過払金返還請求

第1 過払金返還請求の法律上の取扱い

1 総論
□ 過払金返還請求権は,商行為によって生じた債権に準ずるものではない点で,商事債権について5年の消滅時効を定める商法522条の類推適用はありませんから,その消滅時効は10年であります(最高裁昭和55年1月24日判決)。
   そして,完済業者についても,取引が終了してから10年以内であれば,過払金返還請求をすることができます(最高裁平成21年1月22日判決参照)。
□ 貸金業者に対する返済を連帯保証人が行っていた場合,当該連帯保証人が貸金業者に対して過払金返還請求権を取得することになります。
    そのため,過払金返還請求権を有する貸金業者に対する借金について,連帯保証人による立替払いがなかったかどうかを必ずお伝え下さい。
□ クレジット会社に対し過払金返還請求権が発生したとしても,クレジット会社がショッピングに基づく立替金債権を持っていた場合,両者を相殺した上での差額についてしか過払金返還請求をすることはできません。
   なお,相殺の効力は,双方の債務が互いに相殺に適するようになったときに遡ってその効力が生じます(民法506条2項)。
□ 和解をした貸金業者から,過払金の入金日前後に,和解契約書及び借用証書が送付されることがあります。

 

2 取引の中断がある場合の取扱い
□ 貸金業者との間でいったん完済し,その後,再び借り入れた場合,一旦発生した過払金を再開後の借入に充当できるかどうかが争いとなる結果,引き直し計算後の残債務又は過払金の額について見解の相違が生じる可能性があります。
    1年以上の中断期間がある場合,一旦発生した過払金を再開後の借入に充当できないと判断される危険が大きいです(その他,①契約書の返還の有無,②カードの失効手続の有無,及び③取引中断中の電話勧誘の有無といった事情が裁判所の判断を大きく左右します(最高裁平成20年1月18日判決参照)。)。

 

3 回収した過払金の取扱い
□ 理論的には,受任者が委任契約によって委任者から代理権を授与されている場合,受任者が受け取った物の所有権は当然に委任者に移転するものの,金銭については,占有と所有とが結合しているため,金銭の所有権は常に金銭の受領者(占有者)である受任者に帰属し,受任者は同額の金銭を委任者に支払うべき義務を負うことになるにすぎません(最高裁平成15年2月21日判決)。
    つまり,依頼した弁護士が受領した過払金の所有権は常に依頼した弁護士に帰属し,依頼した弁護士は,同額の金銭を委任者である依頼者に支払うべき義務を負うに過ぎないということです。

 

4 過払金の回収額
□ 以下の事由がある場合,実際の和解額は請求額を大きく下回ることがあります。
① 冒頭残高をゼロ円であるとして請求した場合
② 1年以上の取引の中断がある場合
③ 債権譲渡があった場合
④ 依頼した弁護士の作成した引き直し計算に誤記があった場合
→ このようなことがないようにすることは当然ですが,依頼者においても,貸金業者から開示された取引履歴と引き直し計算との間で,各回の借入額と返済額に誤記がないかどうか(特に,一桁多くないか。)を確認した方がいいです。
□ 三菱UFJニコス等のクレジット会社については,取引の中断等の事情がない限り,訴訟を提起せずに過払元利金に近い額で和解できることが多いです。

第2 過払金返還請求訴訟

1 過払金返還請求訴訟の提訴前の留意点
□ 過払金返還請求をする場合,ほぼ常に訴訟提起をする関係で,受任してから1ヶ月以内に多額の実費が発生します(1社当たり1万円から2万円程度。)ものの,それ以後は,依頼した弁護士の報酬以外に,大きな費用は発生しません。
    ただし,過払元利金の満額を払ってこない貸金業者に対して債権差押えを実施する場合,弁護士費用が別に発生します。

□ 不当利得返還請求権の義務履行地は依頼者の住所地であります(民法484条)から,不当利得である過払金の返還請求訴訟は,依頼者の住所地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所に提起することができます(民事訴訟法5条1号)。

 

2 過払金返還請求訴訟の提訴後の留意点
□ 過払金返還請求訴訟は,ほとんどの場合,依頼した弁護士限りで対応できますから,当事者尋問を実施する場合を除き,裁判期日に出席する必要はないです。
    貸金業者の答弁書では,「第1回期日に出頭できない。」旨の記載がなされることがありますが,依頼者については,代理人である受任弁護士が出頭しますから,第1回期日に限らず,裁判所に出頭する必要はまずないです。
□ 貸金業者に複数の代理人弁護士が付く場合がありますものの,代理人弁護士の人数が増えたことそれ自体が,裁判の結果に影響を与えることは絶対にありません。
    訴訟代理人が数人ある場合であっても,各自が常に当事者を代理できます(個別代理の原則。民事訴訟法56条)から,通常は担当者1人が法廷に出席するだけです。
□ 過払金返還請求訴訟に限らず,判決期日については,依頼した弁護士は出頭せず,判決言渡しの日の夕方ぐらいに判決書謄本(謄本というのは,原本全部のコピーをいいます。)を受領しに行くことが多いです。
□ 一部又は全部敗訴の判決が言い渡されたときに不服がある場合,判決書の送達を受けた日から2週間以内に控訴する必要があります(民事訴訟法285条本文)。

