破産手続開始決定等と訴訟手続等との関係

第0 目次

第1 総論
第2 離婚訴訟及び家事審判の場合
第3 破産者が死亡した場合の,慰謝料請求権の取扱い
第4 破産手続終結決定と訴訟手続との関係
第5 破産法44条(破産財団に関する訴えの取扱い)の条文

第1 総論

1 破産手続開始決定があった場合,同時廃止事件を除き,「破産者を当事者」とする「破産財団」に関する訴訟手続(例えば,①破産者に対する貸金返還請求訴訟,②破産者が提起した貸金返還請求訴訟)は中断します(破産法44条1項)。
   また,裁判所の保全管理命令があった場合も同様に中断します(破産法96条2項・44条1項)。

2 中断した訴訟手続のうち,破産債権に「関する」訴訟(例えば:破産者に対し,貸金の返還なり,売掛金の支払なりを請求する訴訟)の取扱いは以下のとおりです。
① 同時廃止事件の場合
   この場合,訴訟手続の中断は生じません(大阪地裁第6民事部の取扱い)から,破産者が従前通り訴訟を遂行できます(破産法44条6項参照)。
   しかし,破産者が自然人である場合,請求債権が非免責債権に該当しない限り,免責許可決定が確定した時点で請求が棄却されます(破産法253条1項本文参照)。
なお,破産者が法人である場合,原則として同時廃止決定は出ません。
② 管財事件のうちの異時廃止事件の場合
   この場合,異時廃止決定の確定後(発令後,1ヶ月ぐらいで確定します。)に破産者が当然に受継します(破産法44条6項)。
   しかし,破産者が自然人である場合,請求債権が非免責債権に該当しない限り,免責許可決定が確定した時点で請求が棄却されます(破産法253条1項本文参照)。
   これに対して破産者が法人である場合,異時廃止決定の確定後に訴えを取り下げるにしても,破産債権者において,法人の特別代理人又は清算人の選任が必要となるなど,破産債権者の手続的な負担が大きくなります。
   そのため,破産債権者が破産管財人に対し当該訴訟の請求債権を破産手続において破産債権として行使しない旨の書面による意思表示をなすことで当該訴訟を「破産債権に関しないもの」(破産法44条2項)とし,破産管財人が直ちに訴訟手続を受継した上で,破産債権者による訴えの取下げに同意することができると解されています(破産管財手続の運用と書式95頁参照)。
③ 管財事件のうちの配当事件の場合
   この場合,破産管財人が債権調査期日において破産債権に異議を述べたとき,訴訟の相手方である破産債権者が,一般調査期日から1ヶ月以内に(破産法127条2項・125条2項),訴訟手続の受継の申立て(破産法127条1項)をして破産管財人との間で訴訟を続行し,破産手続が終了した後は,破産者が当然に受継し(破産法44条6項),勝訴した場合,破産管財人によって供託された配当額(破産法202条1号・205条)を回収することとなります。
   ただし,破産者が自然人である場合,請求債権が非免責債権に該当しない限り,免責許可決定が確定した時点で請求が棄却されます(破産法253条1項本文参照)から,破産管財人によって供託された配当額しか回収できません。
   これに対して,破産管財人が債権調査期日において破産債権に異議を述べなかったとき,破産債権は確定し(破産法124条1項),破産債権者表は確定判決と同一の効力を有します(破産法211条1項前段)から,訴訟は当然に終了します。

3(1) 中断した訴訟手続のうち,破産債権に「関しない」訴訟(例えば:破産者が提起した貸金返還請求訴訟)の取扱いは以下のとおりです。
① 同時廃止事件の場合
   この場合,訴訟手続の中断が生じません(大阪地裁第6民事部の取扱い)から,破産者が従前通り訴訟を遂行できます(破産法44条6項参照)。
② 管財事件の場合
   この場合,破産管財人及び訴訟の相手方は,訴訟手続の受継の申立てをすることができます(破産法44条2項)。
(2) 破産手続開始決定は決定時から効力が生じる(破産法30条2項)のに対し,当該決定と同時にされる破産手続廃止決定はその主文等の公告によって効力が生じます(破産法13条・民事訴訟法119条)から,同時廃止決定からその公告までの間は,訴訟手続の中断効が生じないと解する余地があります。
   しかし,同時廃止決定がされた場合,破産財団が構成されない以上,中断の対象となる「破産財団に関する訴訟」(破産法44条1項)自体が存在しないものと考えられますし,破産管財人が選任されることも,債権調査が行われることもない以上,そもそも訴訟手続を中断させる実益がありません。
   そのため,大阪地裁第6民事部では,係属中の訴訟の一方当事者について同時廃止決定がされた場合,訴訟手続は中断せず,破産者及び相手方当事者はそのまま訴訟手続を続行できると考えています。 

