破産者が手元に残せる財産

第0 目次

第1 総論
第2 定型的拡張適格財産
第3 99万円を超える財産等
第4 遺留分減殺請求権の取扱い
第5 財産目録に記載のない財産の取扱い
第6 直前現金化と,管財事件の自由財産拡張における取扱い
第7 同時廃止事件の場合,自由財産の拡張は認められないこと
第8 破産財団の意義

第1 総論

1 破産者とは,債務者であって,破産手続開始の決定がされているものをいいます(破産法2条4項)。

2(1) 破産管財人は,破産手続開始決定があった時点で(破産法30条2項),原則として,破産者のすべての財産(破産財団といいます。)に関する管理処分権を取得する(破産法34条1項,78条1項参照)ほか,免責不許可事由の有無について色々と調査してきます(破産法250条1項参照)。
   ただし,日常生活に必要な衣服,寝具,家具等は差押禁止動産(民事執行法131条各号)としてそもそも破産者が手元に残せるものです(破産法34条3項2号。本来的自由財産)し,大阪地裁の取扱い上,合計で99万円以下の現金及び普通預金(通常貯金等を含む。以下同じ。)はほぼ無条件に残せます(破産法34条3項1号・民事執行法131条3号・民事執行法施行令1条)。
(2)   破産者が破産手続開始決定後に新たに取得した財産(新得財産といいます。)については,無条件で手元に残すことができます(破産法34条1項参照)。

3 現金及び定型的拡張適格財産の合計額が99万円以下の場合,ほぼ無条件に拡張相当となります(普通預金は現金に準じて取り扱われる結果,例外なく自由財産と認められることになりますものの,拡張の申立て自体は必要です。)。
   99万円以下であるにもかかわらず,拡張不相当となる例外的な場合としては,例えば,①家計に大幅な黒字が出ることが継続して見込まれるような収入がある場合,②生活に無関係な自動車を複数台,所有している場合,及び③現金以外の本来的自由財産(例えば,小規模企業共済の共済金)だけで99万円を超える財産がある場合があります。

4 法文上,自由財産拡張の是非の判断要素として免責不許可事由の有無なり破産に至る経過なりが掲げられていない(破産法34条4項参照)ことから分かるように,破産者の生活のための財産確保を目的とする自由財産拡張制度と,免責許可制度とは全く別個の制度です。
   そのため,破産者に免責不許可事由があるからといって,自由財産拡張の判断に当たって破産者が不利益を受けることはありません。

5 裁判所が自由財産拡張の決定をするに当たっては破産管財人の意見を聴かなければならないとはされているものの(破産法34条5項),破産債権者が意見を述べる機会は保障されていませんし,同決定に対しては不服申立ても許されていません(破産法34条6項,9条参照)。
   ただし,自由財産の拡張を破産債権者の立場からみるならば,本来的自由財産とは別に,さらに配当原資となるべき破産財団の減少を甘受することを一方的に迫られることを意味します。
   そのため,裁判所としては,破産者の生活の維持等は,原則的には法定自由財産をもって図られるべきであって,自由財産の範囲の拡張には相応の慎重な態度で臨んでいます(福岡高裁平成18年5月18日決定参照)。

7 破産管財人が破産財団から特定の財産(例えば,換価が事実上不可能な山奥の山林。)が放棄した場合,当該財産の管理及び処分について破産管財人の権限は消滅し,破産者の権限が復活します(最高裁平成12年4月28日決定)から,破産者の自由財産として取り扱われることとなります。

第2 定型的拡張適格財産

1 自由財産の意義
自由財産とは,破産者の有する財産のうち,破産財団を構成せず,破産者が自由に管理処分できるものをいい,具体的には以下のものがあります。
① 差押禁止財産(破産法34条3項)
② 自由財産の範囲の拡張の裁判によって認められた財産(破産法34条4項)
③ 破産管財人が破産財団から放棄した財産(破産法78条2項12号参照)
④ 破産手続開始後に破産者が取得した財産(新得財産。破産法34条1項参照)