第3 返還を受けた過払金と税金

□ 過払金を回収した場合,回収した過払金の元金について課税関係が発生することはありません。
なぜなら,利息として支払った金銭のうち払い過ぎとなっている部分について返還を受けたものであり,所得が生じているものではないからです。
しかし,5%の過払利息は,雑所得(=総収入金額-必要経費)の計算上,「総収入金額」に算入されます。
ただし,雑所得の計算上,受任弁護士の報酬及び実費は「必要経費」として控除できます(所得税法35条2項2号参照)し,雑所得の額が20万円以下の場合,確定申告をする必要がありません(所得税法121条1項本文1号参照)。
よって,過払金の回収により課税関係が発生することは通常,ありません。
□ 貸金業者に対する支払利息を必要経費とした上で従前の確定申告をしていた場合,以上の記述とは異なる取扱いとなります。

第4 途中からの履歴開示しかない場合

□ 貸金業者が途中からの取引履歴しか開示してこなかった場合,冒頭残高を0円とした上で,引き直し計算を実施します(裁判上も認められるかどうかは,当たった裁判官によります。)から,途中からの取引履歴しか開示されないことが直ちに,回収できる過払金の額が少なくなることを意味するわけではありません。
後日,貸金業者から当初よりの取引履歴の開示があった場合,冒頭残高を0円とした引き直し計算よりも過払金が減少することは当然にあります。
また,未開示の取引期間の長さからすれば,開示された取引履歴の冒頭時点では過払金が発生していなかったと思われる場合,推定計算によって,冒頭時点の過払金が計算されることがあります。
平成5年10月より前の取引履歴は既に廃棄したと主張する新生フィナンシャル(平成21年3月31日まではGEコンシューマー・ファイナンス)でよくある話です。

第5 生活保護と過払金の回収

□ 生活保護受給者が過払金を回収し,受任弁護士の費用及び借金を完済した後に余りが出た場合(生活保護手帳別冊問答集2009,問8-32参照),収入認定される結果,「被保護者が保護を必要としなくなったとき」に当たるものとして,通常は生活保護が停止又は廃止されます(生活保護法26条)。
生活保護が廃止された場合,国民健康保険への加入手続を直ちに行って下さい。
□ 生活保護受給中に貸金業者に対する返済を継続した結果,発生した過払金を回収した場合,生活保護法63条に基づき費用の返還を求められることがあります。
そのため,各区の保健福祉センター(大阪市の場合),保健福祉総合センター(堺市の場合)に対し合理的な説明をする必要がありますから,別途,受任弁護士にご相談下さい。

第6 過払金返還請求権と,他の依頼者の残債務との差引計算は禁止されること

□ 特定の法律事務所の弁護士らが主体となり,報酬を得る目的で,業として,債務整理を受任した依頼者のうちから大手消費者金融業者甲に対して不当利得返還請求権を有している不特定多数の者から甲に対して貸金債務を負担している不特定多数の者に同請求権を譲渡させ,これらの権利実現を訴訟等の手段を用いて実行している場合において,このような債権譲渡は,弁護士法73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)及び28条(係争権利の譲受の禁止)の趣旨に抵触します(東京地裁平成17年3月15日判決参照)。
そのため,例えば,①受任弁護士の甲という依頼者がネットカードに対する過払金返還請求権を有し,②乙という依頼者がネットカードに対する貸金返還債務が残っている場合,ネットカードに対する過払金の回収が極めて困難であるとしても,受任弁護士の主導により,乙が甲に過払金返還請求権の額面の何割かの対価を支払い,甲から債権譲渡を受けた上で,乙(元の債権者は甲)のネットカードに対する過払金返還請求権と,ネットカードの乙に対する貸金返還請求権を相殺することはできないこととなります。
□ 債権の管理又は回収の委託を受けた弁護士が,その手段として本案訴訟の提起や保全命令の申立てをするために当該債権を譲り受ける行為は,他人間の法的紛争に介入し,司法機関を利用して不当な利益を追求することを目的として行われたなど,公序良俗に反するような事情があれば格別,仮にこれが弁護士法28条に違反するものであったとしても,直ちにその私法上の効力が否定されるものではありません(最高裁平成21年8月12日決定。なお,先例として,最高裁昭和49年11月7日判決参照)。
この判例に照らせば,過払金返還請求権と,他の依頼者の残債務との差引計算について,弁護士法28条の趣旨に違反するとはいえ,私法上の効力までは否定されないこととなります。

第7 訴訟外での和解と訴えの取下げ

□ 過払金返還請求訴訟を提起した後に貸金業者との間で,訴訟外で和解できた場合,和解金の入金を待った上で,訴えの取下げ(民事訴訟法261条1項)をすることが多いです。
□ 訴えを取り下げる場合,被告である貸金業者が既に答弁書を提出していたときは,被告の同意が必要となります(民事訴訟法261条2項本文)から,和解書と一緒に取下げの同意書も被告から提出してもらいます。
なお,被告が取下げの同意書を提出してくれなかった場合,訴えの取下書の副本を裁判所から被告に送達してもらい(民事訴訟法261条4項,民事訴訟規則162条1項),2週間以内に被告から異議が出なかった時点で訴えの取下げの効果が発生します(民事訴訟法261条5項前段)。
□ 訴えを取り下げる場合,被告である貸金業者が答弁書を提出していなかった場合,被告の同意は不要であり,この場合,取下書の受付日又は期日において取下げの陳述がされた日が事件の終局日となります。
ただし,裁判所書記官は,訴えの取下げがあった旨を相手方に通知する必要があります(民事訴訟規則162条2項)から,通常は,取下書の副本が裁判所から被告に普通郵便で送付されます。
□ 被告からの一部入金を理由に請求の減縮をする場合,訴えの一部取下げとして取り扱われますから,前述した手続が必要となります。
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3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。