4 破産財団に関する訴えについては,破産管財人が原告又は被告となります(破産法80条)。
   そのため,破産者が直接,訴訟の当事者となることはありません。

5 訴訟手続の中断中は判決の言渡ししかできない(民事訴訟法132条1項)のであって,その他の訴訟行為は,裁判所及び当事者のいずれの行為であっても無効です。
   また,判決を言い渡しても,判決書の正本の送達(民事訴訟法255条)は中断が解消した後に行う必要があるのであって,この場合,口頭弁論終結後で判決送達前に受継申立てをするという形になります。
   そのため,①破産手続中に破産管財人を当事者として受継の申立てをするか(破産法44条2項。なお,判決書の正本の送達後に中断した訴訟手続の受継申立てにつき民事訴訟法128条2項),又は②破産手続が終了した後に破産者を当事者として受継の申立てをし(破産者が自然人である場合),若しくは特別代理人又は清算人の選任申立てをし(破産者が法人である場合),その上で,判決書の正本の送達をしてもらう必要があります。

6 受継申立ては,中断時に訴訟が係属している受訴裁判所に対し,民事訴訟法124条1項各号に定める受継すべき者であることを明らかにする資料(民事訴訟規則51条2項)を添付して,書面で行う必要があります(民事訴訟規則51条1項)。
   また,中断事由が生じた場合,訴訟代理人は,その旨を受訴裁判所に届け出る必要があります(民事訴訟規則52条)。

7 破産管財人が訴訟手続を受継する場合,破産裁判所の許可を得る必要はありません(破産法78条2項参照)。

8 例えば,破産者の貸付金等について債務不存在確認訴訟が提起されている場合,「破産財団に関する訴訟」ですから,破産手続開始決定により中断する(破産法44条1項)ものの,「訴訟手続のうち破産債権に関しないもの」ですから,破産管財人及び訴訟の相手方は直ちに受継の申立てをすることができます(破産法44条2項)。

9(1) 破産管財人は,訴訟の対象となっている破産財団に属する財産の換価価値,その訴訟の勝敗ないし和解の見込み,今後の訴訟追行に要する期間等の諸事情を考慮して,受継するか,財団から放棄するかを判断することとなります。
(2) 破産管財人が,訴訟の対象となっている破産財団に属する財産を財団から放棄した場合,破産者がその訴訟手続を受継します(最高裁平成12年4月28日決定参照)。

