破産手続開始決定と強制執行手続等との関係

第0 目次

第1 破産手続開始決定の前に,破産債権に基づく給与の差押えがなされている場合の取扱い
第2 給料の差押えを受けた債務者が同時廃止の申立てをする場合の取扱い
第3 既に終了した強制執行等の取扱い
第4 国税滞納処分の取扱い
第5 給料差押えの場合,裁判所からの郵便物の受け取りは拒否した方がいいこと
第6 破産手続中の強制執行はできないこと

* 教えて自己破産HP「自己破産直前の強制執行は破産管財人に否認される?」が載っています。

第1 破産手続開始決定の前に,破産債権に基づく給与の差押えがなされている場合の取扱い

○破産手続開始決定の前に,破産債権に基づく給与の差押えがなされている場合,以下のとおりになります。

1 同時廃止事件の場合
(1) ア  破産手続開始決定「正本」及びこれを停止文書とする旨の上申書を執行裁判所に提出することで,破産者の財産との関係で執行手続は中止されます(破産法249条1項,民事執行法39条1項7号)。
   そして,給与差押えの手続が中止されたとしても,給与の4分の3を超える額の支払は留保されたままになります(民事執行法152条1項2号参照)。
   そのため,免責許可決定が確定した時点で,免責許可決定「正本」及び確定証明書並びにこれを取消文書とする旨の上申書を執行裁判所に提出することで,破産者の財産との関係で執行処分は取り消されます(破産法249条2項,民事執行法39条1項6号・40条1項参照)。
   そして,取消文書に基づいて執行処分が取り消された場合,執行抗告ができません(民事執行法40条2項・12条)から,この時点で,勤務先にプールされていた給与を含め,給与の全額を受け取ることができるようになります。
イ 執行停止の上申書を提出する場合,裁判所からの通知を送るための84円切手(債務者及び第三債務者の人数分。最低でも84円切手2枚)を一緒に提出します。
   同様に,執行取消の上申書を提出する場合,裁判所からの通知を送るための84円切手(債務者及び第三債務者の人数分。最低でも84円切手2枚)を一緒に提出します。
ウ 執行停止の上申書等を提出する場合,執行部宛の委任状が別途,必要になります。
(2) 大阪地裁本庁の場合,債権進行係に提出します(ダイヤルインにつき大阪地裁HPの「大阪地方裁判所執行センターのご案内」参照)。
(3) 同時廃止決定が出てから免責許可決定が確定するまでの期間は通常,3ヶ月ぐらいです。
(4) この点に関する手続は通常,破産申立代理人が行います。 

2 管財事件の場合
(1)ア   破産管財人による続行申請(破産法42条2項ただし書参照)がなされない限り,破産手続開始決定が発令された時点で(破産法30条2項参照),破産手続開始決定「正本」及びこれを取消文書とする旨の上申書を執行裁判所に提出することで,破産財団との関係で執行処分は取り消されます(破産法42条2項本文,民事執行法39条1項6号・40条1項参照)。
   そして,取消文書に基づいて執行処分が取り消された場合,執行抗告ができません(民事執行法40条2項・12条)から,この時点で,将来の給与の全額を受け取ることができるようになります。
イ 勤務先にプールされていた給与について自由財産の拡張が認められた場合,プールされていた給与についても受け取ることができるようになります。
(2)   自由財産の拡張申立てを除き,この点に関する手続は通常,破産管財人が行います。

3 外部HPによる説明
   「破産手続と給与差押え」に同趣旨の説明があります。

第2 給料の差押えを受けた債務者が同時廃止の申立てをする場合の取扱い

給料の差押えを受けた債務者が同時廃止の申立てをする場合,以下のような取扱いになります(月刊大弁23年10月号参照)。

1 既に取立てがされ,又は転付命令の確定若しくは配当により差押債権者が満足を受けている場合
(1) その時期及び額を記載した書面を破産裁判所に提出します。
   なお,差押債権者が満足を受けたのが支払不能後である場合,否認対象行為が存在することとなりますから,否認権を行使して差押債権者に支払われた金員を取り戻すために管財事件に移行することがあります。
(2)   管財事件に移行するためには破産予納金が必要ですし,破産管財人が否認権を行使しても,必ず全額を回収できるとは限らないこと等も考慮して,差押債権者に支払われた金額が40万円未満である場合,同時廃止決定をもらうことができます。
   なお,差押債権者に支払われた金額が40万円以上である場合であっても,破産者の直接的な行為によって責任財産が減少したわけではなく,破産者の手元に財産があるわけではないことから,20万円を超える部分を按分弁済すれば,同時廃止決定をもらうことができます。

