未払賃金の立替払制度

第1 総論

□ 未払賃金立替払制度は,企業の倒産により賃金が支払われないまま退職した労働者に対して,ボーナスを除く未払賃金の8割を立替払する制度です(賃金の支払の確保等に関する法律7条ないし9条)。
以下,賃金の支払の確保等に関する法律(昭和51年5月27日法律第34号。昭和51年7月1日施行)を「法」といい,同法の施行令は「令」といい,同法の施行規則は「規則」といいます。
□ ①全国の労働基準監督署,及び②独立行政法人労働者健康安全機構(担当部署は賃金援護部)が未払賃金の立替払制度を実施しています(独立行政法人労働者健康安全機構法12条1項6号参照)。
   ただし,船員法の適用を受ける船員の未払賃金については,地方運輸局長(運輸監理部長を含む。)が労働基準監督署長の役割を果たします(令5条)。
□ 平成28年4月1日,労働者健康「福祉」機構は,労働安全衛生総合研究所を統合し,労働者健康「安全」機構となりました。 
□ 未払賃金の立替払制度は,労災保険の社会復帰促進等事業の一つとして行われています(法9条,労災保険法29条1項3号)。
□ 立替払した場合,労働者健康福祉機構がその分の賃金債権を代位取得し,本来の支払責任者である使用者に求償します。
□ ①偽りその他不正の行為により立替払金を得た場合,及び②事業主が不正に加担し,偽りの報告又は証明をしたため立替払金が支払われた場合,①それらの行為により立替払金を得た者,及び②それに加担した者に対し,詐欺罪(刑法246条)として刑事告発が行われます。
   また,①偽りその他不正の行為により立替払金を得た者,及び②それに加担した事業主については,国から,支払われた金額の返還及びそれに相当する金額の納付が命じられます(法8条)。

第2 未払賃金の立替払を受けるための要件等

□ 未払賃金の立替払を受けるための要件は以下のとおりです。
① 使用者が,
(a) 労働保険の適用事業に該当する事業を1年以上行っていたこと(法7条,規則7条)
→ 同居の親族(=居住及び生計を一にする親族)のみを使用する事業は,労働保険の適用事業ではありませんから,未払賃金の立替払制度の対象外です。
(b) 法律上の倒産,又は事実上の倒産があったこと
→ 法律上の倒産としては,破産手続開始決定(法7条),特別清算開始命令,再生手続開始決定,又は更生手続開始決定があります(令2条1項1号ないし3号)ところ,この場合,破産管財人等に倒産の事実等を証明してもらう必要があります。
事実上の倒産とは,中小企業事業主(令2条2項参照)について,事業活動が停止し,再開する見込みがなく,賃金支払能力がない場合をいい(令2条1項4号,規則8条),この場合,労働基準監督署長の認定が必要ですから,労働基準監督署に認定の申請を行う必要があります(規則9条)。
② 労働者が,倒産について裁判所への申立て等(法律上の倒産の場合)又は労働基準監督署への認定申請(事実上の倒産の場合)が行われた日の6か月前の日から2年の間に退職した者であること(法7条,令3条)
→ 破産手続開始の申立て等が遅れれば遅れるほど,未払賃金の立替払制度の対象となる労働者が減少することとなります。
□ 労働基準監督署長は,認定に関する処分を行ったときは,遅滞なく,その内容を明らかにした通知書を申請者に交付する必要があります(規則11条)。
□ 労働者は,未払賃金の額等について,法律上の倒産の場合には破産管財人等による証明(規則12条1項参照)を,事実上の倒産の場合には労働基準監督署長による確認(規則12条2項,13条2号)を受けた上で,労働者健康福祉機構に立替払の請求を行うことができます(規則17条1項)。
ただし,立替払の請求は破産手続開始決定等がなされた日又は労働基準監督署長による認定日から2年以内に行う必要があります(規則17条3項)。
□ 法律上の倒産の場合において破産管財人等による証明を受けることができなかった労働者(例えば,①登記上の役員,②経営者の親族又は③建設請負従事者であって,破産管財人から労働者性を否定された労働者)であっても,労働基準監督署長による確認(規則12条1項,13条1号)を受けた上で,労働者健康福祉機構に立替払の請求を行うことができます(規則17条1項)。
この場合,①雇用保険・社会保険の加入状況,②出勤状況に関する記録,③雇用や請負に関する契約書等といった労働者性に関する資料が必要となります。
□ 労働基準監督署長による確認を受けようとする労働者は,事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長(=所轄労働基準監督署長)に対し,確認を受けようとする事項等を記載した申請書を提出する必要があります(規則14条)。
そして,所轄労働基準監督署長は,確認に関する処分を行ったときは,遅滞なく,その内容を明らかにした通知書を申請者に交付する必要があります(規則15条)。
□ 退職した労働者が労働者健康福祉機構から立替払を受けた未払賃金も退職所得に該当します(租税特別措置法29条の6)。
その関係で,定期賃金だけの立替払請求であっても,労働者健康福祉機構に対する請求書の「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」欄を必ず記載する必要があります(所得税法203条1項,所得税法施行規則77条)。
□ 加入していた社外積立の退職金制度(例えば,①中小企業退職金共済制度及び②特定退職金共済制度)なり,会社なりから退職手当の支給を受けていた場合,立替払の請求に際して,①退職所得の源泉徴収票(所得税法226条2項)の写し,及び②退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書(税務署備付けの緑色の用紙)を一緒に送る必要があります(所得税法203条1項,所得税法施行規則77条)。
なお,「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」の提出がない場合,支払金額の20%相当額が源泉徴収されます(所得税法201条3項)。
□ 外国籍の労働者は,退職金の立替払の請求に際して,①パスポート又は外国人登録証の写し,及び②振込先の預金通帳(名義人の氏名が判明するページ)の写しを一緒に送る必要があります。
その理由は,①退職所得の源泉徴収義務(所得税法199条参照)との関係で税法上の居住者であるかどうかを確認する必要がありますし,②口座名が異なる場合があるため,誤振込を防止する必要があるからです。

