして,第三債務者が当該質権の目的債権を取引の対象としようとする第三者から右債権の帰属関係等の事情を問われたときには,質権設定の有無及び質権者が誰であるかを告知,公示することができ,また,そうすることを前提とし,これにより第三者に適宜な措置を講じさせ,その者が不当に不利益を被るのを防止しようとするものであるから,第三者に対する関係での対抗要件となりうる第三債務者に対する通知又はその承諾は,具体的に特定された者に対する質権設定についての通知又は承諾であることを要します(最高裁昭和58年6月30日判決)。
□ 質権者は,自己の債権額に対応する部分に限り,質権の目的である債権を直接に取り立てることができます(民法367条1項及び2項)。
つまり,債権質の実行方法は,裁判所に担保権の実行を申し立てる方法に限られないということです。
□ 債権が質権の目的とされた場合において,質権設定者は,質権者の同意があるなどの特段の事情のない限り,当該債権に基づき当該債権の債務者に対して破産手続開始の申立てをすることはできません(最高裁平成11年4月16日決定)。

第5 質屋営業

□ 質屋営業法(昭和25年5月8日法律第158号)は,昭和25年7月1日に施行されました。
なお,昭和25年6月30日までは,①質屋取締法(明治28年法律第14号)及び②質屋取締法細則(明治28年内務省令第9号)が施行されていました。
□ 質屋営業とは,物品(有価証券を含む。)を質に取り,流質期限までに当該質物で担保される債権の弁済を受けないときは,当該質物をもってその弁済に充てる約款を付して,金銭を貸し付ける営業をいいます(質屋営業法1条1項)。
なお,質屋業者が質物を取らないで金銭を貸付けることは,質屋営業として法律上許容された行為ではありません(最高裁昭和30年6月14日判決。なお,先例として,最高裁昭和30年5月24日判決)。
□ 質屋になろうとする者は,営業所ごとに,その所在地を管轄する都道府県公安委員会の許可を受ける必要があります(質屋営業法2条1項)。
□ 質屋でない者は,質屋営業を営んではなりません(質屋営業法5条)し,質屋は,自己の名義をもって,他人に質屋営業を営ませてはなりません(質屋営業法6条)。

