個人再生の場合の最低弁済額

第0 目次

第1 総論
第2 小規模個人再生の場合
第3 給与所得者等再生の場合
第4 個人再生における否認対象行為の取扱い
第5 大阪地裁の場合,個人再生委員は原則として選任されないこと
第6 個人再生手続と,公租公課,罰金等及び非免責債権との関係
第7 直前現金化と,個人再生事件の清算価値の計上における取扱い

* 債務整理・過払い金ネット相談室HP(LSC綜合法律事務所)「個人再生の最低弁済額とは?」が載っています。

第1 総論

1 再生手続開始決定の後に再生債権者を追加した場合,債権者一覧表の訂正ができないことと相まって,当該再生債権者の再生債権の額は基準債権額に含まれません。
   そのため,実質債務額が500万円以下の場合であっても,最低弁済額は100万円を超えることになります。

2 個人再生の場合,再生予納金として12,268円が必要になります(民事再生法24条1項,民事再生規則16条1項参照)。
   また,申立手数料として10,000円の収入印紙が必要になります(民事訴訟費用等に関する法律別表第一12項の2)。

3 不動産の清算価値の評価については,原則として時価評価と被担保債権額の比較によりますものの,例えば,共有物件であるからといって当然に低額で評価するものではありません。

4 親族の土地を使用貸借で借用し,その上に建物を所有している場合,土地の利用権については,底地価格の10%程度が清算価値として算定されることが多いです。
   つまり,相続税及び贈与税との関係では,国税庁長官が発した,昭和48年11月1日付直資2-189「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」という通達に基づき,使用貸借に基づく利用権は0円と評価されますものの,個人再生の場合,これとは異なるということです。

5 固定資産税・都市計画税相当額程度の賃料を支払っているに過ぎない場合,通常の必要費は借主負担であるとする民法595条1項に基づき,使用貸借と評価されます。

6 大阪地裁第6民事部の取扱い上,平成22年4月1日以降の申立て分から,普通預金(通常貯金を含む。)は現金に準ずるものとして取り扱われるようになりました。
   そのため,保有する現金に普通預金の口座残高のうちの払戻見込額を加えた額から99万円を控除した残額(残額が0円を下回るときは0円。)が清算価値として計上することになりました。
7 実質債務額が100万円以上で500万円を超えない場合,個人再生の手続内で実質債務額がいくらになっても,③の100万円の基準が適用されますから,最低弁済額は100万円のままです。
   例えば,実質債務額が200万円の場合,100万円/200万円(→弁済率は50パーセント)×200万円=100万円となり,実質債務額が400万円の場合,100万円/400万円(→弁済率は25パーセント)×400万円=100万円となるということです。

8 給与所得者等再生における生活費の額の具体的内容は,民事再生法第二百四十一条第三項の額を定める政令(平成13年3月16日政令第50号)で定められており,①再生債務者の年齢,居住地域の他,②扶養親族の人数,年齢,居住地域等によって異なってきます。

9 給与所得者等再生の場合,給与所得者等再生を行うことが認められないときは,小規模個人再生による再生手続の開始を求める旨を記載して,申立書を提出するのが普通です(民事再生規則136条2項2号参照)。

第2 小規模個人再生の場合

1 民事再生法(平成11年12月22日法律第225号)は,平成12年4月1日に施行された法律です。
   ただし,小規模個人再生及び給与所得者等再生並びに住宅資金貸付債権に関する特則は,平成12年11月29日法律第128号(平成13年4月1日施行)による改正により設けられた制度です。

2 小規模個人再生は,将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある債務者を対象としています(民事再生法221条1項)。
   そのため,仮に親族等の援助を得られる見込みがあったとしても,無職の人は利用できません。

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小規模個人再生の場合,以下の①ないし③の額のうち,最も大きい額を支払う必要があり,通常は③の100万円となります(これを「最低弁済額」といいます。)。
① 実質債務額(総債務額から住宅ローン及び保証債務を除いた債務額)の5分の1の額(民事再生法231条2項4号)
・ 実質債務額が1500万円以上3000万円以下の場合,最低弁済額は300万円となります。
② 清算価値の額(民事再生法174条2項4号参照)
・ 清算価値とは,定期の預貯金,土地建物(遺産分割未了のものを含む。),保険解約返戻金,自動車,敷金・保証金返還請求権,退職金債権(原則として支給見込額の8分の1)等の合計をいい,自己破産をした場合に債権者に配当されるお金のことをいいます(通常の民事再生の場合につき札幌高裁平成16年3月15日決定参照)。
・ 大阪地裁の場合,自己破産の場合の自由財産の額(上限は99万円)を控除しないで清算価値が判断されます。
③ 100万円(民事再生法231条2項4号)

