再生計画を履行できなくなった場合の取扱い

第1 再生計画取消しの申立て

□ 一度でも支払が滞った場合,債権者から再生計画取消しの申立てがなされたり(民事再生法189条1項2号),場合によっては,裁判所が職権で破産手続を開始したりすることがあります(牽連破産。民事再生法250条1項)。
 そのため,個人再生の場合,原則として3年間で100万円以上のお金を確実に支払うことができることを証明するために,自己破産の場合以上に様々な資料の提出を裁判所から要求されることとなります(小規模個人再生につき民事再生規則112条2項2号及び同条3項1号,給与所得者等再生につき民事再生規則136条2項3号及び同条3項1号)。
 その関係で,個人再生の場合,自己破産の場合と比べて,弁護士報酬が高くなるわけです。
□ 再生計画取消しの申立ては,再生計画の定めによって認められた権利の全部について裁判所が評価した額の10分の1以上に当たる権利を有する再生債権者がすることができます(民事再生法189条3項)。
□ 大阪地裁第6民事部における民事再生法189条1項2号を理由とする再生計画取消事件の件数は,平成22年までは年間10件前後でしたが,平成23年には50件の申立てがありました(月刊大弁24年3月号56頁)。
□ 再生計画取消決定が確定すると,再生計画に従って権利変更された再生債権は,原状に復することとなります(民事再生法189条7項本文)。
ただし,再生債権者が再生計画によって得た権利は影響を受けません(民事再生法189条7項ただし書)。

第2 再生計画の変更

□ やむを得ない事由で当初の再生計画を遂行することが著しく困難となった場合,再生計画で定められた債務の期限を2年間に限り延長することはできます(民事再生法234条1項・244条)。
 ただし,債務の減免は認められません。
□ 変更の要件である「やむを得ない事由」とは,当初の再生計画を作成する段階では予測できず,再生債務者のコントロールできない事情であることを要します。
 例えば,①勤務先の業績不振による給与引き下げ,及び②勤務先の倒産によって転職を余儀なくされたことによる収入減少があります。
 これに対して,①当初の再生計画作成時に収入の減少が予測されていた場合,及び②再生債務者が自己都合で退職したような場合はこの要件に該当しないと考えられます。
□ 再生計画変更の申立てに際しては,所定の事項を記載した申立書とともに再生変更計画案を提出する必要があります。
 また,①再生計画変更の要件を充足するかどうか,及び②変更後の再生計画の履行可能性に関する判断のため,最低限,直近2ヶ月分の家計収支表,及び収入の変動を生じた前後の給与明細を提出する必要があります。
□ 再生計画の変更については,再生計画案の提出があった場合の手続に関する規定が準用されます(民事再生法234条2項)。
□ 住宅資金特別条項は,一般の再生債権に対する再生計画の規制とは全く別の規制を受けること(民事再生法199条5項,229条4項)から,再生計画の変更において,住宅資金特別条項に関する変更を行うことはできないと解されています。

第3 ハードシップ免責

□ 再生計画を履行できなくなった場合,以下の要件を満たすときに限り,免責の申立てをすることができます(ハードシップ免責。民事再生法235条1項・244条)。
 ただし,東京地裁の場合,平成13年4月1日から平成19年9月30日までの6年半で,申立ては8件のみであり,うち免責確定が6件で審理中その他が2件となっているように,極めて稀な手続です。
① 再生債務者が,その責めに帰することができない事由により再生計画を遂行することが極めて困難となった場合,
→ ①の要件は,ハードシップ免責の要件があまりに安易なものであるとモラルハザードを招くこととなるため,再生債務者のコントロールの及ばない事由に限定した上で,そうした事由によって計画の遂行が「極めて」困難になったことが必要とされています(再生計画変更の要件である「著しく」困難よりも困難の度合いが深刻な場合を意味します。)。
② 再生計画における各債権につき,その4分の3以上の額の弁済を終えていること
→ ②の要件として,再生債務者は,ハードシップ免責の申立書に振込依頼書や領収書等を添付するなどして,4分の3以上の弁済があることを疎明する必要があります。
③ 免責の決定をすることが再生債権者の一般の利益に反するものでないこと
→ ③の要件は,既に弁済済みの総額が,再生計画認可時の清算価値を下回らないことを意味します。
 そのため,認可された再生計画が清算価値の総額と同額を弁済するものとされている場合,必然的にこの要件を満たさないこととなります。
④ 民事再生法234条に基づく再生計画の変更をすることが極めて困難であること
→ ④の要件は,再生計画の遂行が困難になった場合でも,まずは再生計画の変更によって対処可能であれば,弁済期限を延長して支払を継続していくべきであることから設けられています。
□ ハードシップ免責の申立てに際しては,免責を求める旨及びその理由として①ないし④の要件に該当する事実を具体的に記載するとともに,その事実を証する書面を添付する必要があります。
□ ハードシップ免責の申立てがされると,裁判所は,届出再生債権者の意見を聴く必要があります(民事再生法235条2項)。
 また,住宅資金特別条項によって権利の変更を受けた住宅ローン債権者がいる場合,その住宅ローン債権者も含みます(民事再生法235条8項)。
□ ハードシップ免責を受けた場合,将来7年間,自己破産をした際の免責不許可事由となる(破産法252条1項10号ハ)ほか,将来7年間,給与所得者等再生の申立てをすることはできません(民事再生法239条5項2号ロ)。
 ただし,小規模個人再生により再び借金を整理することは可能です。

第4 破産手続開始の申立て

□ 再生計画の履行が困難になったときに,再生債務者が再生計画の変更やハードシップ免責を利用することができない場合,小規模個人再生の手続を利用していれば,破産手続開始の申立てをすることができます。
 ただし,再生計画認可決定が確定した場合,その後に計画通りの弁済が困難になったとしても,再生計画の取消決定がされない限り,再生債権が原状に復することはなく,期限の利益も当然には喪失しないため,履行期の到来した債務を支払う能力が継続的に欠如しているとして支払不能を認定することが困難なことが多いです。
□ 再生債務者について破産手続開始決定又は新たな再生手続開始決定がされた場合,再生計画によって変更された再生債権は,原状に復します(民事再生法190条1項本文)。
□ 再生手続後に破産手続開始の申立てをした場合,口頭審査の対象となります。
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