2 定型的拡張適格財産
   大阪地裁の取扱い上,平成22年1月以降に破産申立てをした場合,自由財産拡張の手続(破産法34条4項)に際し,以下の財産は定型的拡張適格財産とされていますから,遅くとも破産手続開始決定があった時点で財産目録に記載さえしておけば,現金及び普通預金とあわせて,合計で99万円以下の範囲でほぼ無条件に残せます。
① 預貯金・積立金
・ 預貯金のうち,普通預金は現金に準じます。
・   積立金には互助会なり社内積立なりの積立金も含まれます。
② 保険解約返戻金
・ 契約者貸付がある場合,貸付残高控除後の金額が基準になります。
・ 管財事件の場合,破産手続開始決定が発令された日付で,改めて解約返戻金証明書を取り直すこととなります。
③ 自動車
・ 査定書での評価額が基準になります。
・ (a)普通自動車で初年度登録から7年以上,軽自動車・商用の普通自動車で初年度登録から5年以上が経過しており,(b)新車時の車両本体価格が300万円未満であり,(c)外国製自動車でない場合,(d)損傷状況等から見て無価値と判断できる限り,査定評価を受けることなく0円と評価してもいいとされています。
・ 拡張対象となる自動車は,必ずしも1台に限られません。
④ 敷金・保証金返還請求権
・ 契約上の返還金から,滞納賃料の他,明渡し費用等を考慮して60万円を控除した金額が基準になります。
⑤ 退職金債権
・ 支給見込額の8分の1が基準になります。
・ 退職してから退職金を受給するまでの間は4分の1(民事執行法152条2項参照)が基準になります。
⑥ 電話加入権
・ 現在の電話加入権市場の相場,換価時に必要な手数料を考慮して,評価額は0円とされています。
・ 拡張対象となる電話加入権の本数は問われません。
⑦ 破産申立て時において,(a)回収済み,(b)確定判決取得済み又は(c)返還額及び時期について合意済み(口頭による合意を含む。)の過払金返還請求権
・ 自己破産の場合,受任弁護士は通常,破産管財人が過払金について自由財産拡張の判断をした時点で,依頼者に送金しています。

第3 99万円を超える財産等

1 現金及び定型的拡張適格財産の合計額が99万円を超える場合,①破産者の生活状況,②今後の収入の見込み,③拡張を求める財産の種類,④金額その他の個別的な事情に照らし,99万円を超える財産が破産者の経済的再生に必要不可欠であるという特段の事情が認められる場合に,例外的に拡張相当とされます(破産法34条4項参照)。
具体的には,以下のような事情が必要になります。
① 高齢である。
② 収入の途がないか,極めて乏しい状況にある。
③ 破産者自身が病気や障害を抱えていたり,その親族に要介護の者がいたりして,就労が困難であり,経済的負担が多い状況にある。
④ 入退院を繰り返していて高額の医療費がかかる。
⑤ 保険の再加入が認められない。

2 定型的拡張適格財産以外の財産は,原則として拡張不相当であり,例外的に「相当性の要件」を満たす場合に限り,拡張相当とされます。
   例えば,不動産は,仮に破産者の経済的再生に必要と認められる場合であっても,①客観的評価の困難性,及び②破産者の財産の適正かつ公平な清算という破産制度の目的との整合性にかんがみ,相当性を認めることは困難とされています。

第4 遺留分減殺請求権の取扱い

1 遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が,これを第三者に譲渡するなど,権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き,行使上の一身専属権である(最高裁平成13年11月22日判決参照)点で差押禁止債権であると解されています。
   そのため,破産者が権利行使の確定的意思を有することを破産手続開始決定の時点で外部に表明していない限り,本来的自由財産として手元に残せる財産に含まれます。

2 遺留分減殺請求権(民法1028条以下)というのは,両親等の遺産の相続に関し,遺言により他の相続人に遺産が渡ったために全く遺産をもらえなかったような場合に行使できる権利です。
   ただし,遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が,相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以内に行使する必要があります(民法1042条前段)。

第5 財産目録に記載のない財産の取扱い

1 破産手続開始決定が出た時点で財産目録に記載のない財産は,破産者から自由財産拡張の申立てがなされたとしても,財産の種類いかんにかかわらず,原則として拡張適格財産とはなりません。
   ただし,破産手続開始決定が出た時点で財産目録に記載のない財産であっても,破産者が当該財産を財産目録に記載していなかったことについてやむを得ない事情があると認められる場合には,その財産の種類に応じて,拡張適格財産になるかどうかを判断することとなります。

2 「財産目録に記載していなかったことについてやむを得ない事情があると認められる場合」の例としては,以下のものがあります。
① 破産手続開始の申立書の中には当該財産に関する記述があるとか,当該財産に関する資料は提出されているなど,単純な財産目録への記載漏れであることが記録・資料の上から明らかな場合
② 当該財産が自己の管理下になかったことにより財産そのものを把握していなかった場合
③ 自己に帰属する財産とは考えておらず,そう考えたことについて無理からぬ事情がある場合