第3 給与所得者等再生の場合

1 給与所得者等再生は,給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり,かつ,その額の変動の幅が小さいと見込まれる人を対象とする手続です(民事再生法239条1項)。
   そのため,小規模個人再生の場合よりも利用できる人は少なくなるのであって,具体的な適用対象者としては,サラリーマンが想定されています。

2 給与所得者等再生の場合,以下の①ないし④の額のうち,最も大きい額を支払う必要があり,通常は④の額となります(これを「最低弁済額」といいます。)。
① 実質債務額の5分の1の額(民事再生法241条2項5号・231条2項4号)
→ 実質債務額が1500万円以上3000万円以下の場合,最低弁済額は300万円となります。
② 清算価値の額(民事再生法241条2項2号参照)
③ 100万円(民事再生法241条2項5号・231条2項4号)
④ 法定可処分所得額の2年分(民事再生法241条2項7号)

3 法定可処分所得額というのは,給与又はこれに類する定期的な収入の額(=給与・ボーナス等のこと。なお,子ども手当,児童扶養手当,就学援助費等は除く。)から,所得税,住民税及び社会保険料のほか,扶養親族を含めて最低限度の生活を維持するために必要な生活費(=生活保護受給者レベルの生活費)の額を控除した額をいいます(民事再生法241条2項7号)。
   つまり,給与所得者等再生を利用する場合,年間でいえば,生活保護受給者レベルの生活費に50万円の余裕のある生活費しか認められないということです。

4(1) 同居の親族(例えば,共働きの配偶者)の収入は法定可処分所得額の計算に影響を与えません。
   なぜなら,民事再生法241条2項7号のイないしハは,いずれも再生債務者の収入のみを計算の基礎とするよう規定されているからです。
(2) 再生債務者とは,経済的に窮境にある債務者であって,その者について,再生手続開始の申立てがされ,再生手続開始の決定がされ,又は再生計画が遂行されているものをいいます(民事再生法2条1号)。

第4 個人再生における否認対象行為の取扱い

1 個人再生の場合,否認権が行使されることは原則としてありません(民事再生法238条・245条参照)。
  しかし,再生債務者が支払不能になった後に特定の債権者に弁済を行ったような場合(例えば,給与の天引きという形での勤務先に対する借金の返済があった場合),破産手続における否認対象行為に該当する結果,個人再生との関係では,以下の不利益が発生します。
① 不当な目的による申立てに当たる危険
→ 否認対象行為の存在が再生手続開始前に判明している場合,破産手続による否認権行使を回避するという不当な目的で再生手続開始の申立てがされたものとして,当該申立てが棄却される可能性があります(民事再生法25条4号)。
② 最低弁済額が切り上げられる危険
→ 再生計画案における弁済率を算定する際は,計画弁済総額が,再生債務者が破産した場合の予想配当額を下回ってはなりません(清算価値保障原則)。
   そこで,再生債務者が,特定の債権者に対して偏頗弁済を行っていた場合,弁済相当額が清算価値から流出していることとなりますから,同額が計画弁済総額に上乗せされない限り,再生計画案は,「再生債権者の一般の利益」に反して違法であり,当該再生計画案について付議決定をもらえません(民事再生法174条2項4号,202条2項1号及び230条2項)(東京高裁平成22年10月22日決定)。
   つまり,再生債務者としては,当該否認対象行為を前提として,回復されるべき財産の価額を清算価値に加算した上で再生計画案を作成する必要があるということです。

2 ②については,否認対象行為により逸出財産が比較的少額であって,これを考慮しても清算価値が最低弁済額の要件を下回る場合(例えば,現存する清算価値が10万円で,否認権の行使によって回復されるであろう財産の額が50万円の場合,最低弁済額100万円を下回ります。),結果として,否認対象行為は手続に影響しないこととなります。

3 大阪地裁第6民事部では,給与の差押えがあり,債権者が取立等によって再生申立て前の1年(破産法166条参照)以内に債権の満足を得た場合,債権者が満足を得た額が清算価値に上乗せされることとなります。
  ただし,当該行為は債務者の直接的な行為ではなく,債務者において容易に回避できないということも考慮し,清算価値に上乗せする額は,当該債権者が満足を得た金額そのものではなく,債権者が満足を得た金額から20万円を控除した金額とする取扱いがなされています(月刊大阪弁護士会24年4月号86頁)。

4 公務員である債務者の給与から共済組合の貸付金の返済のための天引きがされている場合(国家公務員等共済組合法101条2項,地方公務員等共済組合法115条2項)についても,受任通知後の天引き合計額については,偏波弁済として否認対象行為となります。
  そのため,個人再生手続においては,清算価値補償原則との関係上,清算価値に上乗せされることとなります。
  ただし,強制執行の場合と同様に,債務者自身で容易に回避できないものと考えられますから,清算価値に上乗せする額については,天引き合計額から20万円を控除することを認める取扱いとなります(月刊大阪弁護士会24年4月号88頁)。

