破産手続開始決定と請負契約

第1 留置権一般の説明

1 民事留置権の成立要件は以下のとおりです。
① 物に関して生じた債権であること
→ 例えば,造作買取請求権(借地借家法33条)は,建物に関して生じた債権に当たりません(最高裁昭和29年7月22日判決。なお,先例として,最高裁昭和29年1月14日判決,及び大審院昭和6年1月17日判決参照)。
② 債権が弁済期にあること
③ 他人の物を占有していること
→ 他人の物には,債権者以外の者の所有する物をいい,債務者以外の者の所有する物をも含みます(最高裁昭和38年2月19日判決)。
   また,債権者が目的物と牽連性のある債権を有していれば,当該債権の成立以後,その時期を問わず債権者が何らかの事情により当該目的物の占有を取得するに至った場合に,法律上当然に民法295条1項所定の留置権が成立するものであって,同要件は,権利行使時に存在することを要し,かつ,それで足ります(最高裁平成18年10月27日決定)。
④ 占有開始が不法行為に基づくものでないこと

2 商事留置権の成立要件は以下のとおりです。
① 商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権があること
→ 民事留置権と異なり,「物に関して生じた債権」であることは必要とされていません。
② 債権が弁済期にあること
③ 債務者との間における商行為によって,債務者の所有する物又は有価証券の占有を取得したこと
→ 商法521条の「物」に不動産が含まれるかどうかは争いがあり,東京高裁平成8年5月28日判決は,商法521条の「物」に不動産は含まれないと判示しています(上告審である最高裁平成11年11月25日判決は,この点について判示していません。)。
   その一方で,大阪高裁平成23年6月7日決定は,商法521条の「物」に不動産は含まれると判示しています。
 
3 留置権が成立したのち債務者からその目的物を譲り受けた者に対しても,債権者がその留置権を主張できます(最高裁昭和47年11月16日判決。なお,先例として,最高裁昭和38年2月19日判決参照)。

4 物の引渡を求める訴訟において,留置権の抗弁が理由のあるときは,引渡請求が棄却されるのではなく,その物に関して生じた債権の弁済と引換えに物の引渡しがを命じられます(最高裁昭和47年11月16日判決。なお,先例として,最高裁昭和33年3月13日判決及び最高裁昭和33年6月6日判決)。

5 民法296条は,留置権者は債権の全部の弁済を受けるまで留置物の全部につきその権利を行使し得る旨を規定していますところ,留置権者が留置物の一部の占有を喪失した場合にもなお右規定の適用があるのであって,この場合、留置権者は、占有喪失部分につき留置権を失うのは格別として,その債権の全部の弁済を受けるまで留置物の残部につき留置権を行使できます(最高裁平成3年7月16日判決)。
 
6 不動産を目的とする譲渡担保権が設定されている場合において,譲渡担保権者が譲渡担保権の実行として目的不動産を第三者に譲渡したときは,譲渡担保権設定者は,右第三者又は同人から更に右不動産の譲渡を受けた者からの明渡請求に対し,譲渡担保権者に対する清算金支払請求権を被担保債権とする留置権を主張することができます(最高裁平成9年4月11日判決。なお,先例として,最高裁昭和58年3月31日判決参照)。
 
7 抵当権設定登記後に成立した不動産に対する商事留置権については,民事執行法59条4項の「使用及び収益をしない旨の定めのない質権」と同様に扱い,同条2項の「対抗することができない不動産に係る権利の取得」にあたるものとして,抵当権者に対抗できないと解されています(大阪高裁平成23年6月7日決定)。
 
8 取立委任を受けた約束手形につき商事留置権を有する者は,当該約束手形の取立てに係る取立金を留置することができます(最高裁平成23年12月15日判決)。

第2 注文者の破産

1 請負人が注文者の敷地に建物を建築中に,注文者が破産して出来高に応じた請負代金を支払われない場合,請負人は不動産工事の先取特権(民法325条2号),民事留置権(民法295条)及び商事留置権(商法521条)を行使する余地があります。
   ただし,①不動産工事の先取特権を行使するためには,工事を始める前にその費用の予算額を登記する必要があること(民法338条1項),及び②民事留置権は破産手続開始決定により消滅すること(破産法66条3項)から,破産手続では,主として商事留置権が問題となります。
 
2 商事留置権は,破産財団に対しては特別の先取特権とみなされます(破産法66条1項)ものの,その先取特権は,抵当権といった,他の法律の規定による他の特別の先取特権には劣後します(破産法66条2項)。

3 破産財団に属する手形の上に存在する商事留置権を有する者は,破産手続開始決定後においても,当該手形を留置する権能を有し,破産管財人からの手形の返還請求を拒むことができます(最高裁平成10年7月14日判決参照)。
   ただし,最高裁平成10年7月14日判決は,抵当権者等に対してまで商事留置権を主張できるかどうかについては,判示していません。

4 会社から取立委任を受けた約束手形につき商事留置権を有する銀行は,同会社の再生手続開始後の取立てに係る取立金を,法定の手続によらず同会社の債務の弁済に充当し得る旨を定める銀行取引約定に基づき,同会社の債務の弁済に充当することができます(最高裁平成23年12月15日判決)。

第3 請負人の破産

1 破産法53条は,請負人が破産手続開始決定を受けた場合であっても,当該請負契約の目的である仕事が破産者以外の者において完成することのできない性質のものであるため,破産管財人において破産者の債務の履行を選択する余地のないときでない限り,当該契約について適用されます(最高裁昭和62年11月26日判決)。
   なぜなら,破産法53条は,双務契約における双方の債務が,法律上及び経済上相互に関連性をもち,原則として互いに担保視しあっているものであることにかんがみ,双方未履行の双務契約の当事者の一方が破産した場合に,破産法54条と相まって,破産管財人に当該契約の解除をするか又は相手方の債務の履行を請求するかの選択権を認めることにより破産財団の利益を守ると同時に,破産管財人のした選択に対応した相手方の保護を図る趣旨の双務契約に関する通則でありますところ,請負人が破産手続開始決定を受けた場合に,請負契約につき破産法53条の適用を除外する旨の規定がない上,当該請負契約の目的である仕事の性質上破産管財人が破産者の債務の履行を選択する余地のないときでない限り,同条の適用を除外すべき実質的な理由もないからです。

2(1) 建築請負の場合,仕事の完成前でも出来高清算を受けることができること(民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款26条(2)参照)もあって,請負人の破産管財人は,建築士等の専門家に依頼して出来高の査定を行った上で,請負契約の解除を選択することが多いです。
(2)  民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款は,民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款委員会が作成しています。

3 破産管財人が請負契約の解除を請求し,査定の結果,工事の出来高が既払金を超えている場合,破産管財人は注文者に差額を請求します。
   ただし,注文者が工事を続行することにより当初の工事代金を超える費用がかかった場合,注文者は超過費用に関する損害賠償請求権を破産債権として行使し,相殺の主張をする余地があります(破産法72条2項2号参照)。
   これに対して既払金が工事の出来高を超えている場合,注文者は,破産法54条2項の財団債権として,破産財団に対し,工事の出来高と既払金との差額の支払を求めることができます。
1(1) 交通事故及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。