第6 直前現金化と,管財事件の自由財産拡張における取扱い

1 大阪地裁では,自由財産拡張制度の運用においても,普通預金を現金に準じるものとして取り扱われていますものの,財産上の性質はあくまでも預金債権ですから,自由財産拡張の申立て自体は必要です。

2 破産申立て直前に現金・普通預金化された財産が定型的拡張適格財産以外の財産の場合,原則として拡張不相当となり,例外的に「相当性の要件」を満たす場合に限り,拡張適格財産となります。
   ただし,合計額が99万円を超える場合,「不可欠性の要件」を満たさない限り,拡張不相当となります。

3 実質的危機時期以降に保険契約の契約者貸付を受けている場合についても,財産を現金・普通預金化した場合と同様に,契約者貸付を受ける前の解約返戻金相当額を前提として,自由財産拡張の可否を判断することとなります。
   そのため,破産申立て直前に保険契約の契約者貸付を受けた結果,破産申立て時には現金・普通預金及び拡張適格財産の合計額が99万円以下になったとしても,契約者貸付を受ける前の解約返戻金額を基準とすれば99万円を超過する場合には,原則として超過部分について拡張不相当となります。

4 実質的危機時期以降に現金・普通預金化した財産(実質的危機時期以降に保険契約の契約者貸付を受けた場合も同じ。)を既に相当額の弁護士費用や必要最低限の生活費のような「有用の資」に充てた場合,その部分については破産財団を構成しないものとして取り扱われます。

第7 同時廃止事件の場合,自由財産の拡張は認められないこと

   自然人の破産において,99万円以下の現金のほか,差押禁止財産は,本来的自由財産です(破産法34条3項各号)。
   また,本来的自由財産以外にも一定の財産の保持を認めることによって,破産者が経済的再起を図る機会を確保するため,自由財産拡張制度が設けられています(破産法34条4項)。
   さらに,自由財産拡張手続は,債権者の利害を反映させるため,破産管財人の意見を聴くことが要件とされています(破産法34条5項)。
   そのため,同時廃止事件において自由財産拡張の申立てをすることは理論上困難であるため,大阪地裁の運用としても認められていません。

第8 破産財団の意義

1 破産者が,破産手続開始の時に有している財産は,原則として破産財団を構成します(破産法34条1項)。
   破産手続開始決定があった場合,破産財団に属する財産の管理処分権は破産管財人に専属することとなり(破産法78条1項),破産管財人によってその換価等がされ,最終的には配当財団として,破産債権者に対する配当原資となります。

2 破産財団には以下の三つの種類があります。
① 法定財団
・   法定財団とは,破産法が本来的に予定する破産財団であって,破産手続開始と同時に観念的に成立するものをいい,破産法34条1項及び2項,並びに78条の「破産財団」がこれに当たります。
② 現有財団
・   現有財団とは,現に破産管財人の管理下にある財産で構成される破産財団をいい,破産法62条の「破産財団」がこれに当たります。
・   破産手続開始の時においては,法定財団と現有財団は必ずしも一致しませんから,破産管財人はその不一致を解消しながら,破産財団を換価し,破産債権者に配当するための原資を確保することを職務としています。
   つまり,破産手続開始前の債務者の詐害行為によって破産財団に属すべき財産が第三者に譲渡されている場合,現有財団が法定財団よりも少ない状態にありますから,破産管財人は,否認権(破産法160条以下)の行使によってこれを回復する必要があります。
・  破産手続開始前に債務者が第三者の所有物を預かっていた場合,現有財団が法定財団の範囲を超えた状態にありますから,破産管財人は,第三者の取戻権(破産法62条)の行使に応じて(破産法78条2項13号参照),これを第三者に返還する必要があります。
③ 配当財団
・   配当財団とは,破産債権者に対する配当原資で構成される破産財団をいい,破産法209条の「破産財団」がこれに当たります。

3 破産者のした法律行為が通謀虚偽表示に該当するものとして民法94条1項により無効であっても,同条2項により,その無効は,これを以て善意の第三者である破産管財人に対抗することはできません(最高裁昭和37年12月13日判決)。
   そのため,例えば,破産者がその妻と通謀して,真実に反して,破産者が妻に対して100万円の貸金債権を有すると借用書を作成していた場合,破産管財人は,その妻に対して,100万円の貸金債権を有することとなります。
1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。

2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。