5 ちなみに,通常の民事再生の場合,否認権限を有する監督委員(民事再生法56条1項)又は管財人(民事再生法64条)が選任される結果,監督委員又は管財人が訴え又は否認の請求により(民事再生法135条1項),否認権を行使することになります(①につき民事再生法127条1項,②につき民事再生法127条2項,③につき民事再生法127条3項,④につき民事再生法127条の2,⑤につき民事再生法127条の3,⑥につき民事再生法129条)。

第5 大阪地裁の場合,個人再生委員は原則として選任されないこと

1 大阪地裁の場合,東京地裁の場合と異なり,弁護士が代理人となって個人再生の申立てをした場合,原則として,個人再生委員(民事再生法223条・244条)の選任はされません。

2 弁護士代理の事件であっても事業による負債総額が3000万円を超えているような個人事業者の場合,売掛・買掛や手形取引等の信用取引を反復継続的に行っていることも多く,財産及び収入の状況の把握や再生計画の遂行の可能性の判断に困難を生じることが予想されますから,個人再生委員を選任して,財産及び収入の状況の調査や債務者が適正な再生計画案を作成するために必要な勧告を行うこととしています(この場合の予納金は30万円が目安となります。)。

第6 個人再生手続と,公租公課,罰金等及び非免責債権との関係

1 個人再生の場合,住民税,国民健康保険料といった公租公課は一般優先債権に該当する点で,再生債権(民事再生法84条1項参照)ではありませんから,個人再生手続を経たとしても,減免の対象にはなりません(民事再生法232条2項・244条参照)し,再生手続外で随時弁済する必要があります(民事再生法122条2項)。
   ただし,再生計画には,一般優先債権の弁済に関する条項を定める必要があり(民事再生法154条1項2号),その際,将来弁済すべきものを明示することになります(民事再生規則83条)。
   その関係で,公租公課の滞納がある場合,再生手続開始の申立てをする前に,税務署,市税事務所等との間で分納に関する交渉を行い,分納金の支払月額,支払期間等を取り決めた上で,分納誓約書,納付書,償還表等を用意することが望ましいです。

2 個人再生の場合,再生手続開始前の罰金,科料,刑事訴訟費用,追徴金又は過料(=再生手続開始前の罰金等。民事再生法97条)は,再生計画において減免その他権利に影響を及ぼす定めをすることはできません(民事再生法155条4項)し,再生計画において減免してもらうことはできません(民事再生法232条2項・244条参照)。

3 個人再生の場合,自己破産の場合の非免責債権は,原則として減額の対象となりません(民事再生法229条3項各号・244条)。
   そのため,再生計画遂行中の3年間,他の再生債権と同様に支払をした上で,3年後(民事再生法229条2項2号・244条参照)に,残額(通常は5分の4)を支払う必要があります(民事再生法232条4項・244条)。

第7 直前現金化と,個人再生事件の清算価値の計上における取扱い

1 個人再生事件における計画弁済総額は,破産手続によった場合の配当額以上でなければならず(清算価値保障原則),これを下回る再生計画案は,再生債権者の一般の利益に反するものとして認可されません(民事再生法231条1項,174条2項4号,241条2項2号)。
   そこで,再生債務者が,破産事件において本来的自由財産として認められる99万円を超えて現金を保有している場合,超過部分については清算価値に計上する必要があります。

2 大阪地裁では,個人再生事件においても,普通預金を現金に準じるものとして取り扱っていますから,保有する現金と普通預金の合計額から99万円を控除した残額を清算価値に計上する運用が実施されています。
   他方,現金・普通預金以外の財産については,同時廃止における按分弁済の場合とは異なり,項目ごとに実質的価値が20万円未満の場合でも,一律に清算価値に計上するものとされています。

3 破産事件における取扱いと同様,再生債務者が実質的危機時期以降に財産を現金・普通預金化した場合,現金・普通預金化される前の状態を前提に清算価値が計算されます。
   保険解約返戻金については,解約返戻金額から契約者貸付にかかる借入残額を控除した額を清算価値に計上する取扱いですが,契約者貸付を受けた時期や貸付金の使途によっては,当該行為により減少した財産相当額を清算価値に上乗せされる場合があります。

4 実質的危機時期以降に現金・普通預金化した財産(実質的危機時期以降に保険契約の契約者貸付を受けた場合も同じ。)を既に相当額の弁護士費用等の「有用の資」に充てた場合,その部分については,清算価値の計算に当たって除外することができます。
   ただし,個人再生手続では,収入の範囲内で生活費を支出しながら弁済をしていく手続ですから,破産手続とは異なり,葬儀費用等の突発的な出費を除き,通常の生活費は「有用の資」に充てたとは認められません。
1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。

2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。