養育費・婚姻費用の算定表

第1 養育費

□ 養育費は離婚後に問題となる話であって,養育費に関する権利者は通常,子を養育している元妻であり,養育費に関する義務者は通常,元夫です。
□ 養育費の始期は,理論的には,離婚により扶養を要する状態が発生したときでありますところ,通常は,離婚後に養育費の分担に関する調停を申し立てたときとされ,過去に遡っての養育費の請求は原則として認められません。
□ 養育費の終期は,一般的には子が成人(満20歳)に達する月までとするのが原則でありますものの,養育費の負担義務者が子の大学進学を強く望み,大学進学費用を自ら負担する旨を認識しているような場合,大学卒業までとされます。
□ 養育費は,もともと現実に子の生活に要する費用であり,子の成長とともに,又は両親の収入等によってその額は変化しうるものですから,その一括払を求めることはできません。
   また,家事調停において養育費の支払額について合意したとしても,義務者の年収が著しく減少するなど事情の変化があった場合,養育費の支払額の変更を求めて改めて家事調停の申立てをすることができます。
   ただし,調停調書の内容は最大限尊重されなければならず,調停の当時,当事者に予測不能であったことが後に生じた場合に限り,これを事情の変更と評価して,養育費に関する調停の内容を変更して,養育費の金額を増減してもらえるに過ぎません(東京高裁平成19年11月9日決定参照)。
□ 養育費は,確定期限の定めのある定期金債権ですから,その一部に不履行があるときは,確定期限が到来していないものについても債権執行を開始することができ(民事執行法151条の2第1項3号),一定の額の範囲では給料等の差押禁止の範囲の対象外とされています(民事執行法152条3項)。
□ 離婚により勤務先の家族手当等がなくなる場合,離婚後の養育費の金額に影響しますから,必ず依頼している弁護士にご連絡下さい。
□ 養育費の支払義務は自己破産における免責許可決定(破産法252条)をもらったとしても免責されません(破産法253条1項4号ハ)。
□ 調停調書に記載された養育費は10年で消滅時効にかかります(民法174条の2第1項後段)。
   なお,①離婚協議書,又は②離婚給付等契約公正証書に記載された養育費は,民法169条の定期給付債権に該当しますから,5年で消滅時効にかかると解されています(東京地裁平成23年4月14日判決参照)。

第2 婚姻費用

1 総論
□ 婚姻費用は離婚前の別居中に問題となる話であって,婚姻費用に関する権利者は通常,収入がより少ない妻であり,婚姻費用に関する義務者は通常,収入がより多い夫です。
妻は,子を養育していない場合でも,夫に対し,生活保持義務(民法752条)又は婚姻費用支払義務(民法760条)に基づき,別居中の自分の生活費(衣食住の費用はもとより,出産費,医療費,葬祭費,交際費等が含まれます。)を請求できます。
   なお,生活保持義務とは,自分の生活を保持するのと同程度の生活を保持させる義務をいい,①配偶者間,及び②親と未成年の子との間で認められます。
□ 婚姻費用の始期は,理論的には,別居により扶養を要する状態が発生したときでありますところ,通常は,別居後に婚姻費用の分担に関する調停を申し立てたときとされ,過去に遡っての婚姻費用の請求は原則として認められません。
   なぜなら,①別居を開始してから婚姻費用の分担に関する調停を申し立てる時点までの婚姻費用の負担を命じることは義務者(通常は夫)にとって酷である反面,②婚姻費用の分担に関する審判が出された時点以降の婚姻費用しか負担しなくてもよいとすることは義務者のごね得を許すことになる点で,権利者(通常は妻)にとって酷であるからです(②の結論につき最高裁昭和40年6月30日大法廷判決参照)。
□ 婚姻関係が事実上破綻し,夫婦が別居生活に入っていたとしても,婚姻が継続している限り,婚姻費用分担の義務者は,原則として,その負担を免れることはできません(大阪高裁昭和33年6月19日決定,高松高裁昭和36年1月16日決定参照)。
□ 婚姻費用の終期は,夫婦が離婚をしたとき,又は別居状態を解消したときです。
□ 婚姻費用の支払義務は自己破産における免責許可決定(破産法252条)をもらったとしても免責されません(破産法253条1項4号ロ)。
 
