受任通知発送前後の注意事項
第0 目次
第2 新たな借入れの禁止等
第3 今後の債権者との交渉は原則として依頼した弁護士が行うこと
第4 親戚等の取扱い
第5 ヤミ金には絶対に手を出さないこと
第6 高額療養費「貸付」制度は利用しないこと
第7 その他の注意事項等
*1 交通事故の被害者が確定判決を取得している場合,弁護士費用特約を利用できることがありますから,回収可能性が全くない場合であっても給料又は預貯金に対する差押えを実施してくることがあります。
そのため,受任通知発送後,できる限り早く自己破産の申立てをした方がいいですし,交通事故の被害者に対する受任通知の発送だけはできる限り遅くした方がいいです。
*2 債務整理・過払い金ネット相談室HP(LSC綜合法律事務所)に「受任通知によって取立てが停止するのはなぜなのか?」,及び「債務整理に共通する債権調査とは?」が載っています。
第1 すべての支払停止の原則
1 個人再生の場合の住宅ローンを除き,受任通知発送後は,債権者との間で和解が成立するまで借金の返済を停止する(自己破産の場合,今後は一切,借金の返済は行いません。)とともに,債権者との交渉はすべて依頼した弁護士が行うこととなります。
この場合,私の経験上,借金の返済を停止したことに対する苦情が依頼者のところへ届くことは,まずありません(ただし,①受任通知の発送直前に借入をした債権者,及び②個人の債権者は除く。)。
また,自己破産又は個人再生の場合,破産手続開始決定又は再生手続開始決定が出た後は,法律上も借金の返済が停止することになります(破産法100条1項,民事再生法85条1項参照)。
2 自己破産又は個人再生の可能性が全くない任意整理の場合において,整理の対象としなかったクレジット会社については,従前通りの支払を続けることが可能です。
第2 新たな借入れの禁止等
(2) 自己破産又は個人再生の場合,大阪府生活福祉資金といった役所からの借入金のほか,クレジットカードによる買い物も含め,受任通知発送後の借入は一切,厳禁です。
2(1) 債権者は,受任通知受領直後に,クレジットカード,ローンカード等のカードを返却するようにいってくることがあります(特に,クレジット会社の場合)から,家族会員のものを含め,はさみで2つに切った上で,速やかに依頼した弁護士のところへ送った方がいいです。
(2) 従前の返済においてサラ金等のカードを利用して行っていたとしても,任意整理に基づく和解契約締結後の分割金の支払は銀行振込で行いますから,カードを使えなくすることで,返済に関する不都合が生じることは一切ありません。
3(1) 決済に使っているクレジット会社を除いた債務整理をしない場合,携帯電話料金,プロバイダー料金,生命保険料といった,カードで継続的に決済している支払があれば,金融機関に連絡して口座引落しにするか,現金払いに変更してください。
例としては,JCB,VISA,セディナ等があり,クレジット会社からの毎月の請求書を見れば,このようなものが含まれているかどうかが分かります。
(2) 受任通知発送後もカードでの決済(家族カードのものを含む。)が続いている場合,クレジット会社からクレームを付けられます。
4 業として,JCB等のクレジットカード等を譲り受けたり,又は資金の融通に関してクレジットカード等の提供を受けたりすることは禁止されています(割賦販売法37条)から,このような行為は絶対に止めて下さい。
第3 今後の債権者との交渉は原則として依頼した弁護士が行うこと
(2) 私の経験上,受任通知発送後,依頼者に対して直接,貸金業者から連絡が来たことはありません(ただし,住宅ローン及び自動車ローン関係は除きます。)。
(3) 自己破産又は個人再生をした場合,本人又は親族に対し,破産債権又は再生債権を弁済させる等の目的で,面会を強請し,又は強談威迫の行為をした債権者は,3年以下の懲役又は300万円以下の罰金(併科されることもあります。)に処せられます(破産法275条,民事再生法263条)ものの,任意整理の場合,ここまでの保護は及びません。
2 「貸金業者向けの総合的な監督指針」は,金融庁が平成19年12月19日(「貸金業法」の施行日です。)に策定したものであって,従前の「金融監督等にあたっての留意事項について」(通称「事務ガイドライン」)の第三分冊(金融会社関係)に代わるものとして策定されました。
3(1) 債権者が個人の場合,依頼者に対して直接,借金の催促をしてくることがありますし,場合によっては,弁護士又は司法書士に頼んで,依頼者の住民票を取り寄せることで現在の住所を調べた上で,請求書等を送ってくることがあります。
このような行為は法律上,禁止されているわけではありませんから,着信拒否の設定をするなどして対応して下さい。
(2) 債権者が代理人弁護士又は代理人司法書士に頼んだ場合,当該弁護士又は司法書士が受任弁護士を介さずに依頼者本人と直接交渉することは禁止されています(弁護士職務基本規程52条,及び司法書士倫理40条2項)。
第4 親戚等の取扱い
1 親戚等が連帯保証人になっている場合
(1) 連帯保証人を確保している債権者に対して債務整理を開始する場合,債権者は,連帯保証人に対し,保証債務の履行を請求することとなります。
そのため,知人又は親族に,消費貸借契約なり賃貸借契約なりの連帯保証人になってもらっている場合,債務整理を開始する旨を事前に連絡をしておいた方が無難です。
