個人再生における再生計画案

第1 総論

□ 再生計画案というのは,今後3年間で,それぞれの再生債権者に対し,いくらのお金を返済するかを記載したプランであり,一般異議申述期間の終期から2ヶ月以内に提出するものです(民事再生規則84条1項・130条)。
□ 法令上,期間内に再生計画案を提出することができない場合,期間の伸長を求めることができます(民事再生法163条3項,民事再生規則84条2項参照)ものの,個人再生の実務上,異議申述(民事再生法226条)をした場合でも,期間の伸長はまず認めてもらえません。
   そして,再生計画案の提出が締切を過ぎた場合,裁判所が職権で再生手続廃止決定を出してしまいます(小規模個人再生につき民事再生法191条2号,給与所得者等再生につき民事再生法243条2号前段及び245条)。
□ 特別の事情がある場合,5年間での返済を前提とした再生計画案を作成することができます(民事再生法229条2項2号)。
   ただし,民事再生法が個人再生手続における弁済期間を原則として3年とし,最長でも5年にとどまるとしたのは,長期にわたる分割弁済が再生債務者の負担になるだけではなく,再生債権者の債権管理上の負担にもなることを考慮したことによります。
   そのため,特別の事情があるといえるためには,3年間の弁済でも再生計画の履行可能性が認められるけれども念のためにより長期の弁済期間とするという程度の抽象的な理由では足りず,再生債務者が家計を可能な限り切り詰めてもなお3年間の弁済ではその履行が不可能又は著しく困難であるといった事情が具体的に認められる必要があります。
□ 個人再生を利用するためには,住宅ローン以外の借金が5000万円以下である必要があります(民事再生法231条2項2号,241条2項5号)。
□ 同居の親族の収入が再生債務者の家計に組み入れられている場合,再生計画の履行可能性が認められやすくなります。

第2の1 債権届に対する異議

□ 再生債務者は,再生手続開始の申立ての際,異議を述べることがある旨を債権者一覧表に記載している場合(=異議を留保している場合)を除き,異議を述べることはできません(民事再生法226条1項ただし書)。
そのため,事前求償権者としての保証会社が存在する場合,保証会社による代位弁済後に債権届の取下げをしてもらえない事態に備えて,異議を留保しておく必要があります。
□ 債権届出期間内に,再生債権者から,債権者一覧表に記載した額以上の届出があった場合,債権者一覧表に記載した額を超える部分については一部異議を述べることができます。
□ 住宅ローン及び保証会社の事前求償権については,異議を留保すること自体ができません(民事再生法226条5項)。

第2の2 専用積立口座への振込

□ 個人再生の場合,「○○○○(依頼者の名前)預り金口 弁護士山中理司」名義の専用積立口座に,再生計画案の認可決定が出るまで,毎月3万円程度のお金を振り込んでもらいます。
これは,再生計画に基づく分割金の支払が可能であること(=履行可能性)を裁判所に説明するために行うものであり,大阪地裁の取扱い上,①積立専用口座に,②毎月,③計画弁済額の1ヶ月分以上が積み立てられ,④途中の出金がないことが必要とされています。
そして,この振込を予定通り行えなかった場合,「再生計画が遂行される見込みがないとき」(民事再生法231条1項,241条2項1号,174条2項2号),又は「再生計画が遂行可能であると認めることができないとき」(住宅資金特別条項を利用した場合の要件。民事再生法231条1項,241条2項1号,202条2項2号)に当たるものとして,再生計画案の付議決定又は意見聴取決定を出してもらえなかったり(民事再生法230条2項,240条1項1号参照),再生計画の認可決定がもらえなくなったりする危険が出てきます。
□ 再生計画案の認可決定が確定した後,専用積立口座に貯まった預金を利用して,受任弁護士において第1回の再生債権の支払を行っています。
なお,第2回以降の支払は依頼者に自分で行ってもらっています。
□ 大阪地裁第6民事部の取扱い上,再生計画に基づく弁済をするための積立金(=履行可能性の審査のための積立金)について,個人再生手続開始決定前に積み立てられた金員については,財産目録の現金預貯金欄に記載をした上で,清算価値算出の際には現金・普通預金(通常貯金を含む。)とあわせて99万円控除の対象となります。
また,再生手続開始決定後は,裁判所から再生計画の履行可能性の有無を審査するに当たって,再生債務者に対し,概ね,再生計画案において毎月の弁済額となると予定される金額(=弁済予定額)程度の積立をすることが求められますところ,これによって再生手続開始決定後に積み立てられた金額については,清算価値に上乗せされることはありません(月刊大阪弁護士会24年4月号87頁)。
□ 給与の差押えがある場合,積立予定額から差押額を控除した残額を上回る場合,積立は求められません。