第6 質屋営業に対する規制

□ 質屋営業の許可を受けた者は,営業所の見やすい場所に,許可を受けたことを証する表示をする必要があります(質屋営業法10条)。
□ 質屋は,その営業所又は質置主の住所若しくは居所以外の場所において物品を質にとってはいけません(質屋営業法12条)。
□ 質屋は,物品を質にとろうとするときは,質置主の住所,氏名,職業及び年齢を確認する必要があり(質屋営業法13条前段),不正品の疑いがある場合,直ちに警察官にその旨を申告する必要があります(質屋営業法13条後段)。
□ 質屋は,帳簿を備え,①質契約並びに②質物返還及び③流質物処分をしたときは,その都度,その帳簿に以下に掲げる事項を記載する必要があり(質屋営業法14条),この帳簿は3年間保存する必要があります(質屋営業法15条1項)。
① 質契約の年月日
② 質物の品目及び数量
③ 質物の特徴
④ 質置主の住所,氏名,職業,年齢及び特徴
⑤ 質置主の住所,氏名,職業及び年齢を確認した方法
⑥ 質物返還又は流質物処分の年月日
⑦ 流質物の品目及び数量
⑧ 流質物処分の相手方の住所及び氏名
□ 質屋は,質契約をしたときは,質札又は通帳を質置主に交付する必要があります(質屋営業法16条1項)。
□ 質屋は,以下の事項を営業所内の見やすい場所に掲示する必要があります(質屋営業法17条1項各号)。
① 利率
② 利息計算の方法
③ 流質期限
→ 原則として,質契約成立の日から3月未満の期間で定めてはなりません(質屋営業法17条2項)。
④ ①ないし③のほか,質契約の内容となるべき事項
⑤ 営業時間
□ 質置主は,流質期限前は,いつでも元利金を弁済して,その質物を受け戻すことができます(質屋営業法18条1項前段)。
この場合,質置主は,質札を返還し,又は通帳に質物を受け戻した旨の記入を受けます(質屋営業法18条1項後段)。
□ 質屋は,相手方が質物の受取りについて正当な権限を有する者であることを確認した場合でなければ,質物を返還してはなりません(質屋営業法18条2項)。
□ 質屋は,流質期限を経過した時において,その質物の所有権を取得します(質屋営業法19条1項本文)。
これは代物弁済の合意と見られるものの,それが停止条件付代物弁済契約であるのか,それとも,狭義の代物弁済の予約であるのかについては,質屋営業法は定めていませんから,当事者の意思解釈に帰することとなります。
そして,当事者の意思解釈としては,質契約は当初の流質期限後もなお存続しており,質に入れた動産はなお質物のままであり,消費貸借契約もなお存続し,利息も発生しているとの認識であったとみられる場合,それらの契約に含まれる流質契約は,代物弁済の予約であって,質権者が予約完結の意思表示をして初めて流質の効果が生ずることとなります(東京地裁平成22年9月1日判決)。
□ 質屋は,当該流質物を処分するまでは,質置主が元金及び流質期限までの利子並びに流質期限経過の時に質契約を更新したとすれば支払うことを要する利子に相当する金額を支払ったときは,これを返還するように努めます(質屋営業法19条1項ただし書)。
□ 災害その他質屋及び質置主双方の責に帰することのできない事由に因り,質屋が質物の占有を失った場合,質屋は,その質物で担保される債権を失います(質屋営業法20条2項)。
□ 警察署長等は,必要があると認めるときは,質屋に対して,贓物の品触れを発することができます(質屋営業法21条1項)。
□ 質屋は,品ふれを受けた日にその物を質物若しくは流質物として所持していたとき,又は6月以内に品触れに相当する質物を受け取ったときは,その旨を直ちに警察官に届け出る必要があります(質屋営業法21条2項及び3項)。
□ 質屋が質物又は流質物として所持する物品が,盗品又は遺失物であった場合においては,その質屋が当該物品を同種の物を取り扱う営業者から善意で質に取った場合においても,被害者又は遺失主は,質屋に対し,盗難又は遺失の時から1年以内であれば,民法194条の特則としてこれを無償で回復することを求めることができます(質屋営業法22条)。
□ 警察官は,必要があると認めるときは,営業時間中において,質屋の営業所及び質物の保管場所に立ち入り,質物及び帳簿を検査し,又は関係者に質問することができます(質屋営業法24条1項)。
この場合,警察官は,その身分を証明する証票を携帯し,関係者に,これを呈示する必要があります(質屋営業法24条2項)。

第7 質屋の利率の上限

□ 質屋の利率の上限は,出資法5条の例外として(質屋営業法36条2項),年利109.5%(1日当たり0.3%)です(質屋営業法36条1項)。
これに対して,貸金業者の利率の上限は,平成18年12月20日法律第115号(平成22年6月18日施行)による改正後の出資法5条2項に基づき,利息制限法の上限金利にあわせて年利20%となりました。
□ 出資法の上限金利は,昭和29年の制定当時,金銭の貸付けを行う者すべてについて109.5%とされていたところ,その後いわゆるサラ金問題等への対応として,出資法の上限金利が引き下げられてきた経緯があります。
しかし,質屋の場合,元々質物を担保に取っているため債務者に対する取立てを行う必要がなく,過酷な取立て等の社会問題が生じていないこと,また,一件当たりの平均貸付額が少額であるため多重債務が問題とならないことなど,その営業実態がいわゆる消費者金融業者と異なることにかんがみ,これまで見直しの対象とされず,従来どおりの金利の特例が残されています(平成18年12月5日の参議院財政金融委員会における竹花豊警察庁生活安全局長の答弁参照)。
□ 質屋営業法36条は,高金利の貸付をした場合の刑事罰を規定している出資法5条2項の制限利率の緩和,利息算定方法の特則を定めたにすぎず,利息契約についての私法上の効力を定めた利息制限法の適用とは何ら関係がないし,質物保管義務,保管設備設置義務(質屋営業法7条1項),危険負担(同法20条2項)などについても,恒常的に他人の所有物を保管する質屋営業の業務態様や質置主保護の観点から要請されるものであって,利息制限法の適用排除とは無関係であるともいえます(大阪地裁平成15年11月27日判決参照)。
このような解釈をとった場合,質屋による金銭の貸し付けについても利息制限法が適用されることとなり,結論を同じくする裁判例としては,東京地裁平成22年9月1日判決があります。
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