自己破産又は個人再生の場合であっても,連帯保証人は,債権者に対し,約定どおり借金を返済しなければなりません(自己破産につき破産法253条2項,個人再生につき民事再生法177条2項)。
(2)ア 連帯保証人は,将来,立て替えたお金を債務者に請求できる権利(「事前求償権」といいます。)を有しますから,債権者となります。
任意整理の場合,連帯保証人に対して受任通知は送らないものの,自己破産又は個人再生の場合,債権調査票を出してもらうために受任通知を送ります。
イ ①受任通知につき,直接郵送するという手段に限らず,債務者である依頼者から手渡ししてもらうとか,②親戚等に対する受任通知の送付は後日にするなど,なるべく事案に応じた対応を考えます。
(3) 期間の定めのある建物の賃貸借において,賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合,反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り,保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解され,保証人は,賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き,更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れません(最高裁平成9年11月13日判決)。
2 親戚等が連帯保証人になっていない場合
親戚等が連帯保証人になっていない場合,①貸金業者が債務者に対して親戚等から借りて返済しろと要求することはできません(貸金業法21条1項6号参照)し,②貸金業者が親戚等に対して立替払いを要求することもできません(貸金業法21条1項7号参照)し,③これらの要求をする旨を告げることもできません(貸金業法21条1項10号参照)。
貸金業者がこのような行為をした場合,貸金業法47条の3第1項3号・21条1項6号,7号又は10号に基づき,2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられるほか,併科される場合もあります。
第5 ヤミ金には絶対に手を出さないこと
1 「090金融」等のヤミ金業者(貸金業登録をしていない業者をいいます。)が,高金利での融資を持ちかけてくることがあります(例えば,10日で1割の利息を取るヤミ業者は「トイチの業者」といいます。)。
最高裁平成20年6月10日判決は,ヤミ金からの借金については元本も含めて返済する必要はないと判示していますものの,こうしたヤミ金に手を出すのは絶対にやめて下さい。
2(1) ヤミ金は,貸金業法3条に基づく都道府県知事又は財務局長(貸金業法45条2項参照)の貸金業許可を受けていない点で貸金業法11条1項所定の無登録営業に当たりますから,10年以下の懲役又は3000万円以下の罰金に処せられ,併科されることもあります(貸金業法47条2号)。
(2) ヤミ金は通常,年利109.5%(1日当たり0.3%)以上の利息を取ってお金を貸していますから,5年以下の懲役又は1000万円以下の罰金に処せられ,併科されることもあります(出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律5条1項)。
つまり,ヤミ金は重大な犯罪行為とされているということです。
3 日本貸金業協会HPの「一般のみなさまへ」には,悪質業者の手口(1)(広告等に記載された言葉や表現に注意),悪質業者の手口(2)(虚偽記載)及び悪質業者の手口(3)(詐欺・高金利等)が載っています。
第6 高額療養費「貸付」制度は利用しないこと
2 高額療養費は差押禁止債権です(国民健康保険法67条,健康保険法61条)から,債権者が確定判決を持っていたとしても,差押えをすることはできません。
第7 その他の注意事項等
(2) 私の経験上,受任通知を出した後に貸金業者が給料の仮差押えなり訴訟提起なりをしてきたことはありません。
2(1) 任意整理の場合,ローンで購入した商品については,約定通りの支払ができないとはいえ,債権者によっては,約定の期間より長くかかってもいいから,約定の残債権を全額弁済してくれる限り,ローンで購入した商品の返還を求めてこないことがあります。
これに対して自己破産又は個人再生の場合,約定通りの支払ができなくなる結果,債権者から返還を求められることとなります。
(2) いずれにせよ,高額な品物を購入している場合,予め依頼した弁護士にお伝えください。
3 受任通知発送前の時点において,パチンコ,パチスロ(=パチンコ店に設置されたスロットマシン),競馬,競輪,競艇等のギャンブルをしていた場合,これらの事項は破産手続における免責不許可事由に該当します。
また,宝くじの場合,当せん金付証票法5条1項に基づき,当せん金の総額は宝くじの発売総額の50%を超えてはならないとされていることにかんがみ,宝くじの購入にお金を費やす行為自体が免責不許可事由に該当しうるとされています。
そのため,自己破産の可能性がある場合,受任通知発送後は,これらの行為を一切控えた方がいいです。
2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。