第3 立替払の対象となる未払賃金,及び立替払をする額

□ 立替払の対象となる未払賃金は,労働者の退職日の6カ月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している定期賃金及び退職手当のうち,未払となっているものです(令4条2項・労働基準法24条2項本文)。
なお,未払賃金の総額が2万円未満の場合,立替払の対象とはなりません(令4条2項)。
□ ①ボーナス,②解雇予告手当,③賃金に係る遅延利息,④慰労金や祝金名目の恩恵的又は福利厚生上の給付,及び⑤実費弁償としての旅費は立替払の対象とはなりません。
□ 事業主が通常支払っていた定期賃金及び退職手当の額,当該事業主と同種の事業を営む事業主でその事業規模が類似のものが支払っている当該賃金の額等に照らし,不当に高額であると認められる額は,立替払の対象となりません(令4条2項,規則16条)。
□ 立替払をする額は未払賃金の額の8割です(令4条1項柱書)。
ただし、退職時の年齢に応じ,①88万円(退職時に30歳未満の者),②176万円(退職時に30歳以上45歳未満の者),又は③296万円(退職時に45歳以上の者)という上限が設けられています(令4条1項各号)。
□ 労働者健康福祉機構は,立替払賃金の支給に関する処分を行ったときは,遅滞なく,その内容を明らかにした通知書を請求者に交付する必要があります(規則18条)。

第4 破産管財人等による証明に際して必要な資料

1 定期賃金の場合
□ 破産管財人等による定期賃金の証明に際しては,①事業活動が停止した日以前概ね1年間の賃金台帳,及び②賃金台帳・就業規則の写し(あれば)が必要となります。
ただし,賃金台帳が調整されていない場合,亡失した場合,又は未払賃金が長期高額にわたる場合,以下のいずれかの資料が必要となります。
① 労働条件通知書,雇入れ通知書,雇用契約書の写し
② 労働者が受け取っていた給料明細書
③ 賃金が振り込まれていた預金通帳の該当ページの写し
④ 出勤簿,タイムカード,手帳の写し等の出勤記録
⑤ 所得税に係る源泉徴収簿,課税証明等の税務関係の書類
⑥ 雇用保険の被保険者離職者証明書といった,未払賃金額が推認できる資料
⑦ 破産手続開始決定後の期間に未払賃金がある場合,事業活動に関する資料
2 退職金の場合
□ 破産管財人等による退職金の証明に際しては,①就業規則・退職金規程の写し,及び②未払退職手当計算書(退職金の基礎となる基本賃金額,勤続年数(月数),職階等によって支給率が異なる場合は当該職階等(賃金台帳,労働者名簿,人事記録)が分かるものが必要となります。
□ 退職金規程等は,従業員に周知されていて,過去に支払実績のある有効なものである必要があります。
よって,退職金規程等の労働基準監督署への届出状況が不明である場合,以下のいずれかの資料が必要となります。
① 過去の退職者に対する退職手当の支払状況
→ 支給者への振込記録,経理関係帳簿・決算書への退職金の計上,税務申告の記録,受給者の報告書等で判断します。
② 雇入通知書,ハローワークの求人申込書への退職金制度に関する記載
③ 貸借対照表等の経理書類への退職金引当金の計上の状況
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