第3 再生計画案の作成関係

□ 再生計画案は,裁判所の付議決定又は意見聴取決定が出る前の場合,裁判所の許可がある限り修正できます(民事再生法167条本文)。
しかし,裁判所の付議決定又は意見聴取決定が出た後の場合,通常の民事再生の場合(民事再生法172条の4)と異なり,再生債権者に不利な影響を与えないときでも再生計画案の修正はできません(小規模個人再生につき民事再生法167条ただし書,給与所得者等再生につき民事再生法240条3項・167条ただし書。ただし,例外の余地が絶対にないわけではないことにつき福岡高裁平成15年6月12日決定参照)。
よって,再生計画案に不備を見つけた場合,速やかに受任弁護士までご連絡下さい。
□ 再生計画案に添付してある弁済計画表には,注意書きとして,「『確定債権額』欄には確定した元本及び開始決定日の前日までの利息・損害金の合計額を記載する。」という定型文言が入っています。
しかし,個別に再生債権の届出がない場合であっても,債権者一覧表に記載された債権は届出がなくても届出があったものとみなされます(みなし届出。民事再生法225条・244条)ところ,通常は一般異議申述期間内に異議が出ないことから,一般異議申述期間が経過した時点で無異議債権として確定します(民事再生法230条8項・244条)。
そして,最低弁済額を算出する基準となる,実質債務額(総債務額から住宅ローン及び保証債務を除いた債務額)は,無異議債権の額を基準として定めます(民事再生法231条2項4号・241条2項5号)。
よって,再生計画案に添付する弁済計画表には,①個別に再生債権の届出がある分については債権届の額を記載し,②個別に再生債権の届出がない分については,再生手続開始の申立書に添付した債権者一覧表に記載した額を転記することになります。

第4 再生計画案の可決要件

1 小規模個人再生の場合
□ 小規模個人再生の場合,再生債権者の過半数の消極的同意があれば,再生計画案が可決されることとなります(民事再生法230条6項)。
つまり,①頭数で過半数の再生債権者が同意しない旨の議決権を行使したり,②議決権の額で過半数の再生債権者が同意しない旨の議決権を行使したりした場合に限り,再生計画案は否決されるということです。
ちなみに,通常の民事再生の場合,①頭数で過半数の再生債権者が同意する旨の議決権を行使し,かつ,②議決権の額で過半数の再生債権者が同意する旨の議決権を行使しない限り,再生計画案は可決されません(民事再生法172条の3第1項)。
□ 小規模個人再生の場合,通常の民事再生の場合と異なり,再生債権者は常に書面投票により議決権を行使します(民事再生法230条3項・169条2項2号参照)から,債権者集会は開催されません。
その関係で,再生計画案が可決されなかった場合,通常の民事再生の場合(民事再生法172条の5)と異なり,債権者集会の期日を続行して再議決をすることができませんから,裁判所は,職権で,再生手続廃止の決定をします(民事再生法237条1項)。
ただし,小規模個人再生手続においても,通常の民事再生であれば,決議のための債権者集会を続行することができるだけの債権者の同意が得られており,また,決議後遅滞なく,決議において不同意の意思を表明した債権者全員から再生計画案に同意する旨の意見が表明されており,かつ,再生計画案の不認可事由が認められないような場合には,再生手続廃止決定に対する即時抗告審において,その後の事情を踏まえて,再生計画案の認可を可能とすべく,再生手続廃止決定を取り消してもらうことができます(東京高裁平成21年3月17日決定)。

2 給与所得者等再生の場合
□ 給与所得者等再生の場合,小規模個人再生の場合と比べて最低弁済額が多くなる傾向があります。
しかし,再生計画案に対する債権者の意見を聴取すれば足りる(民事再生法240条)のであって,再生計画案に対する債権者の過半数の消極的同意すら不要となります。
よって,とある再生債権者が単独で過半数の再生債権を有する点で,当該再生債権者が同意しない旨の議決権を行使しただけで小規模個人再生における再生計画案が可決されないこととなる場合,弁済総額が多少増えたとしても,給与所得者等再生の手続を利用することで確実に再生計画案の可決を図るべき場合があります。