10 訴訟手続一般に関しては,「弁護士依頼時の一般的留意点」「陳述書」「証人尋問及び当事者尋問」並びに「尋問調書」を参照して下さい。 

第2 離婚訴訟及び家事審判の場合

1 離婚訴訟の場合
(1) 離婚訴訟の係属中に当事者が破産した場合,(a)当事者のどちらの破産であるか,及び(b)審理対象となる事項ごとに以下のように取扱いが異なります。
① 離婚及び親権者
・   離婚及び親権者に関する争いは「破産財団に関する訴訟手続」ではありませんから,当事者のいずれが破産したとしても中断せず,破産者を訴訟当事者としてそのまま進行します。
② 年金分割
   年金分割は元々,自由財産である年金についてのものですから,当事者のいずれが破産したとしても中断せず,破産者を訴訟当事者としてそのまま進行します。
③ 離婚慰謝料
・   離婚慰謝料は行使上の一身専属権であり,債務名義が成立するなどして,具体的な金額の慰謝料請求権が当事者間において客観的に確定し,又は被害者が死亡しない限り,一身専属権の範囲に留まります(名誉毀損の慰謝料請求に関する最高裁昭和58年10月6日判決参照)。
   そのため,権利者の破産では,訴訟手続は中断せずにそのまま進行します。
・   義務者の破産では,(a)離婚原因によって発生する離婚原因慰謝料の場合,破産債権となるのに対し,(b)離婚自体によって発生する離婚自体慰謝料(通常の離婚慰謝料はこちらです。)の場合,「破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」(破産法2条5項参照)に当たりませんから,手続外債権となります。
④ 養育費
・   養育費は,要扶養状態の存在により日々発生する権利であり,将来の養育費の額が破産手続開始決定の前に家事審判等で決定されていても,破産手続開始決定後に日々発生する部分は,手続外債権であります。
   ただし,破産手続開始決定前の期間に対応する養育費請求権は,権利者の破産では破産財団に属する権利となり,義務者の破産では破産債権(ただし,非免責債権)となります。
⑤ 財産分与請求権
・  離婚によって生ずることあるべき財産分与請求権(民法768条1項)は,一個の私権たる性格を有するものではありますが,協議又は審判等によって具体的内容が形成されるまでは,その範囲及び内容が不確定・不明確であるから,かかる財産分与請求権を保全するために債権者代位権を行使することはできません(最高裁昭和55年7月11日判決参照)。
   しかし,少なくとも請求の意思表示をした後の財産分与請求権は行使上の一身専属権ではないと解されています(破産実務Q&A200問・102頁)。 
   そのため,財産分与請求権は,権利者の破産では「破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権」(破産法34条2項)として破産財団に属する権利となり,義務者の破産では破産債権となります。
(2) 離婚訴訟の付帯請求として財産分与又は養育費の請求をしている際に当事者のいずれかが破産した場合,人事訴訟の基本は訴訟手続であることから,中断した上で,受継の問題となります。
   そして,権利者と義務者のどちらの破産であっても,当事者となるのは破産管財人ですから,家事事件手続規則29条に基づき,破産管財人が受継の手続をすることとなります。

2 家事審判の場合
   離婚後の家事審判手続により養育費又は財産分与の請求をしている際に当事者のいずれかが破産した場合,家事審判手続で中断の概念がないので中断はしませんから,受継(家事事件手続法44条)だけの問題となります。
   そして,権利者と義務者のどちらの破産であっても,当事者となるのは破産管財人ですから,家事事件手続規則29条に基づき,破産管財人が受継の手続をすることとなります。

第3 破産者が死亡した場合の,慰謝料請求権の取扱い

   破産手続開始決定前の名誉毀損に基づく慰謝料請求権は行使上の一身専属権であります。
   そして,被害者である破産者が死亡した場合,名誉毀損に基づく慰謝料請求権は一身専属性を失うに至りますものの,破産手続終結決定がされた後に行使上の一身専属性を失うに至った慰謝料請求権について破産法215条1項後段の適用はありません。
   そのため,破産者の相続人が訴訟承継をして訴訟を続行することとなります(最高裁昭和58年10月6日判決参照)。

第4 破産手続終結決定と訴訟手続との関係

1   破産手続が終結した後における破産者の財産に関する訴訟については,当該財産が破産財団を構成し得るものであったとしても,破産管財人において、破産手続の過程で破産手続終結後に当該財産をもって破産法215条1項後段の規定する追加配当の対象とすることを予定し,又は予定すべき特段の事情がない限り,破産管財人に当事者適格はありません(最高裁平成5年6月25日判決参照)。

2   最高裁平成5年6月25日判決が判示するところの特段の事情の例としては,①破産手続終結後,破産債権確定訴訟等で破産債権者が敗訴したため,当該債権者のために供託していた配当額を他の債権者に配当する必要を生じた場合,及び②破産管財人が任務をけ怠したため,本来,破産手続の過程で行うべき配当を行うことができなかった場合があり,この場合,破産管財人の任務はいまだ終了していないので,当該財産に対する管理処分権限も消滅しません。

第5 破産法44条(破産財団に関する訴えの取扱い)の条文

○破産法44条(破産財団に関する訴えの取扱い)の条文は以下のとおりです。
1 破産手続開始の決定があったときは、破産者を当事者とする破産財団に関する訴訟手続は、中断する。
2 破産管財人は、前項の規定により中断した訴訟手続のうち破産債権に関しないものを受け継ぐことができる。この場合においては、受継の申立ては、相手方もすることができる。
3 前項の場合においては、相手方の破産者に対する訴訟費用請求権は、財団債権とする。
4 破産手続が終了したときは、破産管財人を当事者とする破産財団に関する訴訟手続は、中断する。
5 破産者は、前項の規定により中断した訴訟手続を受け継がなければならない。この場合においては、受継の申立ては、相手方もすることができる。
6 第一項の規定により中断した訴訟手続について第二項の規定による受継があるまでに破産手続が終了したときは、破産者は、当然訴訟手続を受継する。
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