2 権利者の有責性と婚姻費用分担額との関係
□ 権利者が自ら不貞をして家を出たケースのように,別居に至った原因が専ら又は主として権利者だけに存する場合,婚姻費用の分担額は権利者が現に監護している未成熟子の養育費相当分に限られ,権利者の分については分担義務がないと解されています。
    その関係で,実務上,別居についての権利者の有責性が争点となることがありますところ,婚姻費用分担事件は,離婚又は別居解消に至るまでの間の生活費等の分担額を簡易・迅速に定めることが求められており,別居原因の解明は本来的には離婚訴訟において行われるべきものです。
    よって,不貞等の別居原因の解明が必要であるからといっても,そのために時間をかけることは審理方法として適当ではなく,一般的には陳述書の提出なり当事者の審問なりをするにすぎません。
□ 別居に至る経緯につき権利者に有責性が認められず,長期間別居したことから婚姻関係が破綻したに過ぎない事例については,別居が長期化することにより,婚姻費用分担義務が軽減されることがあるとしても,別居後に特段の事情がない限り,婚姻費用分担義務自体が免除されることはありません。
 
3 一方当事者が夫婦共有財産を持ち出した場合と婚姻費用分担額との関係
□ 権利者が別居時に夫婦共有財産を持ち出し,それを費消して生活費に充当している場合,以下の理由に基づき,このような問題は離婚時の財産分与で処理されるべきものとされており,原則として,婚姻費用分担額の算定に当たっては考慮されません(結論につき仙台高裁平成16年2月25日決定参照)。
① 権利者が管理する夫婦共有財産があり,それを権利者が生活費に費消できるとして義務者の負担額を減免すれば,一方で,義務者は婚姻費用分担義務を不当に免れ,他方で,権利者は本来,財産分与によって取得できるはずの夫婦共有財産を失う結果となる点で不公平である。
② 権利者が持ち出した夫婦共有財産を当座の生活費に費消することを前提として分担額を算定すると,後の財産分与の際の法律関係がいたずらに複雑化することになりかねない。
③ 婚姻費用分担額は,夫婦である当事者双方の継続的収入に基づいて算定される性質のものであるから,義務者が継続的に収入を得ている限り,権利者が資産を有していてもそれは考慮の対象外とすべきである。
□ 具体的な事案においては,権利者により夫婦共有財産を持ち出されておりながら,更にそれに加えて婚姻費用を分担させることが義務者に酷と思われる事例については,夫婦共有財産を持ち出したという事情が考慮される場合があります。