第5 再生計画認可決定

□ 再生計画案が可決された後,再生裁判所の認可決定を得る必要があります(民事再生法231条,241条)。
その趣旨は,再生計画が,再生債務者とその債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し,もって当該債務者の事業又は経済生活の再生を図るという民事再生法の目的(法1条)を達成するに適しているかどうかを,再生裁判所に改めて審査させ,その際,後見的な見地から少数債権者の保護を図り,ひいては再生債権者の一般の利益を保護しようとする点にあります(通常の民事再生の場合につき,最高裁平成20年3月13日決定)。
□ 再生裁判所は,①所定の不認可事由がない限り,再生計画認可決定を下さなければなりません(民事再生法231条1項,241条1項)し,②再生計画案に関する付議決定又は意見聴取決定を出す前に不認可事由がないかどうかをチェックしており(民事再生法230条2項,240条1項),再生計画案に不備がある場合,修正すべきことを命じてきます(民事再生規則89条)。
よって,再生計画案が可決された後に認可決定をもらえないことは通常,ありません。
□ 再生計画は,再生計画認可決定が確定した時点で効力を生じます(民事再生法176条)。
なお,再生計画認可決定は,即時抗告(民事再生法175条1項)をされない限り,約1ヶ月後に確定します。
□ 個人再生の場合,再生計画認可決定が確定した時点で当然に終結します(民事再生法233条・244条)。
これに対して通常の民事再生の場合,再生計画認可決定が確定したとしても,①再生計画認可決定が確定した後3年を経過したときに初めて再生手続終結決定が出される(民事再生法188条2項。官報公告につき民事再生法188条5項)ほか,②再生債務者の義務違反による手続廃止(民事再生法193条)及び③再生計画認可決定が確定した後に再生計画が遂行される見込みがないことが明らかになったときの手続廃止(民事再生法194条)が定められています。
□ ちなみに,会社更生の場合,更生計画認可決定が確定したとしても,以下の場合に該当した時点で,更生手続の終了事由としての更生手続終結決定が出されます(会社更生法239条1項。官報公告につき会社更生法239条2項)。
① 更生計画が遂行された場合
② 更生計画の定めによって認められた金銭債権の総額の3分の2以上の額の弁済がされた時において、当該更生計画に不履行が生じていない場合
→ 裁判所が,当該更生計画が遂行されないおそれがあると認めたときは,この限りでありません。
③ 更生計画が遂行されることが確実であると認められる場合
□ 再生手続終結決定及び更生手続終結決定は即時抗告のできない裁判ですから,発令した時点で効力が生じます。

第6 再生計画に基づく支払内容

□ 再生計画に基づく支払が始まるのは,再生手続開始の申立てをしてから6ヶ月後ぐらいになるのが普通です。
□ 個人再生の場合,3ヶ月に1回以上,約束した分割金を支払う必要があります(民事再生法229条2項1号・244条)から,振込手数料を節約するため,通常は3ヶ月に1回,3ヶ月分をまとめて支払うという内容での再生計画案を作成します。
□ 個人再生における再生計画による権利の変更の内容は,以下の場合を除き,再生債権者の間で,債権額に応じて平等でなければならない(民事再生法229条1項・244条)のであって,通常の民事再生の場合と異なり,「再生債権者の間に差を設けても衡平を害しない場合」は差を設けてもいいということではありません(民事再生法155条1項ただし書参照)。
① 不利益を受ける再生債権者の同意がある場合
→ 例えば,両親からの借入金については,両親の同意を得て,全額を免除してもらうことがあります。
② 少額の再生債権の弁済の時期
→ 再生計画による変更後の債権額が36,000円以下の場合(=毎月1,000円以下の支払ですむ場合),一括で支払ってしまうことがあります。
③ 再生手続開始後の利息,遅延損害金等の請求権(民事再生法84条2項参照)
→ 普通は全額を免除してもらいます。
□ 再生計画は,再生計画認可決定が確定した時点で効力を生じます(民事再生法176条)。
よって,再生債権者に対する支払は,再生計画認可決定が確定した時点以降に始めることになります。
□ 再生計画に基づかない繰り上げ返済は,すべての再生債権者に対して一度に繰上返済をするのでなければ,絶対にやらないでください。
なぜなら,個人再生の場合,少額の再生債権に限り,繰上返済が認められているにすぎないからです(民事再生法229条1項・244条)。
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3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。