2 取立てが未了で配当等のために供託がされている場合
   供託されている金額及び配当等の見込みを記載した書面を破産裁判所に提出します。
   この場合,否認の問題は出てきませんが,破産手続開始決定によって供託金が破産者に戻ってくる(破産法42条2項本文),つまり,破産者は,給料の払戻請求権という財産を保有していることとなります。
   よって,この金額が20万円を超える場合については,その全額について按分弁済をする必要が生じることとなります。

3 取立てが未了であり,かつ,配当のための供託もされていない場合
   今後の取立て等の見込みを記載した書面を破産裁判所に提出すれば足ります。

第3 既に終了した強制執行等の取扱い

1  破産法42条2項本文は,破産債権に基づき破産財団に属する財産に対してされた強制執行等は破産財団に対してはその効力を失う旨を規定していますところ,破産手続開始決定当時既に強制執行が終了している場合,同項本文の適用はありませんから,既に終了した強制執行は,破産手続開始決定により効力を失うことはありません。
   そして,仮執行宣言は,その宣言又は本案判決を変更する判決の言渡しにより,変更の限度においてその効力を失うものではあります(民訴法260条1項)ものの,仮執行宣言付判決に基づく強制執行(=仮執行)は,終局的満足の段階にまで至る点において確定判決に基づく強制執行と異なるところはありませんから,破産手続開始決定当時既に終了している仮執行は,破産手続開始決定により効力を失うことはありません(最高裁平成13年12月13日決定)。

2(1) 債務者が支払不能となった後に強制執行により債権を回収した場合,否認対象行為となります(破産法162条1項1号,165条)。
   そのため,破産管財人が否認権を行使した場合,強制執行により回収したお金を破産管財人に引き渡す必要があります。
(2)  「否認対象行為」も参照して下さい。

第4 国税滞納処分の取扱い

1 破産手続開始決定があった場合,破産財団に属する財産に対する国税滞納処分はすることができなくなります(破産法43条1項)。
   そのため,税務署は,①財団債権部分の租税債権(過去1年未満の分。破産法148条1項3号)については破産管財人に対し,②優先的破産債権部分の租税債権(1年以上前の分。破産法2条5項,98条1項)については破産裁判所に対し,交付要求をすることになります(①につき破産規則50条及び国税徴収法82条1項,②につき破産法114条1号,破産規則36条及び国税徴収法82条1項)。

2 破産手続開始決定が出た場合,納期限までに全額を徴収することができないと判断されたときは,申告所得税等の国税について繰上請求(国税通則法38条)が,普通徴収の住民税等の地方税について繰上徴収(地方税法13条の2)がなされる結果,納期限が到来する前に,破産管財人に対し,交付要求が出される場合があります。

3 破産手続開始決定は,破産財団に属する財産に対する国税滞納処分の続行を妨げません(破産法43条2項)から,税務署が既に実行している差押え手続がある場合,そのまま進行することになります。
   そのため,例えば,破産手続開始決定よりも前に不動産に対する差押えの登記がされ(国税徴収法68条4項),かつ,差押調書謄本の交付が不動産所有者である滞納者に交付されている場合(最高裁昭和33年5月24日判決),差押えの効力が生じていますから,国税徴収法に基づく公売処分が続行することとなります。

4 滞納処分による差押えは,督促状が発せられた日から起算して10日を経過した日までに滞納中の租税を完納しない場合に行われるものです(国税通則法40条,国税徴収法47条1項1号,地方税法68条1項1号等参照)。
   よって,督促状が滞納者に送達されていない段階で,突然,滞納処分による差押えがなされることはありません。

第5 給料差押えの場合,裁判所からの郵便物の受け取りは拒否した方がいいこと等

「強制執行に対する債務者の対抗手段」に移転させました。

第6 破産手続中の強制執行はできないこと

1 破産手続中,破産債権者は破産債権に基づいて債務者の自由財産に対しても強制執行をすることはできません(最高裁平成18年1月23日判決参照)。

2 強制執行一般に関しては,「判決に基づく強制執行」を参照して下さい。  
1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)
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