第3 養育費・婚姻費用の算定表

□ 離婚調停の場合,養育費及び婚姻費用の金額は,東京・大阪養育費等研究会(東京及び大阪の裁判官が共同で主宰する研究会でした。)が,判例タイムズ1111号(2003年4月1日号)で発表した,「簡易迅速な養育費等の算定を目指して-養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案-」に基づき,①権利者及び義務者の年間の総収入(=年収),並びに②養育している子の人数に応じて形式的に決まることが多いです。
□ 「養育費・婚姻費用算定表」は,成人の必要とする生活費を100とした場合,0歳から14歳までの子の生活費は55であり,15歳から19歳までの子の生活費は90であるとした上で,作成されています。
   理論的には,生活保護法8条に基づき厚生労働省によって告示されている「生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)」のうち,「生活扶助基準」を利用して積算される最低生活費に教育費を加算して算出されています。
□ 給与所得者(例えば,会社員及び公務員)の場合,源泉徴収票の「支払金額」が算定表でいうところの「年収」になります。
□ 事業所得者(例えば,自営業者)の場合,確定申告書の「課税される所得金額」(事業所得から所得控除を差し引いた金額)が算定表でいうところの「年収」になります。
   ただし,確定申告書に基づいて「年収」を認定する場合,「所得から差し引かれる金額」のうち,「社会保険料控除」以外の各控除項目及び「青色申告特別控除額」,並びに現実に支払がされていない「専従者給与(控除)額の合計額」を「課税される所得金額」に加算すべきといわれる場合があります。
   つまり,事業所得者の総収入は,「所得金額」から「社会保険料控除」のみを控除し,「青色申告特別控除額」及び現実に支払がされていない「専従者給与(控除)額の合計額」等を加算して認定される場合があるということです。
□ 権利者又は義務者が給与所得と事業所得の両方の収入を得ている事例において,算定表を利用して養育費・婚姻費用を算定する場合,給与収入額と事業所得額の一方を他方に換算し,合算した額について算定表を利用することとなります。
□ 権利者が十分稼働できる環境にあるのに稼働していない場合,統計資料によって潜在的稼働能力の推計を行うことがあります。
どの程度の稼働能力があるかについては,権利者の就労歴や健康状態,子の年齢や健康状態等を考慮して判断されますものの,推計する場合,パート就労者としての年収を基準に推計する場合が多いです。
ただし,子が幼い場合,現実に稼働していない権利者の潜在的稼働能力を推計することについては,慎重な検討が必要になります。
□ 義務者の年収を認定できる資料の提出ができない場合,その旨の上申書を提出した上で,厚生労働省大臣官房統計情報部が毎年3月までに発表している賃金構造基本統計調査等の統計資料に基づき,推定の収入を主張することがあります。
□ 権利者が児童手当なり児童扶養手当なりを支給されている場合であっても,私的扶助の補充的な意味合いが強いことにかんがみ,年収には加算しません。
□ 権利者が実家からの援助を受けている場合であっても,実家からの援助は,実家の好意に基づく贈与と考えられることにかんがみ,原則として年収には加算しません。
□ 権利者又は義務者に多額の負債があった場合であっても,原則として算定表の枠内で判断します。
なぜなら,どのような原因でできた負債であるかにもよりますものの,一般的には生活保持義務に基づく養育費・婚姻費用の支払に優先するような負債は考えにくいからです。
□ 両親に対する生活費の援助は,生活保持義務に劣後する生活扶助義務(民法877条1項参照)に基づくものですから,両親に対する生活費の援助が多額であったとしても原則として考慮しません。
なお,生活扶助義務とは,自分の生活を犠牲にしない限度で,被扶養者の最低限の生活扶助を行う義務をいいます。
□ 「養育費・婚姻費用の算定表」は,公立中学校・公立高等学校に関する学校教育費を指数として考慮しているのであって,私立学校に通う場合の学校教育費等は考慮していません。
よって,①義務者が当該私立学校への進学を了解していた場合,又は②その収入及び資産の状況等から見て義務者に負担させることが相当と認められる場合,算定表によって求められた額に権利者と義務者の収入に応じて不足分を加算することが検討されることとなります。
□ 学習塾といった習い事の授業料は,通常の学校教育とは別にあくまで任意に行う私的な学習の費用であり,未成熟子を現に監護している親が,通常の婚姻費用の範囲内においてその責任で行うのが基本であるから,義務者に分担を求めることはできないと解されています。
ただし,例えば,当該未成熟子が受験期にあり,学習の必要性が高いような場合,当事者の経済状況等を勘案の上,社会通念上相当と認められる範囲で義務者に分担させられることはあります。
□ 算定表は,従前の実額認定を基本とする算定方式を,簡易迅速性及び一般人からの予測可能性の観点から,実額部分を統計値等の裏付けを持った一定の割合や指数に置き換えてその簡素化を図ったものですから,当事者が日本国内に居住している限り,具体的な地域格差を考慮せず,全国一律に適用されます(仙台高裁平成16年2月25日決定参照)。

第4 算定表における養育費特有の問題

□ 住宅ローンがあっても,その多寡にかかわらず,算定表で求められる幅の範囲内で具体的な養育費の額を決めることになります。
   なぜなら,婚姻中に購入した不動産の住宅ローンは本来,離婚に伴う清算として解決されているはずの問題だからです。
  ただし,当該不動産が離婚時においていわゆるオーバーローンの状態で,清算することなく義務者がそのまま支払を継続することを前提に当事者が離婚している場合,その支払の何割かを,権利者に負担させることが相当とされる場合はあります。
□ 婚姻中に生じた負債があっても,その多寡に関わらず,算定表で求められる幅の範囲内で具体的な養育費の額を決めることになります。
  なぜなら,婚姻中に生じた負債は本来,離婚に伴う清算として解決されているはずの問題だからです。
   ただし,離婚の際に明確な協議がされずに,義務者が債務を支払っているような場合,その支払の何割かを,権利者に負担させることが相当とされる場合はあります。
□ 義務者が権利者に対し離婚慰謝料を毎月5万円分割払いする旨の調停条項があり,義務者はこの条項通り毎月支払っているような場合であっても,以下の理由に基づき,原則として養育費の支払額に影響しません。
① 権利者に対する慰謝料支払債務は離婚の際に確定し,権利者が支払期限を猶予した場合に分割払いとなるに過ぎず,慰謝料の分割払いはそもそも性質の違う養育費の算定に当たって考慮すべきではありません。
② 実際にも,養育費の算定に慰謝料の分割払いを考慮すると,一時払いした方が,養育費が高くなる点で,慰謝料について一時払いか分割払いかで養育費の額が異なるという不合理な結果となります。
□  養育費は,当事者が現に得ている実収入に基づき算定するのが原則であり,義務者が無職であったり,低額の収入しか得ていないときは,就労が制限される客観的,合理的事情がないのに単に労働意欲を欠いているなどの主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず,そのことが養育費の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される場合に初めて,義務者が本来の稼働能力(潜在的稼働能力)を発揮したとしたら得られるであろう収入を諸般の事情から推認し,これを養育費算定の基礎とすることが許されると解されています(東京高裁平成28年1月19日決定)。

第5 算定表における婚姻費用特有の問題

1 総論

□ 義務者が,同居中に生活費や教育費を補うために金融機関から借り入れ,現在,この債務を毎月返済しているような事情がある場合,義務者が婚姻生活を維持するためにやむを得ず借り入れたと認定されるのであれば,権利者は返済額の何割かを負担すべきといえます。
よって,算定表によって求められた金額から,権利者が負担すべき額を控除した残額を,実際に義務者が支払うべき婚姻費用の分担額とするのが公平であり,相当であると考えられています。
□ 義務者が自宅の家賃と権利者の居住する住居費の双方を支払っている場合,以下のとおりとなります。
① 権利者世帯が賃貸住宅に居住し,その家賃を義務者が家主に直接支払っている場合
この場合,義務者が婚姻費用の一部を支払っていることになりますから,原則として,算定表で求められる婚姻費用の額から,義務者が支払っている家賃を控除した残額が,義務者が権利者に支払うべき婚姻費用となります。
② 権利者世帯が従前の自宅に居住し,義務者がその住宅ローンを支払っている場合
この場合,義務者が権利者の住居費を支払っていることになるため,算定表から得られる金額に何らかの修正がなされます。
ただし,(a)住宅ローンの返済は権利者の資産を形成するという面があること,及び(b)返済額にもよりますものの,全額控除すると権利者世帯に支払われる婚姻費用がわずかとなってしまい,生活保持義務よりも資産形成を優先させる結果を容認することになってしまうことにかんがみ,権利者世帯の家賃を義務者が支払っている場合と異なり,その全額を控除することは相当ではないとされています。とはいえ,全く控除しないと,権利者の側の事情により義務者が通常より高額の支出を強いられることとなり,義務者に過酷な結果となる場合もあります。
よって,権利者が自宅に居住し,義務者による住宅ローンの返済継続を希望する場合,(a)権利者が自宅居住を希望する理由,(b)双方の収入額,(c)住宅ローンの返済額等諸般の事情を総合して,双方にとって公平な結果となるよう,年収の認定に当たって返済額を考慮したり,算定表により求められた額から返済額の一定割合を控除して算定した額を,義務者が権利者に支払うべき婚姻費用としたりするのが相当であるとされています。
□ 当事者が別居してから10年以上経過し,子が成人になったような場合,算定表によって求められた婚姻費用の分担額を上限として,事情によって,適宜減額される場合があります。

 

2 再婚家庭の場合
□ 権利者が再婚した事例で,再婚相手と子との間に養子縁組がなされていない場合,権利者の年収だけで養育費の額を判断します。
これに対して,再婚相手と子との間に養子縁組がなされている場合,再婚相手が第一次的に子を扶養する義務を負いますから,原則として,義務者に対し,養育費の支払を求めることはできなくなります。
□ 義務者が再婚した場合,義務者は,権利者が養育費を求めている子の他に,再婚相手及び再婚相手との間にもうけた子に対して扶養義務を負っています。
そして,義務者と同居している再婚相手(成人)の生活費の指数を生活保護基準に基づいて算出すると,再婚相手は義務者と同居している点で0歳から14歳までの子の指数(55)とほぼ同じとなりますから,当該子の養育費は,算定表に基づき算定される額の3分の1となります。
□ 義務者には別に認知した子が1人いる場合,認知した子と権利者との間の子は同等に扱われますから,権利者との間の子が1人である場合,いずれの子の養育費についても,算定表に基づき算定される額の2分の1となります。
その結果,認知した子に想定される養育費の額が実際の養育費の額と異なる場合が出てきますものの,これは認知した子と義務者との関係で別に考慮されることになります。
□ 義務者が,内縁関係の女性及びその子(義務者との間で認知も養子縁組もなし。)と同居している場合であっても,義務者には内縁関係の女性及びその子に対して扶養義務がありませんから,特に考慮されることはありません。

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